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朝のルーティン

日曜の夜と言えばサザエさん症候群。
そんな時にはいつでも波平がやってくる。
明日は仕事休みたいと思う私に、
「ばっかもーん!!」
と叱ってくるのだ。
これは勿論私の妄想だが、日曜の夜とは言わず、ココ最近では毎朝登場し、怠け心に負けそうになる私の尻を叩いてくれるのだ。
 
ああそうだな。いかなきゃな。でもあと一回だけスヌーズしよう……。
目覚ましは絶対起きねばならない一時間前から仕掛けてあり、案の定すぐにはベッドからは出られない。このアラームはダミーだと知っているからだ。
スヌーズは3度目となり、スヌーズにスヌーズを重ね、心の中で思うのだ。
 
「いつも頑張ってンだから、今日は休も。絶対休むもん!」
 
その日の私は頑なだった。
スヌーズの数すら忘れるほどに。
 
そしてついに波平が怒り出した。
 
「ばっかもーん!! 息子が遅刻するでしょうが!!」

はいはい、分かりましたよ……。
とりあえず私は、6時過ぎに家を出なければならない息子が学校へ遅刻するのはいけないからと、ベッドから這い上がり、息子を叩き起こした。
低血圧でくらくらするし、腰と膝が痛くておかしな格好で歩きながら、息子の名前を叫んだ。
弁当を作り始める。全然起きない。たまには自分で起きてくれ。私は声のボリュームを上げて弁当作りと朝食作りを併用しながら息子を起こした。
 
「次で起きて! 次で起きんかったら私はもう寝る!」
 
何度目かの息子の名前を大声で叫ぶ。
腰に響いた……。
 
「……あ~い。おきる~」
 
呻くように息子は起きるアピールをした。
ああもうこんな朝から逃げ出したいと悲観的になる。メダカの水槽だって朝一で余裕を持って見られなくなった。
なんなんだろう、地球の重力ってこんなにも重かっただろうか……。
ついさっきまで私は寝ていたはずだが、一日全力で働いたような疲れは何なのか。
今日一日この身体で働かねばならないのかと絶望感に苛まれる。
 
腰が痛かった。
膝も痛かった。
仕事に行けば、私の性分からして全力で身体を酷使してしまうだろう。

なんでなの? 私の身体は私が守ってあげなくて誰が守ってくれるというの……?

身体の痛みを無視して無理した結果、ぎっくり腰になって一週間寝込んだあの辛い日々を忘れたの?  もっと自分を大切にしなきゃ。
だからサボりなさい。いや、これはサボりなんかじゃない。痛いんだからサボりにはならない。溜まりに溜まった有給を堂々と取って休めばいいの。
 
そんな事を主張する私に、
「ばっかもーん!!」
と、波平が怒り出した。

「え!?  何がバカもん?  ちょっと今の話聞いてました?  私腰と膝を痛めてるんです! 休んで安静にすることの何がバカもんなんですか!?」
 
いつもバカもんと叱られれば腹をくくって朝のルーティンを走り出す私だったが、ついに私にも反抗期がやってきたらしい。
波平に逆らったのだ。
 
「え、え、え? キミ、腰がいたいの?」
 
波平はすっとぼけてたじろいだ。
 
「さっから言ってましたけど」
 
「そうだったかな? そうか。でも気力で何とかせねばならん時もあるのだよ?」
 
「今は昭和でなくて令和なんです。時代がもう変わったんですよ。昭和と令和の間には平成という時代もあったんです。それを越えての今、令和です。残念ながら時代は変わったんですよ」
 
波平は心なしか肩を落としたようだった。ただ一言、
 
「休むなら徹底的に、明日から良い仕事が出来るよう休みなさい」
 
カッコイイ台詞を残し、消えていった。
 
え、もう消えるの? と、私は拍子抜けしてしまった。
いつもの厳しいイメージの、あの波平からの優しい言葉が胸に突き刺さった。

あんなふうに優しく休みなさいだなんて言われると、なんだか逆に休めなくなってしまうじゃない……。

波平さん、尻を叩くだけの愛情しか表現出来ないと思っていたあなたが、まさかのムチじゃなく飴戦法?
 
まあいい。今日も仕事に行くとするか。

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