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毎日読書メモ(249)『枕もとに靴 ああ無情の泥酔日記』(北大路公子)

昨年以来マイブームの北大路公子、ようやくデビュー作となる『枕もとに靴 ああ無情の泥酔日記』(増補新装版、寿郎社)を読んだ。寿郎社は札幌の出版社。札幌でフリーライターをしながらウェブ日記を書いていたモヘジ(当時のハンドル)を発掘し、北大路公子というペンネームをつけ、『枕もとに靴』を刊行し、それがその後の活躍につながった模様(公子、は日本ハムに由来しているそうだ)。
(元々は上正路理砂というペンネームで活動していたようだ)
ブログ以前に、ブラウザで日記を書ける日記サイトが色々あって、そのひとつのエンピツという日記サービス(わたしも使っていた)で書いていた日記が、じわじわと読者を増やし、ライターとしての北大路公子が花開いたらしい。2001年の日記から選んで構成した「三十七歳の日々」と、2002年の日記から構成した「三十八歳の日々」。虚実ないまぜの日記、どこまでが創作でどこまでがリアルかわからない、不思議な日記。タイトルは、「朝起きたら、なかなか記録的な二日酔いで、そのうえ枕もとには靴が置いてあったけど、あれはなに? 靴は前日の新聞紙の上に乗せられ、つま先を南側に向けて、正しく両足を揃え、紐がほどけかかっていた点を除けば、全体的には大変きちんとした印象である。(中略)その瞬間、ふと自分の姿に目をやると、あら不思議、きちんとパジャマに着替えているではないか。そこまでできるんなら靴なんて運んでくるなよと、おのれに腹を立てながら鏡を見るとなんと化粧も落としている。もちろんコンタクトもはずし、あまつさえ洗浄までなされたうえ、洗面所のレンズケースにおさまっている。え? もしかして私、酒などやめずとも、まだいける?、と、とたん思ってしまった後悔と反省と悲しみと希望の朝」(pp33-35)、という、いや、わたしは枕もとに靴を置いていたことはないけど、酒を飲みすぎた翌朝の後悔の気持ちはよーくわかるよ、という、エッセイに基づいている。なんで飲んじゃうんだろうねぇ。と思いつつ、でも、酒飲みじゃない人も、読んだらたぶん一緒に笑ってくれると思う。
これより後の時期のエッセイを先に読んでいたので、当時は妹さんもまだ独身で実家にいたのね、とか、ヤギという彼氏がいたのね、とか(ここは虚か実か、読んでいてわからなかった)、実家で介護をしていた祖母の思い出話なども多く(しかし祖母から聞かされたという話の中にも多くのブラフが)、感慨深い。自分と家族の対話、飼い始めて13年目に、突然「たろう」から「斎藤くん」に改名させられた飼い猫の話。友人との長電話や、友人の子どもとの交流。飲みに行った先での酔態(東京までオフ会に行って、記憶をなくして公開するキミコとか、色々色々)。部屋が片付かない状況とかもうんうんうんうんと共感しながら読む。深掘りされた日常の様子は、「三十八歳の日々」に入り、一部幻想的な様相を呈してくる。北海道独自の不思議な風習?、と一旦信じかけたような季節の行事とか、彼女が見たり関与したりした事象の様子を読み、文章力の高さに感銘を受ける。ただのお笑いではない!
当時から佐藤浩市推しだったのね、というのはわかった。しかし全体として、時代感は殆どない。携帯電話が二つ折りだったこと、テレビ番組はビデオ録画していたことくらいか。そんなん誤差の範囲内や。
あとがき代わりに、エンピツの日記の愛読者だったという山本文緒との対談。すごいため口で、読みながら大笑い。大笑いしながら泣いちゃう。この本の続編の『最後のおでん 続ああ無情の泥酔日記』に、対談の続きが出ているようで、続けて読みたい。
今回も、読んでいて、あーお友達になりたい!、と思った。一緒に飲みに行きたい! リアルの北大路さんは現在闘病中で大変そうだが(Twitterをフォローして読んでる様子によると)、早く元気になって、楽しいお酒を飲んでほしい。

これまでに読んだ北大路公子: 頭の中身が漏れ出る日々 いやよいやよも旅のうち 生きていてもいいかしら日記

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