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サンドイッチにもマリアージュ その地はリヴィエラまたはコート・ダジュール #4


 クロワゼット大通りを歩いていると、小雨が降り始めました。雨がやむまでゆっくり過ごすことにし、ホテルのラウンジで休むことにしました。このホテルのラウンジは広々としており、天井が高く、白い大理石の床が光を反射して、曇りの日でも明るい雰囲気です。


  サンドイッチとケーキを注文しました。ラウンジでは奥のテーブルで、若い男女が5~6人楽しそうに談笑しています。男性はスーツ姿で、女性は上品なワンピースという上品ないでたちです。窓際のデーブルでは、年配のカップルがゆっくりお茶を飲んでいました。彼らもまた、シルバーグレーの髪がおしゃれな紳士と、鮮やかな緑のジャケットに白いパンツ姿のご婦人という品のあるお二人でした。ガイドブックを覗き込み、何やら静かに相談しています。

 サンドイッチが運ばれてきました。このホテルのサンドイッチならパンもおいしいに違いないと期待し、まず、こんがりと焼かれたパンだけ、一口大にちぎって口に入れました。
 ところが、すぐに水分を摂りたくなるほどぱさぱさでした。焦げ目がついているから温かいと思ったら冷めていましたし、バターも塗っていません。期待外れでした。有名になりすぎると、中身はおざなりになることはよくあること。観光地化され、味がわかる人もわからない人も訪れるようになると、一流ホテルとはいえ、味のレベルが下がることもあるのかもしれません。添えられたマスタードと、マヨネーズの小瓶の蓋を開けながら考えるのでした。(一食分ずつご丁寧に瓶入りで提供することへの対価なんだわね、あのお値段は。)

 パンにマヨネーズとマスタードを塗り、口に運びました。
すると・・・。あのぱさぱさだったパンは、野菜の水分を吸い込んでしっとりし、バターの代わりにサーモンの脂分がコクを添えます。マヨネーズは、スーパーで販売されているものとは全く違い、口中がマヨネーズの味一色になるなんてことはありません。それほど酸っぱくなく、塩分も適度で、マヨネーズが主張することはありません。ただ、すべての素材の風味を乳化させるのでした。マスタードも、あのピリッと辛いよくあるものとは全く違いまいした。マスタードそのものの味はそれほど強くはありませんが、口に含んでいると、かすかに鼻にぬける香りが感じられ、馴染みのある野菜、サーモン、パンの味わいを複雑にします。
『マリアージュ』。今まで気恥ずかしくて、使ったことがない言葉でしたが、これはまさしく『マリアージュ』と呼ぶべきものでした。食材がすべて調和し、最高の味覚に到達するように計算されているのでした。

 デザートのラズベリーのパイはほどよい甘さでした。午前中歩いた疲れがすっかりとれました。料理、サービス、雰囲気とどれもとっても超一流でした。さすが5つ星のホテルです。ここは、カンヌのカールトンホテルのラウンジ。


雨は上がり、空が晴れてきました。さて、次はどこに行こうかしら。

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