見出し画像

龍と私と念力

【短編小説】

超能力が使えると、思うんです。

私と限らずね。


とある狭い道路には、歩道が無くて、自転車が通っても人が通っても、速度を落とさないばかりかバカみたいにクラクションを鳴らす車が居る。

おい邪魔だよ!どけどけ!との合図なのだろう。


一人の老婆が自転車で通る姿があった。
カゴには買い物袋が入れてあることから、近所のスーパーで買い物した帰りだったのかもしれない。


外は寒い。雪がちらついている。
ニット帽被り、小豆色のダウンコート、手袋をしている老婆は、少しヨロヨロしていて倒れないか心配になるほど慎重にゆっくり自転車を漕いでいた。膝が悪いような気がする。


そんな老婆の背後にクラクションを鳴らした車は、あぶねーよ!と言わんばかりにタイヤを大袈裟に湾曲させながら追い越し、その後、猛スピードで去って行った。


少し言葉は悪いが、
「は?狭いんだから徐行しろ。あんたの家族だったらどう思う?くたばれ」
と、心中で思ったその時、声が聞こえてきた。

「そんな心無い輩にはお仕置きですね、お嬢」

お嬢と言われるには相応しくもない私だが、当然だと言い返した。


私は、静かに呼吸を繰り返し、妄想に集中した。
私の妄想力は強い。念力だ。


あのやかましい車のボディに小石をぶつけてやり、おまけに10円傷も一周お見舞いしてやった。

後に同じような傷が車につくことだろう。


人と人というのは繋がっている。
これが因果だ。

悪行は、必ず誰かの念が飛んでいく。邪気だ。分かったか!


私はこの時、寒気がした。
その気持ちを見透かしたかのように、再び声が聞こえてきた。龍であると分かっていた。

「心配するな。邪気をとばしても正当に承認された場合には邪気返しは無効となる」


ほっとするのも束の間。

では、犬はどうだ?猫は?
迷っている。怯えている。
飼い主はあそこに居るのに、なぜ自分は家族の膝の上に座れないのだろうか。
なぜモノ扱いなのか。別々に引き裂かれてしまうのか。
寂しくて怖くて触って欲しいのに、なぜ一緒に居られないの?
あの子もその子も悲しそうに怯えているよ。
なぜ、世界が違うの?


私は龍に助けを求め、念力を強めてもらった。

龍は奇妙なことを考えた私を面白がって大きく旋回する。

龍の背に乗ることが出来た私は、日本の先頭に立って威張るだけで、動物の気持ちすら蔑ろにする何の役にも立たない人たちに、虫歯菌と口臭を念じた。治るまで10年だ。当分は口を開くな。良き行いをすれば5年にしてやる。


そして凍える動物たちには不思議と安心に包まれるオヤツを、虹の橋を渡ってしまった魂にはたくさんのお友達を。
不安で心配している飼い主たちには、祈りを送る人間愛とハチミツの飴で癒しを与えた。

きっと直ぐに良くなるだろう。
なぜなら、祈る人々がたくさんいるからだ。
集合体の超能力だ。
良き念力は運命をも好転させる。

そして悪党には、自然界の王であるミツバチたちが黙っていないだろう。


龍は、鋭い目を細め笑っていた。
「とんだ暴れ馬だな」と。
そんな私はウマ年だ。
「超能力だよ。地球平和のためのね」


この記事が参加している募集

私の作品紹介

今こんな気分

サポートいただいた暁には喜びの舞を心の中で踊りたいと思います。今後の活動のパワーになります。