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日本語教師日記vol.1「やんちゃな学生の思い出」

自己紹介:日本語教師になったきっかけ

日本語教師のK.Matsuoです。日本語教師をしています。行政書士として日本語学校の設立準備に関わってきて、入国ビザ申請もやって、さあ学生が入ってくるぞというところでコロナになりました。当てにしていた仕事もどんどん吹っ飛び、どうしようかなぁと思っていたところで、日本語の先生の試験を受けてみようかなぁと思ったのです。
日本語教育能力検定に合格しましたが、いわゆる「420時間講習」という養成講座の類はまったく受けていません。赤いテキストを読み込んで、ひたすら過去問を解いただけです。日本語学校については、自分が設立したような学校ですから、コネ入社もコネ入社。採用にあたって模擬授業もなにもなく、いきなりデビューだったのです。

経験浅いまま、「やんちゃクラス」にどんどん放りこまれる日々

わたしはよく「やんちゃクラス」という言葉を使います。炎上するのは怖いので、「バ◯」クラスとは書けません。学生一人ひとりは素朴で、いい子で、かわいいのですが、集団になるとやんちゃになります。先生も次々に辞めます。ベテランの先生でも、クラスをまとめられません。こんなとき、私が代講代講で投入され、最終的には担任のサポートのような形でやんちゃクラスを卒業まで見ることになりました。
私は日本語教師の養成講座を受けたことがないので、「やんちゃな学生」をどのように教えたらいいのかを、養成講座で教えてくれるのかどうか知りません。しかし、ちゃんとした先生ほど、「やんちゃクラス」に絶望していくのを見ていると、おそらくは先生が教えてもらう機会はないのだろうなぁと思っていました。

「やんちゃな学生」とは

「やんちゃな学生」とは、入管も、文科省も、学校も想定してはいないが、実は日本を支えている留学生の大多数の学生のことを指します。彼らは「留学ビザ」で入国してきていますが、勉強する気はありません。正確には、「学校以外では勉強する気がない学生」たちです。世の中には「学校でも勉強する気がない学生」もいるようですが、幸い私が担当した学生は、授業が楽しいと思えれば、授業中はなんとかついてきてくれたので、私は幸せだったと思います。
とはいえ、宿題はまったくしない。テストはすべて隣を見る。どうせ国に帰るから日本語勉強しなくていいと言う。こんな学生に何を教えればいいのかと、まじめな先生は絶望してしまうでしょう。

留学生の3段階:「はい先生、ない先生、だいじょうぶ先生」

日本語教師になるための試験には、「ハネムーン期」、「ショック期」などというグラフで、留学生の心理を分析する理論が登場します。なるほど、実際にそのような感じだなぁと思いながら、私が提唱する3つの段階があります。
第一に、「はい、先生期」です。何を言っても「はい、先生!」です。「わかりましたか?」「はい、先生。」どうして遅刻しましたか?「はい、先生。」です。卒業するころの学生は言います。「先生、私は日本に来たばかりのころ、何もわからなかっただから、はい先生だけ言って頑張った。」これは正直な話ですね。
第二に、「ない、先生期」です。「かわいい服ですね。高いですか?」「高いじゃない先生」、「週末はデートですか?」「恋人ない先生」というように、ちょっとだけ文法を間違えているものの、言いたいことを少しずつ表現できるようになります。ある国の学生は教室にはいる際にゾロゾロと入口に立って「入ってもいいですか先生」「どうぞ」「入ってもいいですか先生」「どうぞ」「入ってもいいですか先生」・・・と永遠に続きます。日本人としては「失礼します。」と言えばいいところですが、国でならってきたのでしょう。1年くらいはこの癖が抜けません。私も悪いことではないと思うので、指摘せずにほっときました。卒業式の次の日のパーティで本当のことを教えたら、学生P君が爆笑していました。
第三には、「だいじょうぶ、先生期」です。「これ以上休むと出席率悪くなって、ビザでなくなるよ」「だいじょうぶ、先生」「赤信号は止まらないとダメだよ」「だいじょうぶ先生」「アルバイトの時間まもらなきゃダメだよ」「だいじょうぶ、現金・・・」といったものです。とにかく生意気になる時期。口癖は「おかしいですね」「日本人バカですね」「日本のルールおかしいね」いわゆる「中二病」の時期とぴったりあうような気がします。

「だいじょうぶ先生」まで、来れば実は大丈夫!?

