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グローバル人材になって喜んでいる場合ではない

一般的に考えられている「グローバル人材」は、「英語が使えて英語圏ならどこでも世界を相手に仕事ができる人材」です。

でもこれって読み替えると「英語圏で就職ができる」というだけの最低ラインという意味ですよね?そこを目指してどうするのでしょうか?

世界のどこかの誰かから必要とされる(つまり仕事になる)には、あなたにしか出せない価値を創造していかなければならないのです。オンリー・ワンを目指さなければなりません

これからは世界規模で人材が流動します。離れた場所からでも仕事ができるようになっています。世界各国の優れた才能と、多様な考え方の人々と比べても、一歩ひいでた自分オリジナルのスキルや知識を持つことを目指しましょう。グローバル人材になって喜んでいる場合ではないのです。

真のグローバル人材とは

グローバル人材とは、世界で通用するスキルを身につけた人、ということのように思われていますが、実はそうではありません。日本で一般的に言われているグローバル人材は英語が大前提。つまりそれは英語圏で通用するスキルでしかありません。

世界には様々な国や文化があります。アメリカで通用するコミュニケーションの方法は(言語の違いを全く無視しても)中国では通用しません。中国には中国の習わしがあります。

アラブ諸国や戒律の厳しいイスラムの人たちと交流するには彼らの文化を理解し、日本の価値観や考え方などもある程度理解してもることが必要になります。

もっと厳密にいえば、日本では「欧米」とひとまとめに考えがちですが、アメリカ合衆国とヨーロッパの国々では考えや文化などは大きく異なります。アメリカ人の自信に満ちた[1]強力で尊敬されるリーダーシップも、多くの場合ヨーロッパでは嫌がられる傾向にあります。

地球を渡り歩いても活躍できる真のグローバル人材とは、
多様な価値や文化をわからないまでも尊重し、
自分との違いを認識し、
その中でどうやって協調していくかということに対して真摯に取り組め、
個人として社会に価値を創出できる人のことです

多様性を尊重する心を身につけるにはそこへ飛び込むしかない

私の場合、26歳でアメリカ勤務についた時、上司はインドで博士号を取ったインド人(いまでも親友としての付き合いがあります)、最も仲の良かった友達はメキシコからの移民2世、もう一人はでっかい家や車が好きな典型的な呑気なテキサス人でした。私が尊敬する工場のプロセス・エンジニアはアメリカ人の女性でした。多分Dow Chemicalの多様性を尊重する環境がよかったのでしょう。この頃から仕事では国籍や人種、性別を気にしなくなりました。

そして30才でP&Gに移りました。ここも多様性を尊重し、採用などで積極的に実行している会社です。いま私の秘書をしてくれている方はシンガポール人のイスラム教徒ですから今はラマダン期間。昼ごはんを食べずに仕事を続け、1時間早く切り上げて帰ります。それを認めるのは当たり前です。

インドや中国、シンガポールからの超優秀な若手が入社してくる環境にいると、年齢や経験年数、職階なども、私は一切考えなくなっています。だから自分が尊敬できる人を素直に尊敬し、その人から学ぶことができますし、仕事に必要な協力相手を広く探し見つけ出し、チームを組んで新しいプロジェクトを動かすこともできます。

多様性を尊重することが私の中で習慣化していると言えます。それは若いうちからそういった環境にいたことが大きいと自分では思います。

しかし日本にいると、いくら「多様性が大事だ」と声高に叫んでも、そういう環境ではありませんから、なかなか難しいと思います。今だに外国人は「外国人」でしょ?

私の知人には、日本に長く住んでいて日本国籍を持っている「元外国人」がたくさんいます。彼らからよく聞くのが、ちょっと日本語が外国訛りだったり、見かけが日本人でないというだけで「外国人」のレッテルを貼られるということです。これが現実です。

だから日本で「多様性」なんていうのは現時点では綺麗事でしかありません。ビジネススクールなどで頭では理解しただけでは全く意味がありません。多様性を尊重する心を身につけるにはそこへ飛び込むしかないと思います。つまり日本を飛び出すことです。

リーダーシップ4.0

先に、自由にチームを組んで新しいプロジェクトを動かすと書きました。組織の中で自由にチームを組み、自分たちが信ずるプロジェクトを動かしていくには、チームの皆がパーソナル・リーダーシップに長けていること、およびリーダーシップ4.0というモデルを自然に体現できていることです。

