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メートルとヤード


猛暑の夏。最高気温が37℃超えという日も珍しくありません。
華氏で表すと100℉。この数字、摂氏の感覚だと沸騰温度です(笑)
考えてみると、一般的な温度単位は摂氏と華氏の二つが存在しています。
世界をどの様に測り数値で表すか。
今回は、この単位についてのお話です。

国際単位系

日本をはじめ世界標準として使用される国際単位系、いわゆるSI単位系では気温をセルシウス温度(摂氏)で表します。が、彼の国米国だけは、なぜか頑なに華氏表示です。(以前はJamaicaも、数少ない華氏を使う国だったのですが、最近は摂氏に変わりました)

【余談】 水の凝固点と沸点を基準に十進法で目盛りを刻んだセルシウス温度に対し、華氏については、ドイツの科学者Fahrenheitが酷く寒いと感じた気温を0℉、自分の体温を100℉としてその間を12等分し、さらに8等分して目盛りを刻むという、科学的なんだか非科学的なのかよくわからない方法で考案されたという逸話があります。(なので、摂氏⇔華氏の変換が実にややこしいことに)
単位系には科学的なセルシウス温度を使うべきじゃないかと個人的にも強く思うのですが…

零度を切る寒さという文学表現も、単位は摂氏か華氏かで随分と意味が変わります。でも、わざわざ摂氏零度と書くのもなんだか野暮ですので、産業界だけでなく人文学の世界からもぜひ、彼の国にSI単位系の採用を訴えて欲しいところです。

さて、普段の生活ではあまり気にも留めない単位系ですが、業界によっては悩みの種。時に大きな問題を惹き起こします。

航空業界はヤード・ポンド法

たとえば、航空産業は米国中心の世界なので、この世界の単位系は今でもヤード・ポンド法が基本です。飛行距離の単位はメートルではなくマイル、それもnautical mile(NM)ですし、速度はノットで表します。

世の中がSI単位系に移行した今も尚、NYまでマイルを使ってタダでゆけないかなぁ…とか、誰もがこの単位を素直に受け入れているのは実に不思議でして、ひょっとして皆さん、1 mile = だいたい1kmぐらいでしょという具合に、超大胆に換算してるんじゃないかと疑っています。
(ちなみに1 NM=1852mです)

飛行機の世界は、BoardingとかCabin、Pilotという言葉が示す様に、船の世界の習慣が多く引き継がれた世界です。測距についても、地球の緯度1分の距離である1NMを基準に、1時間で1NM移動する速度を1ノットとした航海用の単位系をそのまま適用しています。大陸間を飛ぶ飛行機の航法計算には確かに便利な単位です。
ですが、厳密さが要求される機体設計や運用計算に、かなり適当なヤード・ポンド法(※)を使うのは一体どういう訳なんだと首を傾げてしまいます。

(※) SI単位系は、昔はメートル原器を基準としていましたが、今では物理的に厳密な基準へと再定義されています。現在のメートルの定義は、セシウム133原子の振動周波数(定義はもっとややこしいのですが割愛)の9,192,631,770倍の時間を秒(s)として、299,792,458メートル毎秒という光の速度(ざっと時速約30万km)を基準に、1光秒に進む距離を1mと定義しています。
一方、ヤード・ポンド法では1ヤードの定義を「0.9144m」としていて、結局SI単位系が基準になっています。コンピューターが苦手とする小数点以下四位まで使う実数を単位にするなら、いっそ整数で表せるSI単位系を使えばいいのにと、いつもエンジニア視点で思うのですが、彼の国は頑固ですねぇ…

単位系の混在は事故のもと

さすがに航空業界でも最近は部品調達の国際化が進み、設計図面上にはインチ(in)とミリ(mm)の両方が併記されていますが、組み立てや整備に使用される工具は、今も変わらずインチ単位のツールです。
現場作業で二つの単位系が混在することは、誤認や計算ミスの原因となるため非常に好ましくなく、今でも致命的な事故や失敗は後を絶ちません。

燃料の比重換算を間違えて計算し給油したため、飛行中に燃料切れ(!)になった1983年のエア・カナダ143便事故や、二つのチームの間で単位系が共有されず、間違えて低過ぎる火星高度に投入、約130億円もする火星探査機を墜落させてしまった1999年のNASAの失敗は特に有名です。
いずれの事故も、単位系の誤認という初歩的なミスが原因で発生しています。

あれ程徹底的にロジカルに考え追求する米国が、これ程はっきりとした失敗を重ねながら、未だに単位系の混同を(というか、特殊ルールを)なぜ許し続けるのか理解し難く、一度彼の国の関係者と、とことん議論してみたいところです。

日本の独自単位系 : 尺貫法

かくいう日本も、昔は単位系として独自の尺貫法を使用していました…というか、今も使っています。
例えば、畳の大きさは基本6尺x3尺、土地の広さの単位も「坪」です。
お米やお酒の「一合」や「一升」は、今でも毎日使われています。蕎麦屋で注文する際、さすがに「澤乃井を360mlお願いします」とは誰も言いません。でも、お品書きには、生ビールの大ジョッキはなぜか750ccと記されていて、誰も、生を4合で!とは頼みません。
このあたり日本も、絶妙なごちゃ混ぜルールを運用しています。

こんな風に日本の生活に深く馴染んでいる尺貫法ですが、国際社会では残念ながら通用しません。そこで産業立国を目指す政府は、大正時代(1921年)に度量衡法中改正法律を公布し、メートル法への移行・統一を図ります。が、巷では反発も大きく、方々で尺貫法が使われ続け、上に掲げたとおり今も各所で残っています。例えばプロ野球選手名鑑では、1950年代まで選手の体重・身長は尺貫法で記されていました。なにやら力士一覧といった趣ですが、当時の感覚ではそれが自然だった様です。

gやm、℃といった、日頃何気なく使っている単位ですが、改めて考えてみると色々な背景や歴史を背負っていて、実に面白いですね。

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