見出し画像

パイ包みから聞こえたリンダリンダ|若手ポップアップで食べた【杉田周人さん、園部圭祐さん】

ある全寮制の農業高校に取材にいったことがある。

ちょうど新入生歓迎会があって、18時頃から軽音楽部の部室に生徒たちが集まってきた。

軽音楽部のバンドがかわるがわる数曲をやって交代していくなか、オオトリの軽音楽部部長率いるバンドのアンコールで、THE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」を演奏して、大盛り上がりで新入生歓迎会は幕を閉じた。

「リンダリンダ」は、THE BLUE HEARTSのメジャーデビューシングルで、1987年に発売されている。僕ですら10歳、演奏している生徒たちは生まれる前、なんならお父さんたちが熱狂していた世代かもしれない。

僕は中学でギターに目覚めて、バンド活動をしてきたこともあって、懐かし楽曲をこんなに年が離れた人たちが楽しそうに演奏して、聴いているのを見て、ロックっていいよなぁと感じたのと同時に、「リンダリンダ」という曲がもつ美意識というか価値観というのは、いつの時代も14歳から16歳の少年・青年たちのハートをつかむ、普遍的で真実を言い表した名曲なのだと感じた。

ドブネズミみたいに、美しくなりたい——。

ーーーーー

2023年5月に食べに行った杉田周人さんと園部圭祐のポップアップレストラン「Le sincérité」。Le sincéritéは、フランス語で「まごころ」や「誠意」などの意味である。

タテルヨシノ銀座やメゾンタテルヨシノ(大阪)を経て、現在はミシュラン二つ星で、2023年の「世界のベストレストラン50」で37位にランクインしたフォーシーズンズホテル丸の内 東京のフレンチレストラン「SÉZANNE」で働く杉田周人さんと、元「ラ・ボンヌ・ターブル」(東京・日本橋室町)で現在はフリーソムリエとして活躍する園部圭祐さんのコンビは、専門学校の同期だという。1995年生まれで今年28歳になる。

10品のコース料理と6品のアルコールペアリング。

若い人の料理を食べ、サービスを受けに出かけるのは、ライブハウスにパンクロックを聴きに行くような感覚に似ている。初期衝動の発露が料理やサービスにのってきたとき、日々の営業を繰り返すレストランにはない純粋な感動を覚える。

杉田さんがポップアップをするのは今回初めてということで、想いが大いにのっていたのもあっただろうが、それを差し引いてもあまりあるほど「フランス料理が大好きです」という気持ちが伝わってくる料理は、まさに発露というにふさわしい。

さて、「フランス料理が大好きです」というのが伝わってくるといったが、それを僕はどこで感じたのだろうか。一つは、必ず名のあるフランス料理がベースにあることと、その名のある料理のなかで、きちんと食材の良さを伝えたいという意図を感じとることができたからだろう。

たとえば「セトワーズ 蛍烏賊 春野菜 レモン」。セトワーズは、南フランスにある港町セートの郷土料理で、本来は魚介の煮込み料理だが、サラダ仕立になっている。ホタルイカは内臓を取ったホタルイカのなかにセトワーズが詰まっていて、塩レモンピューレ、レモンのサバイヨン、レモンヴィネグレットなどとともに盛り付けてある。

一見、最近のトレンドである多品種の野菜を組み合わせた野菜のメイン料理風の仕立てかと思いきや、食べるとしっかりとホタルイカにスポットがあたっていて、魚料理になっている。

メインの鳩とフォアグラのパイ包みは、「パイ包みを出したくてたまらない!」という杉田さんの欲望がほとばしる仕立て。キャラメリゼにしたモモ肉も添えてある。白ポルトベースのフォアグラソースと添えたソラマメのピューレが春らしい。

この料理に群馬県・土田酒造の「カン・ツチダ」を燗酒で合わせた園部さんのペアリングも、意外過ぎだけど、しっかりあっていてよかった。

パイ包みはセックスピストルズの「Pretty Vacant」やブルーハーツの「リンダリンダ」みたいな、みんなが一度は演りたいアンセムのようなものなのだな、と一人で妙に納得していた。

杉田さんは、現在ホテルレストランに勤務で週休2日だという。ポップアップは、貴重な休日を潰して開催している。「ホテルじゃ料理を学べない」なんて言われてるけど、休みの日を利用してポップアップやって、一生懸命料理して、セルフブラックで学ぶ。学びたい人は自分で成長できる環境を見つけてチャレンジしてるものである。未来のトップシェフはこんな環境から生まれそうだ。

ピサラディエール 鰯 新玉ねぎ
ケークサレ 春人参 生ハム
サンド 帆立 セロリ
セトワーズ 蛍烏賊 春野菜 レモン
カンパーニュ 胡桃 発酵バタークリーム
シヴェ イサキ 牡丹海老 新じゃがいも
コンソメ ホワイトアスパラ
アンクルート 鳩 フォアグラ
カン・ツチダ/土田酒造
テリーヌショコラ カラク イチゴ
ガレットブルトンヌ キャラメル ラム酒
園部さん(左)と杉田さん(右)
杉田さんが今回のイベントのコースを構想し始めた時に書いた手書きのメニュー。

11月6日(月)には3回目の開催があるという。すでに満席でキャンセル待ち中とのこと。僕は夜に食べに行く予定だ。

第3回 杉田×園部コラボレーション
フレンチペアリング 「Le Sincérité #3

日時:11月6日(月) 
ランチ  13:00開始 料金:15000円(料理8品、ペアリング4杯)
ディナー 18:00開始 料金:20000円(料理10品、ペアリング6杯)
各部 6組12名様限定
場所:千駄木露地 東京都文京区千駄木2-42-2

ーーーーー

11月に開設するFood HEROes MAGAZINEでは、今回のように30歳以下の飲食人のポップアップレストランの取材をしていきます。おたのしみに!

Food HEROes MAGAZINE、Food HEROes U-30 COMMUNITYの情報は、公式LINEでもお知らせしていきます。ぜひLINE登録をお願いいたします。

Food HEROes の公式LINEはこちら

Instagramも登録お願いします!こちら


料理人付き編集者の活動などにご賛同いただけたら、サポートいただけるとうれしいです!