「だいじょうぶ先生期」の学生はかなり生意気で、それこそ「やんちゃ」なのですが、実はここまで来た学生は見込みがあるともいえます。本当に学ばない学生は、大丈夫先生、という軽口も言いません。自律的に学習しようとしない態度には辟易しますが、かなり話せるようになっているので、条件反射で「はい先生!」しか言わない時期よりは可愛いです。

自宅学習は0。これが現実

2年間日本語学校に通い、JLPTのN3に合格して卒業した学生。アルバイト先でも評判で、惜しまれるようにして大阪から東京に旅立ちました。しかし、まじめなそんな彼も、自宅学習2年間で0時間だったそうです。
宿題を学校は出しました。しかし、授業が始まる前にやったり、当日に学校でちゃちゃっと済ませるだけ。先生が意図した通りに練習して、勉強した日は一日もなかったのです。一度だけ寮を見にいきましたが、各先生が工夫を凝らして作って配布したワークシートが、雑然と山積みされていて、復習した形跡はありませんでした。

日本に来た目的はアルバイト。だが、キャリアで成功したい気持ちも少しずつ芽生える

勉強はしたくない。楽しておカネもらいたい。考えることは同じようです。勉強は嫌い。日本文化も興味ない。学生たちはみな自分の国の音楽しか聞きません。日本のアニメもドラマも音楽も、彼らには刺さりません。日本人の私が昔に比べてテレビを見なくなっているのですから、彼らにも伝わらないのは当然でしょうね。
勉強する時間もない。文化に触れる時間もない。ひたすらアルバイト。彼らはアルバイトすればするほど、他の友人にマウントをとれるようです。◯◯さんは◯◯万円稼いだ。テストで何点取ったよりも、大事なことなのです。
先生がもっと勉強しなさいと言うと、「勉強いらない、先生」「日本語わからなくても仕事できる、先生」「卒業の紙いらない、先生」「国に帰るから覚えなくていい、先生」と次々に日本語教師の心を折ってきます。今はそう考えていていいが、いつかかならず考えが変わる。勉強しとけばよかった、もう一度学び直そうという時が来る。その時に思い出してもらえばいいと思ってこちらも耐えるんです。
将来何をしたいですか?「ビジネスしたいです。」どんなビジネスをしたいですか?「ビジネスしたいです。」の繰り返し。2年生の始めは、「ビジネス」というカタカナを禁止しました。取っ組み合いの進路指導の日々。勉強はしたくないが、日本で就職して成功したいという気持ちが少しずつ芽生えています。彼らのSNSはとにかく日本での生活のアピール、アピール、アピール。女の子は音楽に合わせてフンフン♪と歌います。日本人以上にステレオタイプな生き方を好むのでは?と思わせられるほど。

度重なるクラス秩序崩壊からの回復

私以外の先生の時に、何度もクラス秩序が崩壊しました。その度に事務局長や校長が助けに入って、秩序を回復。どうしてそうなったのかは、のちのエピソードに譲ります。
私はどのようにして秩序を維持したか。忘れないうちに書いておかなければなりません。

  1. 大声:やんちゃクラスを御するには、声量は絶対的に必要な要素です。喋り超えを叩き潰すほどの大きな声が必要。理屈もクソもありません。大きな声が出る先生が有利です。

  2. 下ネタ:やんちゃクラスの男子は、アルバイト先で教えてもらった下ネタを連発します。スケベです。変態です。テレビで放送できないようなことばかりいいます。これを黙らせるのに、「そんなことを言っちゃだめです」って言ったって、言うことを聞くはずがありません。私はどうしたか。学生が下ネタで来る時は、その次元を大きく越える次元の下ネタでカブせることです。学生は大爆笑し、恥ずかしくなり、やがてガスが抜けて勉強モードに戻ります。20代中心の彼らですが、実際は思春期の中高生のようなもの。こちらも子供じゃないんで、彼らがびっくりするくらいのネタはいつでもあります。日本のエロ文化を舐めるなよってくらいで、学生の下ネタを叩き潰せば、秩序は回復します。

  3. 仕事と金とビザ:やんちゃクラスの30歳くらいの男子学生に効果があります。私が若い頃にやったアルバイトのエピソードや、儲かった話、損した話。ビザをもらえた人の話、もらえなかった人の話。ビザが切れて、オーバーステイになって、収容施設でハンガーストライキをやったイラン人の話。この辺の話をすると、やんちゃクラスのやんちゃ男子の目はバキバキになります。

やんちゃクラスはどうせ家で勉強しません。日本語教師としては、カリキュラム通りに仕事をしたという「建前」が必要ですが、ぶっちゃけ遊んでいても学校にはバレません。明日の先生に引き継げるように、テキストのつなぎめだけしっかりしておけば、正直どうなろうと構わないのです。
0点で当たり前。80点の授業など求めない。20点か、30点か。50点も行けば、イチロー、オオタニレベルです。それくらいの気持ちでぶつかっていくうちに学生と心が通じて、授業ができるようになりました。

次回:やんちゃクラスだけはない「カンニングの実態」

「やんちゃ」が直ちに悪い学生ではありません。次回、やんちゃでないクラス、学生を分析しながら、日本語の先生としてどのような経験をしてきたかを思い出していきたいと思います。次回もお楽しみに!


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