リーダーシップ4.0を簡単にいえば、全員がリーダーであるアメーバのような組織(Figure 1)でありながら全体が一つの方向性に向かって一丸として動くという、いわば理想の組織のことです。

リーダーシップ1.0は、いわゆる階層構造組織です。指揮命令系統と責任の所在ははっきりしますが、最下層の人の能力は限定的にしか活用されません。

リーダーシップ2.0は、グループの中が少しフレキシブルになっています。しかしグループ間の連携はあくまでも最上位のリーダーを経由してしか成り立ちません。こういう組織って今だに多いですよね。

リーダーシップ3.0は、リーダー(紫の人)も二人のチームメンバーとともに直接に実質的な仕事をします。そういう意味では階層の少ない、よりフラットな組織です。しかしこのリーダーが中心で、それぞれのグループの直接の連携はほとんどありません。

リーダーシップ4.0は、ここから大きく変化し、グループを超えて個人どうしが直接連携します。4つのグループはそれなりにグループとして機能していますが。

このような組織の中では、多くの人から自分の存在価値を認めてもらわなければなりません。そのためには*オンリー・ワン*になるしかないのです。

後半は余談になりますが、日本で一般的に言われているグローバル人材の定義がはっきりしないことを分析して見ます。

誤解を招くグローバル人材の定義

多くのサイトでのグローバル人材の定義は、どうやらこの文部科学省の「産学連携によるグローバル人材育成推進会議」[2]の定義に基づいているようです。以下のように定義しています。

世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間。

なんとなく分かったような気分になる定義ですが、何か腑に落ちないところがありませんか?なぜこれが「グローバル」なのかです。

では分解していきましょう。私がみる、「グローバル」に関連する言葉を太字にしました。

世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間。

つまり、この下線部分を集め私なりに定義すると、下記のようになります。

世界的な競争と共生が進む地球村の中で、日本人としてのアイデンティティを失わず、異なる言語、文化、価値の人たちと協力できるコミュニケーション能力を備えた人。

となります。コミュニケーション能力は敢えて言うまでもなく英語をはじめとする外国語でのコミュニケーション能力のことです。

それ以外の元の文に含まれる下記の要素、
広い視野
教養と専門性
関係を構築するための協調性
新しい価値を創造する能力
次世代までも視野に入れた社会貢献の意識
は、グローバルであろうがなかろうが、社会の中で意味のある価値を創造していくためには必要なことです。

私はこの中で「社会貢献」という言葉について広い意味として読み取るべきと考えます。つまり福祉や政治的リーダーシップに限らずビジネスで価値を創造することや、アカデミアで科学技術やより良い社会を築くための研究を行うことも含まれます。

文部科学省が、これらを「グローバル人材」の定義に含めているということは、これまでの日本の教育が、こういった点をおろそかにしてきたということに他なりません。

これとは少し違う定義に、最近では東京大学が国際総合力認定制度[3]というものを始めました。それによると、国際総合力とは、

1. コミュニケーションの力をつける
2. 自信を持って挑戦する
3. 自らを開き、多様性を受け入れる
4. 他者と協働し、リーダシップをとる
5. 自己を相対化し、国際感覚をもつ

だそうです。これもなんとなく分かりますが、なぜこれを「グローバル」と呼ぶのかがわからない点があります。

上記5点のうち、1、3、5が、私の言う「グローバル」に関するものです。

それ以外の2と4は自己認識やパーソナル・リーダーシップ、協調性、リーダーシップなど、グローバルとは関係ないもっと基本的な社会人として必要なことでしかありません。

ですから、これらの定義に惑わされないでください。グローバルに活躍するとはどういうことか、ということを明確に認識することができれば私のこのノートでの目的は達成したことになります。

真のグローバル人材とは、多様な価値や文化をわからないまでも尊重し、自分との違いを認識し、その中でどうやって協調していくか、ということに対して真摯に取り組め、かつ個人として社会に価値を創出できる人のことです。

Reference
[1] Schmitt, D.P., Allik, J., Simultaneous Administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 Nations: Exploring the Universal and Culture-Specific Features of Global Self-Esteem, /J. Personality and Social Psychology/, 89 (2005) 623-642, DOI:10.1037/0022-3514.89.4.623
[2] http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/02/14/1316067_01.pdf
[3]  https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/go-gateway/ja/index.html

Further Reading
McChrystal, S. (2015). Team of Teams - New Rules of Engagement for a Complex World, Portfolio Penguin, New York

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