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雑記:エノコロ庭園設計室って何?

エノコロ庭園設計室の庭造りは、在来植生を基本としています。今回は、なぜ在来植生の庭造りをしようと思ったのか、その経緯について書きます。

私はもともとは園芸店に併設された庭工事の部門で働いていました。そのお店は、店舗面積がかなり広く、植物の品揃えも豊富で、珍しい植物も多くありました。このお店で働いていた時は、お客様のご要望に応じた植物の提案をしていました。リゾート風のお庭やイングリッシュガーデン、茶庭、アンティークなお庭等々・・・ここで様々なテイストに合わせて、お庭の設計をしたことは私の中で大きな財産になっています。お客様のご要望に合わせた植物がなかなか育たなかったり、冬の寒さでやられてしまったり、庭造りの難しさもありました。

このお店を退職した後、私は1年間ワーキングホリデービザを利用してニュージーランドに滞在しました。そこでは現地ナーセリーで働いたり、woofingやいくつかのボランティア活動をして過ごしました。
南半球に位置するニュージーランドは、みなさんご存知のように日本とは四季が反対です。日本が夏だとあちらは冬、日本が冬だとあちらは夏。サンタクロースは雪の中をソリでやってくるのではなく、サーフィンをしてやってくるわけです。
季節が逆というだけではありません。夏は高温多湿でじめじめした日本とは違い、ニュージーランドの夏は乾燥しています。そして冬は湿度が高い。気温の面では日本の方が暑くて寒い印象がありますが、それよりも、湿度が全く違うのです。

ニュージーランドの風景。ニュージーランドは入植とともに原生林のほとんどを失った。

カラッとした夏は人間にとっては過ごしやすいものですが、植物にとっては水分調達が大きな課題となります。そのため、ニュージーランド原産の植物は、葉を固くして水分の蒸発を防ぐように適応しました。植物によっては、この過酷な夏に休眠するタイプのものもあります。
日本の夏は、植物が旺盛に繁茂する時期です。近年は酷暑の時期が長すぎて、植物が傷むこともあるのですが・・・

ニュージーランド原産の植物は、日本人の我々から見ると大変ユニークで魅力的に見えます。この植物を使って植栽をしたら、おもしろそう!と思います。ですが、実際には異なる環境では、原産地のような姿を見せてくれないのです。
ニュージーランドにはピットスポルムという樹木があります。これは日本のトベラと同じ仲間で、日本では寄せ植えや切り花にも使われることがあります。常緑樹ながら柔らかな雰囲気で、とても素敵な樹木なのですが、日本で地植えするとなかなか大きくなりません。
で、このピットスポルムのすごい生垣をニュージーランドで発見しました。私はすごーい!!と思ったのですが、Kiwi(ニュージーランド人のこと)に話したら、「boring tree(つまらない木)」と鼻で笑われたのです。

日本の街路にはツツジがたくさん植わっていますよね。鮮やかな花がたくさん咲く素敵な樹木なのですが、なんというか、我々にとっては見慣れた樹木ですよね。多分、ピットスポルムも我々にとってのツツジのような感じなのかなと考えました。
その後、ニュージーランドから日本へ帰ってくる時、ついでにアジアの国をバックパックしながら回ってきたのですが、日本ではちまっとした観葉植物として扱われている植物が、とんでもない大きさになっているのを目にしました。日本では高そうなランが雑草のように樹木にくっついていたり。

植物の価値ってなんだろう?どこかの国で自由気ままに生えている植物を、環境の違う国に持って行くと急に高い価値がつきます。そんな場所では、環境が違うので神経質にならないと育ちません。温室に入れてみたり、湿度を調整してみたい。すると手間がかかることで、さらに価値が高まります。それでも原産国で生えていた時のように美しい姿は見せてくれません。

日本に帰ってくると、日本の見慣れた景色、日本だけの景色を見ることができます。ずっと日本に暮らしていた私には海外に比べて「boring」かもしれませんが、これこそが日本の景色なんだと思います。植物に価値をつけるのは人間の都合で、路傍の雑草も美しい。適した環境で、リラックスした姿を見せる植物が一番美しい。そう思うようになりました。
そんな環境に合った植物をわざわざ抜いて、海外の植物を植えて、うまく育たないと苦労するのって、なぜなんだ?と考えました。

今はエノコロ庭園設計室という屋号で、お庭の設計施工を行っています。エノコロとはエノコログサ=ネコジャラシからとりました。勝手にそのへんに生えて増えてしまう雑草の代表格という感じですが、これが大変かわいい。子どもも大好き。ついつい摘み取ってしまいたくなります。ネコジャラシという名前も良い。こんな素朴な植物を楽しめるような庭造りをしたいと思って、エノコロ庭園設計室という屋号にしました。ロゴマークはエノコログサの花束です。

園芸品種にしかない良さというのももちろんあるので、全てを否定しているわけではありません。やはり第一は環境に合うかどうか、育てやすいかどうかというのが大切だと思います。在来種だけ、というわけでもなく、園芸品種を組み合わせながら、管理しやすくて、花も楽しめるようなお庭を造りたいと思っています。