見出し画像

虹色に輝くクモが光の世界を切り開く

みなさんはピーコックスパイダーと呼ばれるクモを知っていますか?

ピーコックスパイダーはその名の通りクジャク(ピーコック)のような鮮やかな体を使ってメスにアピールする珍しいクモの一種です。

このピーコックスパイダーのお腹の虹色はとても面白い光学特性を持っているもののその全貌はわかっていませんでした。

今回紹介する論文は、ピーコックスパイダーの虹色に光る腹部の秘密を解き明かして、新しい光学材料を作ろうというモチベーションの研究です。

それでは一緒に見ていきましょう。(ハエトリグモのようなかわいい方のクモですが、苦手な方はここでブラウザバックを推奨)

ピーコックスパイダーの秘密

ピーコックスパイダーの腹部の虹色模様は構造色と呼ばれるナノスケールの構造体によって作り出される色なんです。こうやって見るとまるでCGで作ったかのような色合いをしていますね。

参考文献より引用

構造色はこれまで何度か紹介してきましたが、モルフォ蝶やクジャクの羽、カメレオンの模様やマガモの頭といった様々な動物の体で見ることができます。

そして、ピーコックスパイダーの腹部はその中でも特に幅広い波長域の可視光を反射することができるという特性を持っているようです。

研究グループはこの特に幅広い波長、つまり赤から紫まで全ての光を反射できる特徴を調べるために、顕微鏡を使った詳細な観察を実施しました。

ピーコックスパイダーが持つナノ構造

ピーコックスパイダーの腹部にはまるで”うろこ”のような微細構造が観察されました。どうやらこの構造が虹色の秘密を握っているようですね。

参考文献より引用

さらに詳細な調査を進めた結果、翼型(airfoil)と呼ばれる構造であることがわかりました。翼型って何?って思われるでしょう。私も初め読んだとき、何それ?どんな形?となりました。

これは実際に写真を見てもらえたらわかりやすいですね。この形は飛行機の翼の設計になどに関係する形で、航空や流体の分野ではよく見られる形のようです。

参考文献より引用

そして、さらに面白い点としては、単なる翼型というわけではなく、よく見ると翼型の表面小さな突起がついてるところです。

こんな不思議な形を何も考えずに作り出しているというのもすごいですよね。


デフォルメするとこんな感じになるらしい(参考文献より引用)

研究グループは、この発見した構造をもとに、コンピューターシミュレーションを行った結果、確かに、可視光である赤から紫の光を幅広く反射する特徴があることが分かったようです。

ピーコックスパイダーのナノ構造を模倣した場合の反射強度シミュレーション
見る角度によって少しずつ色が変わるが、幅広い波長域の光を反射していることがわかる
(参考文献より引用)

見る方向によって、反射する色が変わる上に、一般的な回折格子と異なり、特定の波長の色のみを反射するというわけではないため、特徴的な虹色を示していたそうです。

人間が人工的に作り上げる回折格子は見る方向に応じて決まった波長の光のみを反射します。これはこれでとても重要な役割を果たすわけですが、ピーコックスパイダーは私たち人間が想像していなかったタイプの光を制御を知らず知らずのうちに行っていたということになりますね。

人工的に作られる回折格子の反射強度シミュレーション
見る角度によって反射される色が明確に区別される
(参考文献より引用)

さらにピーコックスパイダーの腹部には虹色に反射する機構だけでなく、黒いうろことその下にある黒いキューティクル層によって背景の散乱を減らすというさらに凝った特徴を持っています。

ちなみにピーコックスパイダーのメスは4色覚を持っていると思われるので、ダイナミックな虹色の虹彩の形で表示色を知覚することができると考えられているそうです。

これが本当ならピーコックスパイダーは私たち人類よりも光の制御にも感知にも優れているということになりますね。

最後に

今回は若干とりとめのない内容になってしまいましたが、ピーコックスパイダーの微細構造は人類が知りえなかった新しい光学材料のヒントになるはずです。

こうして、少しずつ科学が進歩していくのは本当に面白いですね。

今後も、いろいろな生き物が持つ不思議な特徴を理解して、私たちの生活に役立つ技術革新が期待できますね。

参考文献

Rainbow peacock spiders inspire miniature superiridescent optics

この記事が参加している募集

物理がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?