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『貿易ゲーム(日本版)』の誕生

 ワークショップの面白さに魅せられたぼくは、ボランティアとして関わっていた開発教育協議会(現在の開発教育協会)主催の開発教育全国研究集会で初めて「貿易ゲーム」をやらせてもらいました。1994年の夏のことです。
 割り当てられた部屋がとても狭くて窮屈だったので、机とイスをすべて運び出し、参加者は全員、床の上に座ってゲームをやったのですが、ものすごく盛り上がり、会場は興奮のるつぼと化しました。
 “しかけ”がしっかりしているので、ファシリテーターが慣れていなくても、参加者がどんどん積極的に動く。本当によくできたゲームだと感じました。

 「貿易ゲーム」は当時、開発教育・国際理解教育の専門家向けに書かれた2、3の専門書の中で、その概要(主にゲームのルール)が紹介されているだけでした。しかし、Christian Aidが発行したオリジナルを入手してみると、そこにはゲームのルールだけではなく、ゲーム中のファシリテーターの役割や振り返りのポイント、援助のあり方に関するメッセージまで書かれていることがわかりました。
 オリジナルの冊子はわずか8頁です(その後、12頁になり、現在はウェブサイトからダウンロードできるようになりました)。これなら翻訳できると思いました。
 そして、1994年の秋に英国に行ったのをきっかけに、当時、Christian Aid でインターンをしていた重田康博さん(元・宇都宮大学国際学部教授)に仲立ちしてもらいながら翻訳作業を進め、1995年の春、ぼくが勤めていた神奈川県国際交流協会(現在のかながわ国際交流財団)から『貿易ゲーム(日本版)』を発行することができました。
 オリジナル版にあった、バングラデシュのジュート製品を扱うフェアトレードのエピソードは、日本ネグロスキャンペーン委員会にいらっしゃった長倉徳生さんにフィリピン・ネグロス島のフェアトレード・バナナのことを書いてもらって差し換えました。また、最後のページに載っていた、キリスト教精神にのっとって社会正義を説いた一節は、そのままでは日本の教育現場にはなじみにくいと判断し、「ふだん当たりまえだと思っていることを、別の角度から見てみること、発想を変えてみること、絶えず問い直す努力をすること・・・」という、ぼくの文章に替えました。他にも何ヶ所か日本の事情に合わせて書き変えたところがあります。

 この「日本版」を出すにあたっては、Christian Aidに了解を求める手紙を送ったのですが(まだ電子メールなどない時代です)、翻訳して出すのは構わないがパテント料を払ってほしいと言われました。いったい、いくら取られるのだろう・・・とドキドキしましたが、先方が提示した金額は「1ポンド」(約150円)でした。
 公正な社会の実現に向けて活動する英国NGOの “粋なはからい” でした。


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