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【読書日記77】『脳天にスリッパ』『ハリセンいっぽん』

今回は2冊一緒にご紹介です。
浅生鴨さんの雑文集の
第3弾『脳天にスリッパ』と
第4弾『ハリセンいっぽん』。

一冊に収めようとしたら、
量が多くて収まらず
2冊に分けられたとのことですので
それじゃあ! と
2冊一気に読んだのでした。

■『脳天にスリッパ』『ハリセンいっぽん』

■浅生鴨著
■ネコノス文庫
■2023年1月
■各1000円+tax

2019年以降に、著者が
各雑誌やWEBメディアなどの
様々な媒体に寄稿したコラム、評論、
エッセイなどの小文と、
日常的にSNSなどで発信してきた言葉、
日記、書評、映画評などの中から
一部を抜粋したものをまとめた
人気の雑文集・第3弾(と、第4弾)。
( )内は引用者による付け加え

『脳天にスリッパ』の表紙に
「浅生鴨雑文劇場」とありますが
まさにそんな感じ。
雑多にさまざまな文章が放り込んである。

でも、全部「鴨さんの文章」で。
そりゃ、この2冊は
鴨さんが書かれたものをまとめたものですから
当たり前っちゃ当たり前なんですが。
鴨さんのさまざまな表情がそこにあって
底知れなさもちゃんと鎮座していて。
ひっくるめて
「鴨さんの文章だなぁ」と思うのです。

本書は「雑文」と称されているように
媒体や内容によって
いろんな文体を使い分けたり
口調や色合いを変えたり。
果ては、字体どころか
文字配置まで遊びの一つになってたり。
バラエティ豊かというか
ごった煮というか、闇鍋というか。
そんな感じ。

また、私は、
鴨さんが作られる本のファンなのですが。
何が好きって、
鴨さんが紙の本を
それが出来上がる過程すべてをひっくるめて
大切にしていらっしゃるのが
本からダイレクトに伝わるところなんです。

今回の本でも、
紙質がめちゃくちゃ好みですし
字体で伝え方を変えてるところも
うわぁって感嘆しきりでしたし。

鴨さんの作られる本って
そこに関わったひとみんなの思いが
ここにぎゅぎゅっと凝縮されて出来上がって
それを手にするだけで
「やっぱり紙の本っていいよね」って
にこにこできちゃうんです。

さらに、この2冊には
2019年以降の文章が集められています。
したがって、
今のこの状況下への言及もあります。

どのような未来を前提して
現在の日常を営んでいくのか。

このことについて、
目を背けがちな事柄をそっと見せながら
僕はこうするよと
ぼそりつぶやく心持ちの率直さに
ハッと我が身を振り返るのでした。

■するりと置く

エッセイやコラムには
いろいろなものがあります。

気持ちにぐぐっと刺さってくるもの。
新たな視点にハッとさせられるもの。
思考を縦横にじわっと広げてくれるもの。

鴨さんの書かれるエッセイやコラムは
そういった感覚以上に
「するりと置いていく」イメージが強いです。

日々の生活のなかで
一瞬もにょりとすることとか
「ん?」って思うことってありますよね。

でも、それを深掘りして考え出すと
多分、しんどいしめんどくさい。
だから、そのまま放置することがほとんどです。
もっと言えば、
見ちゃいけないものが見えてしまいそうと
本能的な怖さも感じる。

鴨さんの書かれる文章は
そういうものたちを
ふわっと取り上げ
やわらかなことばで語り
読む側の思考にそっと置いていきます。

ほら、ここにその問題の根源あるよ。
見ないフリしてるけど気づいてるよね。

イメージとしては、
Twitterで一時期よく見かけた
「聞こえますか……今、あなたの心に直接…」の
アレ、です(笑)

でも、時折そこそこな剛速球で
ストラックアウトな直球も投げてきます。
しかも、それ、
こちら側が受け止めざるを得ない
タイミングと角度を絶妙に見計らって。

もちろん、今回の2冊に収められているのは
そういった真面目な問いばかりではありません。
比率で言えば、
真面目に不真面目をやったもののが
多いような気もします(笑)
だから、読みながら
たまに小さく吹き出したりもします。

でも、だからこそ
不意にさしこまれる「日常な思考」が
ずんっとした重みをもって刺さるのです。

■容赦がない

もう一つ、ずんっとした重みの理由があって。
それは、「自問自答の容赦なさ」かなと。

この2冊は2019年以降に書かれたものを
集めていますから、
現在のこの状況下での思考も収められています。

そこで行われた「自問自答」。

自問自答って、
頭のなかでしている分には
ごにょごにょと混濁してることが多いですし
その混雑っぷりに耐え切れなくなったら
「うわぁ!」って放り投げることもできます。

でも、それを文字化し文章にするとしたら。

考えただけで、めちゃくちゃしんどいし
すさまじいまでの強さがないとできないって
軟弱な私などは思ってしまうのです。

もちろん、書かれたことばは
やわらかく、受け取りやすいものに
なっています。
ちゃんと、読む側に
重みをもって突き刺さる設計にも
なっていますが。

ということは。

それが書かれる前には
その自問自答は
ギラギラとげとげした原石のまま
鴨さんのなかで波打ってたであろうと
想像してしまい。
それに耐えきる思考の強靭さややさしさに
なんかもう「うわぁ」ってなるんです。

もちろん、これは
私が勝手に想像したものですから、
当たり前のことながら
「あ、そんなことないよ」と
微笑みながら躱される可能性100%です(笑)

でも、そんな風に想像してしまうほど
私にとってはズンっとくる文章たちでした。

読みながら、ぐるぐる巡ることばを
手書きで書き散らかしていたほどに。
その書き散らかしたことばに
自分でずんっとなってしまったほどに。

それくらい容赦のない自問自答が
そこにはあって。
今回読み終わった後、それらが
最も強く印象に残ったのでした。

■まとめ

浅生鴨さんの雑文集、
第3弾『脳天にスリッパ』
第4弾『ハリセンいっぽん』は
2019年以降に、さまざまな媒体で発表された
鴨さんの文章やつぶやき、日記などを
ごそっと集めたものです。

なかには、幡野広志さんの『ラブレター』の
制作過程などもあって
この本が大好きな私は
うはうはと読んでいました。

めちゃくちゃ(物理的に)手触りの良い本です。
また、内容も多岐に渡り過ぎていて
吹き出したり、「ん?」ってなったり(笑)
いろいろ考えたり、盛りだくさん。

一言で言えば、すっっごく良い本です。

一つひとつは短いですし
ちょっとした隙間時間に読むのにぴったり。
休憩時間のお供に、ぜひ。

■おまけ

鴨さんが編集された
『ラブレター』の感想はこちらに。

こちらもすっごく好きな本です。

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