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冷蔵庫を開けることは癒しです。

【ユーモアエッセイ】

それまで使っていた冷蔵庫より二回りほど大きなサイズの冷蔵庫を買ったときの話し。


納品日、家電リサイクル法の対象である冷蔵庫の回収もお願いしていた。


男性業者が古い冷蔵庫の回収作業に取りかかった後方で、私は、あ!マズイと心中で指先を噛んで青ざめた。


Fridgeezoo(フリッジィズー)という、動物の体裁をしたおしゃべりロボットを取り出すことを忘れていたのだ。


おしゃべりロボットとは、扉を開けると、様々な言葉を話す玩具である。

手乗り文鳥ほどの大きさで、冷蔵庫を開ける楽しみを提供してくれる優れもの。まるで冷蔵庫に住むペットのような存在と言ってもよい。


ストレス任せに缶ビールを取りに行くたび「こんちわー!」と言ってくれるし、疲れて買い物から帰ってきて品物を入れているときにも「何探してるのー?」と突拍子もないことを聞いてきて、憂鬱気分が一瞬で一変する。


冷蔵庫を開けることが楽しみになり、用事がないのに開けたりするときも多々あった。


彼は嫌がることなく、必ず私に話しかけてくれる。

本当に冷蔵庫に住むペットような存在で、私の心をピンクに染めてくれる可愛いロボットなのだ。


電池が切れるとプッツリ音沙汰が無くなってしまい、それはそれは寂しい気持ちになるため、彼専用の電池は、缶ビールと同等なほど最も緊要なものとなっていた。


私の手乗り文鳥は、もうかなり前に発売されたタイプのロボットで、現在売られている物とは機能も言葉も少々異なるかもしれない。


あの頃、こんな言葉を掛けてくれた。(種類に文鳥はない)

こんちわー!
何探してるのー?
早くしてよー!
溶けちゃうよー!



そんな大事なロボットを置き去りにしてしまった冷蔵庫の扉を、回収業者が事務的に開け閉めする。

その度に、喋るロボ太郎。


業者の方は慣れているのかな?
特に驚き笑うなどの反応は示さず、至極涼しい顔で作業をこなす。

その反面、私は色んな気持ちが交差し居たたまれずドギマギするも、気持ちを察知されない体を装っていた。



冷蔵庫の中の何をそんなに調べているのか、長い時間扉を開けている様子があった。

そこへ、
何探してるのー?
早くしてよー!
溶けちゃうよー!
こんちわー!
と、急き立てるように繰り返し喋るロボ太郎。



天を仰ぎ、失笑しそうになるのを堪えた私は、唇を噛んで鼻の下を伸ばして我慢することに精一杯だった。
時折、ロボ太郎に黙るよう念力を送ったが、そんなの無駄の一途である。


その間も業者は冷静さだけは失わず、自身の仕事を淡々とやり遂げ、私の家に立派な冷蔵庫が設置された。


一番に入れたのは、冷蔵庫ペットのロボ太郎だった。




最後までお読みいただきありがとうございました!
また来てね★


~おまけ~
今もアザラシくんのおしゃべりロボットを持っている。
電池が切れてしまい、長い間インテリア雑貨としての役目となっている。
久々に稼働させようと思う。



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