【これこそあるべき実写化の姿】実写版『十角館の殺人』

角島へいらっしゃった皆さん、ご機嫌よう。

先日ついに配信が開始された、実写版『十角館の殺人』はすでにご覧になっただろうか?

原作の知名度は高いが、再現が難しいという事情から何十年も映像化を見送られ続けてきた本作が、満を持して実写ドラマ化するという事で一時期話題になったのは記憶に新しい。

実際に私も「あそことかどう再現するつもりなんだ?」と色々と適当な予想を並べ立てたりもした。
前回記事※ネタバレ注意!

今回は、その予想も踏まえた上でつらつらと感想を綴っていこうと思う。
前回同様、十角館に関しては容赦無くネタバレしていくので、原作・コミック・ドラマのいずれも未履修の場合は今すぐに記事を閉じる事をオススメする。





では、ここから感想パートだ。

まず見る前に思ったのだが、全5話というしっかりした尺が確保されていることにまず驚いた。

ミステリは大体映画一本でまとめられがちだが、そもそも文庫本一冊が二時間程度に収まるはずもなく、原作の何割かは無情にもカットされるという事が往々にしてあった。

そんな中で全5話、約五時間という尺の長さは、十角館という物語をより分かりやすく視聴者へと届けるのに一役買っていたのではないだろうか。
ここは配信ならではの強みと言える。

そして肝心の内容に関してだが、とにかく原作を上手いこと実写に落とし込んでおり、原作ファンとしてはこれ以上ないくらいの素晴らしい映像化作品だった。

個人的にはエラリィのキャスティングが絶妙だった。
コミック版だと、まさに探偵エラリイ・クイーンのイメージそのもの、といった知的かつスマートな印象が強く、これはこれで魅力的ではあった。

ただ、ヴァンと二人になっても露ほども彼のことを疑わず憐れにも殺人の汚名まで着せられてしまうという滑稽さがコミック版には足りなかった。

その点今回の実写版エラリイは完璧だった。
妙に芝居がかった鼻につく喋り方や、所々から感じる残念感、これこそが私が原作に見たエラリイの姿だ、と。

あとは何といってもヴァンだ。
結果だけ言えば、ヴァン=守須のメイントリックに関してはコミック版の手法を上手く活用したものだった。

予想の段階では、前例としては一番可能性があるとは考えていたが、映像だと流石に厳しいだろうと思っていた。

しかしこれがなかなかどうして結構良かった。
ヴァンとしての初登場時が完全に病人で、マスクと下ろした前髪で極力顔を見せないようにするという工夫がすごい。
原作既読組としても、かなり別人ぽさがあった。

まあこの部分については、十角館を実写版で初めて見るという人がどう思ったかの感想が無い限り、試みが成功しているかは分からないが、いち原作ファンの意見としては、名乗りのシーンの演出含めてとても良かったと思う。

ただまあ、ストーリーそのものはそこまで面白くはないという欠点もある。
シリーズの中では迷路館や時計館の方が圧倒的に面白いので、今回の実写化が上手くいってその流れでこれらもぜひ映像化にこぎつけて欲しいものだ。
もちろん、読者と作中人物の両名に対してアリバイを作るというメインのトリックに関しては、ミステリの一つの完成形だとは思う。

とにかく総じて原作へのリスペクトが感じられた良実写化なので、原作既読組にこそオススメしたい作品だ。
これを皮切りに、少し前の名作ミステリの映像化ブームが訪れることを願って止まない。特に学生アリスシリーズ。

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