窖蔵銭で歴史を学び直し!『中国の埋められた銭貨』

ご覧いただきありがとうございます。
書籍の紹介は目次の(2)をクリックしてください。

*** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** ***


(1)旅先での出会い

旅先で、思いがけない出会いが待っていたことはないだろうか。

長野県・善光寺の門前町を散策していた時、変わった形の時計を見かけた。よく見ると、昭和初期に活躍した丸善のタイムカードレコーダーだった。

丸善株式會社・タイムレコーダー

人事労務で働く私にとって、タイムカードとレコーダーは仕事仲間。
その大先輩に会えるなんて、嬉しかった。

在宅勤務に対応できないなどの理由から、昨今では邪険にされがちなタイムカードも、昭和の人事にとっては勤怠管理を楽にする大発明であっただろう。誰かの発明に感謝することもなく使っていたことに気づき、反省した。

(2)中国で発見!「寛永通寶」


『中国の埋められた銭貨』も、旅先での出会いから始まる。


筆者の三宅先生は、中国・江蘇省の揚州を旅行中、たまたま立ち寄った骨董品屋で「寛永通寳(かんえいつうほう)」を見つける。
寛永通寶は、江戸時代に鋳造された日本の銭貨だ。それがなんと、隣の店でも、また隣の店でも売られていた。仕入れ先はわからなかったものの、値段からして中国では珍しい古銭ではないようだった。

「もしかしたら、江戸時代に並行する清代の中国では、寛永通寳がたくさん流通していたのではないだろうか?」という、一見奇妙な考えが頭をよぎった。

三宅俊彦 著.中国の埋められた銭貨.同成社,2005,pⅱ

揚州での発見から数か月後、この奇妙な考えは確信に変わる。1500kmほど離れた内蒙古(モンゴル)自治区の鄂爾多斯(オルドス)博物館で、数十枚の「寛永通寶」の展示に遭遇したのだ。

筆者はすぐに学芸員の方に質問した。すると、これらの寛永通寶は大量の清の銭貨に混じって、一緒に穴へ埋められていたものであることがわかった。やはり寛永通寶は、清代の中国で流通していたのである。

三宅俊彦 著.中国の埋められた銭貨.同成社,2005,pⅱ

(3)なぜ?中国で「永楽通寶」が見あたらない理由


三宅先生はさらに、揚州の骨董品屋で明時代の古銭が見あたらなかったことに注目。中国で永楽通寶が出土した事例は1例しか見つからず、当時ほとんど流通していなかったことがわかった。日本では徴税の基準となるほど流通していたにもかかわらず、中国で流通しなかったのはなぜか。

(4)窖蔵銭が教えてくれる銭貨の歴史


その謎を解くため、三宅先生は中国各地の窖蔵銭(こうぞうせん)の事例を集め、分析していく。その成果をまとめたのがこの本だ。

 中国の銭貨を調べるには、まず第一に「窖蔵銭」を見ていかなくてはなるまい。窖蔵銭は、中国語である。窖蔵とは「人為的に穴を掘って埋められたもの」といった意味合いがある。つまり窖蔵銭は、「人為的に掘られた穴に、銭貨が埋められたもの」であるといえよう。

三宅俊彦 著.中国の埋められた銭貨.同成社,2005,p13

(5)感想


私は日本史も世界史も苦手だった。歴史に触れる機会は大河ドラマくらいで、考古学は未知の世界だ。
購入したものの、「理解できるかな…」と心配しながら読み始めた。

ところが、前述の引用ですっかり心を掴まれ、あっという間に読んでしまった。
途中、知識不足なところもあったけど、最後まで楽しく読めた。

読み終わって拍手喝采。考古学ってすごい。研究者ってすごい。
私はすっかり歴史が好きになっていた。

この本は、考古学の専門書だ。けれど、一般人にも考古学のおもしろさを教えてくれる本だ。

高校生の頃にこの本に出会っていたら、きっと歴史の授業が好きになっていただろう。

10年以上前に出版された本なので、今では変わったところもあるだろう。
それでも、考古学の世界を知りたい人、歴史の授業を好きになりたい人にぜひおすすめしたい。


* * * * * * 

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?