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【指先サイズの工場を作る!】DNAを使ったナノマシーン

日本のものづくりを支えた工場は広大な敷地にたくさんの設備を用意する必要がありましたが、近い将来、狭い実験室の中に工場が誕生するかもしれません。

今回は、そんなナノ工場づくりの一端を担うナノテクノロジーを紹介したいと思います。

工場を支えるのはその中で駆動する設備、つまり数多の機械ということになります。そんな機械をナノテクノロジーで作ってしまおうという研究がDNAナノテクの界隈であります。

それが、これまで何度か紹介してきたDNAオリガミの技術です。この技術を使えば、ナノサイズの機械であるナノマシーンを作ることが可能で、それを効果的に組み合わせることでナノ工場をつくることができるというわけです。

ナノサイズの機械

今回紹介する論文では、ラック・ピニオンという機構をDNAとナノ粒子を使って実現しています。そもそもラック・ピニオンって何?ってなりますよね。

ラック・ピニオンとは回転運動を直線運動に変換する機構で、自動車などにも使われている有名な工場のようです。イラストを見ると、それほど難しそうな構造ではありませんが、これをナノの世界で実現しようとするとなかなか大変です。

下記サイトより引用

研究グループはDNA折り紙の技術を使って、このラック・ピニオンを実現したというのです。それでは一緒に見ていきましょう。

DNAを使ったナノ・ラック・ピニオン

イラストを 見るとわかりやすいと思いますがDNAでできた2本の土台とその間にナノ粒子が挟まっている様子がわかります。そしてこのナノ粒子にはDNAがくっついており、土台から出ているDNAともつながっている様子がわかります。

参考文献より引用

そして、この土台のDNAとナノ粒子のDNAはついたり離れたりすることができるようです。この特徴を使って歯車の回転を直線運動に変えるラック・ピニオンと似たような機構をナノの世界に作り出します。

このDNAを使ったラック・ピニオンでは間に挟まっているナノ粒子が歯車の役割を果たしますが、粒子自体が回転することが動力になるわけではありません。

ナノ・ラック・ピニオンでは、燃料としてDNAを使います。燃料がDNAってどういうこと?ってなりますよね。

DNAはその環境やDNAの種類(ATCGの塩基配列)により、安定な構造を作ります。つまり、新しいDNAを追加してやるとそれに応じて、これまでつながっていたDNAが外れて、つながっていなかった隣のDNAが結合を始めます。

このDNAの特性を上手に使ってあげることで、下の図のような機構を実現することができます。

参考文献より引用

簡単に紹介すると、もともと3, 4, 7, 8の位置でつながっていた粒子(図左)ですが、新しいDNAが追加されると4, 8の結合が外れて、新たに2, 6の位置でDNAが結合を始めます。

すると、ナノ粒子のDNAの結合位置が変わっただけですが、相対的に位置関係がずれてDNAの土台が横にスライドしますよね。

つまり、DNAを燃料として追加することで、ナノスケールで作られた機構が横にスライドするんです。


参考文献より引用


とても単純に思えますが、これを光学顕微鏡でも見えないような小さな世界で実現するのは本当に難しいんです。

さらに、機械であるかのようにロックをかけてスライドしないようにすることもできるようです。これもDNAが動かないように所定の位置に特定のDNAを結合させておくことで、可能になります。

ロックの数を変えることで、スライドのしやすさを変えることができます。このようにしてナノレベルで機械の動きを制御することができるようになるんですね。

最後に

今回はDNAを使ったナノマシーンを紹介しました。よくよく見ているとそんなにすごそうには思えないという方もいるかもしれません。だって、スライドするだけでしょ!って思いますよね。

ただ、このような技術を世界各地の研究者が発展させていくことで、小さなナノマシーンが次々と発明されていくはずです。近い将来、これらのナノマシーンを組み合わせることで、もっと本格的な機械が生まれるでしょう。

科学のスピードを考えれば50年も経たないうちに本格的なナノ工場が稼働すると思います。そんな夢のある研究の1つとしてみるととてもクリエイティブな研究ではないでしょうか。

参考文献

Gold nanocrystal-mediated sliding of doublet DNA origami filaments

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