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小さなカーボンで世界をカラフルに

蛍光塗料というと色鮮やかなものを想像するかと思いますが、中でも最近話題の蛍光体として量子ドットと呼ばれる材料があります。

量子というと何やら難しいものを想像されるかもしれませんが、なんてことはない半導体の小さな粒のことです。話題になるだけあって、世界を変えるユニークな特徴を持っている期待の次世代材料です。

しかし、一般的な量子ドットは半導体や金属化合物で構成されており、その中でもよく使われるカドミウムは人体や環境にあまり良いものではありません。

そこで、科学者たちは半導体や金属元素を使わずに量子ドットを作れないかと考えました。今回はそんな論文の紹介です。

炭素を使った量子ドット

さて、通常半導体や金属元素を使う必要がある量子ドットですが、いったい何に置き換えれば良いのでしょうか?

そう考えたとき、最もありふれた物質である炭素に着目されました。私たちの体も然り全ての有機物の主成分である炭素です。

この炭素を普通よりは少し大きいサイズの化合物にしてやります。この大きな有機化合物が量子ドットと同様の蛍光特性を持つことが明らかになったわけです。

参考文献より引用

安価で安全、環境にも悪くないという新材料なので素晴らしいですね。

とはいえ、量子ドットというのは様々な色にならなければ意味がありませんよね。今回作った量子ドットは赤色でした!と言われた場合、確かにありがたいけど、他の色はどうするの?ってなりますよね。

この研究で開発された炭素量子ドットのすごいところは、溶媒の種類や励起光の種類によって色を自在に変えられるという点です。

溶媒というのは、量子ドットが浮かんでいる液体のことですね。この液体の種類を変えるというのは非常に簡単であり、有力な方法といえるでしょう。

また、蛍光を発現するためには励起光と呼ばれるより強いエネルギーを持つ光が必要になります。例えば高いエネルギーを持つ光の例として紫外線が挙げられますが、この紫外線を当てることで蛍光体は特有の光を発します。

この励起光の波長、つまり色を変えてやることでも、蛍光の色を自由に変えることができるようです。

つまり、溶媒の変更と励起光のチューニングによって、かなり幅広い領域の色を再現することができるという優れものになります。

炭素を使ってここまでカラフルに色を作れるというのはとても面白い研究ですね。

参考文献より引用


形を変えても機能する炭素量子ドット

一般的に、液体の中で浮いていると安定して蛍光能力が発現する量子ドットですが、これが乾いて固体の粉になるとその特性がなくなってしまうことが多いようです。

これは凝集起因消光と呼ばれる現象で、とても一般的に起こりえる現象だそうです。

しかし、今回開発された炭素量子ドットは粉になってもまだ蛍光能力を保持していることとがわかりました。

実際に乾燥させて粉になった炭素量子ドットに紫外線を当てると、黄色く光り輝くいている様子が観察されました。

参考文献より引用

そして、もう一つ量子ドットには課題があります。それは液体でも粉でもやはり使いづらいという点です。

蛍光塗料を世の中で普及させようとしたら、もっと使いやす形にしてやらないといけません。その1つがゲル化です。

ゲルといってもスライムみたいなものから、自分で形を保てるぐらいの固さにすることができます。やわらかく成型するのが簡単なわりにしっかりしてるというのにはゲル化はかなり有力なんですね。

参考文献より引用

研究グループは開発した炭素量子ドットをゲル化することでより扱いやすい材料として進化させました。

ここまでやったら文句なしという感じの研究ですね。

最後に

今回は、様々な色を作ることができる蛍光体 炭素量子ドットを紹介しました。まさか炭素で量子ドットを作るとは!と思いましたが、確かに量子ドットとしての性質を持ち、これからの蛍光色素に大きなインパクトを与えるだろうなと感じます。

参考文献

Multicolor Nitrogen-Doped Carbon Quantum Dots for EnvironmentDependent Emission Tuning

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