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選手のメンタリティは文化によって異なるのかースポーツ心理学で未発達の分野ー

サッカーのワールドカップを観戦すると、よく言われるのが文化的に特有の戦術です。イタリアのカテナチオ、イングランドのキック・アンド・ラッシュ、スペインのティキ・タカなどがその代表例ではないでしょうか。文化的伝統的な戦術があるとするならば、文化的に特有のメンタリティもあるのでしょうか?戦術が選手の身体的、技術的、精神的特性によって決定されることを考えると、そういうこともあり得るのではないか、というのは考えうる仮説かと思います。

この問題を考えるために、サッカーやスポーツの話を置いて、文化心理学について話してみます。文化心理学のなかでは、文化心理学者であれば読むべき論文がたくさんあります。その中でもHeine et al. (2010) の論文は明らかにその論文の一つです。彼らが述べた内容は次のようなものです。

心理学の論文はたくさんあるが、そのほとんどが北米の機関によって発表されており、その研究結果がアフリカ、アジア、南米含め、全ての人間に適用できると仮定している。もっと言えば、多くの論文が北米の大学生からデータを収集し、その研究結果が世界の全ての人間に適用できると仮定している。この仮定は果たして正しいのか?それとも過度の一般化を引き起こしているのか?

Heine et al. はこの問題について、主要な心理学のジャーナルに載っている研究の研究参加者の国別の割合と論文を発表した研究者の国別の割合を調査することにしました。驚くべきことか驚くべきことでないかは別として、結果は次のようになりました。

  • 主要な心理学のジャーナルに掲載された参加者の96%が西洋諸国から来ている

  • 主要な心理学のジャーナルに掲載された第一著者の73%がアメリカから来ている

  • 主要な心理学のジャーナルに掲載された第一著者の99%が西洋諸国から来ている

これらの結果に基づいて、Heine et al. は心理学のジャーナルに参加している参加者は「WEIRD」(Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic)と呼ばれるグループから来ていると主張しました。この結果には様々な観点で重要な意味がありますが、その中の一つは、全ての人間に論文の結果が適用できるかを確認するために、他の国々からデータを収集する必要があるということです。実際、文化心理学者たちは1990年代初頭から感情、認知、行動、動機づけにおける文化的な違いを明らかにしています。

この論文は2010年に発表され、文化心理学の意味を見出すものとなりました。もし論文が1000回引用されたら、優れた研究者だと言えると個人的には思っておりますが、この論文は10000回以上引用されており、この引用数はこの論文の影響が大きいことの証拠ともなっています。

さて、ここでスポーツ心理学に注目しましょう。この一般的な心理学ジャーナルの傾向はスポーツ心理学でも見られるのかという疑問が浮かびます。スポーツ心理学のジャーナルは文化的に多様なのかということです。結果、まったく同じパターンがDorsch et al.(2023)によって明らかにされました。Heine et al.(2010)が発表されてからほぼ15年後のことです。選手の民族性を報告した論文のうち、75.57%がアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアからのものでした。次に続く国々はドイツ、フランス、中国、スペインで、中国以外の国々は全てWEIRD諸国からのものです。この論文は心理学の一般的な傾向がスポーツ心理学にも適用できることを明らかにしました。

これらのことから、この世界で発表される心理学研究のほとんどが北米から出ていることがわかりますが、残念ながらスポーツ心理学においては文化の影響が十分に検証されていないと言えるかと思います。これは主に、多くのスポーツ心理学者が1つの文化圏に属していて、文化の影響に対してあまり敏感ではないためだと考えられます。また、異文化間の研究には多額のコストがかかります。

  • 研究者間で二国間以上の強力なネットワークが必要

  • データ収集のために二国間以上の強力なネットワークが必要(例えば、チーム、コーチ、そして時には選手の両親からデータを収集するための許可が必要)

  • アンケートを翻訳する必要(バイリンガルが必要)

  • など...

そういった中で、ブログの最初の、スポーツ選手のメンタルは文化によって異なるのか、という質問に戻りましょう。私の博士号の研究では、日本とカナダのアスリートからデータを収集しましたが、私の推測では、アスリートの中には心理的普遍性と文化差がある、というのが今のところの考えです。つまり、ある精神的側面では、文化に関係なくすべてのアスリートが同じメンタリティを持っている一方で、他の精神的側面は文化的に異なる。ゆえに、どこに心理的普遍性が存在し、どこに文化差が存在するのか。ということを考える必要があるでしょう。例えば、このモチベーションはスポーツ選手全員が持っていて、しかしながらこの種のモチベーションは文化的に異なるものだ、といったことです。

私の文化的変動の研究の一つである日本とカナダのアスリートの動機づけに関する研究は現在、査読中ですので、それが発表されたら、私も私の研究を紹介し用と思います。今のところ、アスリートのメンタリティに文化差が見られるなら、将来的には現在行われている心理的介入やサービスも文化に適した形で作成し実施する必要があるかもしれません。私の論文が将来注目されるかどうか見てみましょう。つづく...

*この記事は私の英語版のブログである下記のページをChat GPTで翻訳したものを参考に作成しました。

参考文献

Henrich, J., Heine, S. J., & Norenzayan, A. (2010). The weirdest people in the world? Behavioral and Brain Sciences, 33(2-3), 61. https://doi.org/10.1017/S0140525X0999152X

Dorsch, T. E., Blazo, J. A., Delli Paoli, A. G., & Hardiman, A. L. (2023). We know what we know, but from whom did we learn it? A sociodemographic history of participant characteristics and reporting practices in sport and exercise psychology. Psychology of Sport and Exercise, 69, 102504. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.psychsport.2023.102504

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