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【参照論文付き】ビジネスパーソン・クリエイター向け - スマホが脳機能に与える影響

スマホが脳に与える影響をまとめました。改めて見ると、結構クリティカルな影響がありますね。
記事末尾に、効果的な脱スマホ依存法も載せてます。


休憩中のスマホ利用で20%パフォーマンスがダウンする


下記のグラフは、作業中に休憩しなかったグループ、休憩中にスマホを見ていたグループ、休憩中に紙媒体を見ていたグループ、PCを見ていたグループのパフォーマンスを比較した際、大きな差が確認できたという実験結果だ。

この実験結果は、休憩中にスマホを見ていたグループは、休憩中に紙媒体やPCを見ていたグループと比較して、20%以上もパフォーマンスが低かったことを示している¹

Kang, Sanghoon., & Kurtzberg, Terri R. "Reach for your cell phone at your own risk: The cognitive costs of media choice for breaks." Volume 8: Issue 3, (2019). Pages 395–403.

「とはいえ、休憩しなかった時と比較すると多少回復してるから、いいじゃん」と一瞬思ったが、20%パフォーマンスが低下するということは、単純に計算すると、その後の仕事時間が25%延びてしまう可能性があるということだ。
25%仕事時間が伸びたら、あと5時間で終わる仕事に6時間超、8時間で終わる仕事に10時間かかってしまう。
これで「多少回復してるから良いじゃん」と思えるだろうか。
私は、休憩中にスマホを見てわずかばかりの慰めを得るより、1時間でも早く仕事を終わらせて別のことをしたい。


睡眠不足により認知機能を大幅に低下させる

睡眠時間が6時間を下回るだけで認知機能は大きく低下する²

Since chronic restriction of sleep to 6 h or less per night produced cognitive performance deficits equivalent to up to 2 nights of total sleep deprivation, it appears that even relatively moderate sleep restriction can seriously impair waking neurobehavioral functions in healthy adults².

(筆者訳)
6時間以下への睡眠制限が最大で二晩分の睡眠不足と同等の認知パフォーマンスの低下を生んだということは、健康なとなにおける比較的控えめな睡眠制限であっても、起きている間の神経行動機能に深刻な欠損をもたらすということだ

Hans P.A. Van Dongen, Greg Maislin, Janet M. Mullington, David F. Dinges, The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation, Sleep, Volume 26, Issue 2, March 2003, Pages 117–126

1日でも徹夜したことがある人はわかるだろうが、徹夜すると仕事の質は大きく下がる。特に、クリエイティブな仕事はできたものではない。2日徹夜などもってのほかだ。

もし睡眠不足の人が3時間スマホを見ているとしたら、スマホによって本来確保できるはずの睡眠が3時間短くなり、大幅にパフォーマンスが低下していると言えるだろう。

日本人の平均スマホ利用時間は3時間半とも5時間とも³、調査によっては7時間⁴とも報告されている。
睡眠不足の人の何割かは、スマホによって睡眠時間の確保が困難になっているのではないだろうか。

注意しておきたいのが「4−5時間の睡眠でも大丈夫だ」と思っている人だ。
残念なことに、上記の研究に参加した、睡眠不足の人々は、そのほとんどが自身の睡眠不足を自覚できていなかったという²。

睡眠研究の権威である柳沢教授によると「真のショートスリーパーは全人口の10%に満たない」そして「ほとんどの人は自分をショートスリーパーだと勘違いしているだけ」だという。
あなたが超少数の真のショートスリーパーでない限り、自覚がなくてもパフォーマンスが下がっている確率が高いため、注意してほしい。

【補足】
上記研究は対象者が48人とやや少ないことなど含めいくつか疑問が残るところがあるが、後年に発表された別の研究でも、睡眠時間と起床時のパフォーマンスの関係性が有意であることが報告されている。

例えば、2022年の研究では、睡眠時間が7時間を下回ると脳の実行機能が低下することが示されている⁵。

Tai, X.Y., Chen, C., Manohar, S. et al. Impact of sleep duration on executive function and brain structure. Commun Biol 5, 201 (2022).

別の研究では「睡眠の質や量」と「学業成績」の間に優位な相関があり、5時間睡眠と7時間睡眠では20%もスコアに差があるという結果が出ている⁶。

また、就寝前のスマホ利用に関しては直接睡眠の量・質に悪影響を与えるという研究結果がしっかり出ているため、特に注意したい⁷ ⁸。


脳の報酬系に異常が起き、集中力と意欲が低下する

何かに依存すると、脳の報酬系が異常を起こし、他の刺激に対してドーパミンを放出しづらくなる⁹。ドーパミンは快楽物質だと思われているが、実際は期待物質と呼ぶべき、意欲を司るホルモンであり、これが分泌、受容されることで我々は目標に向かって行動できる¹⁰。それに伴い、ドーパミンが欠乏すると脳にとっては動機付けがなされないため、集中力も低下することになる。

つまり、何かに依存すると、あらゆることに努力も集中もできなくなるということだ。

ビジネスパーソンもだが、特にクリエイターは「やりたいんだけど、やる気が起きない」という悩みを感じることはないだろうか?それは、自身が怠惰だからでも、情熱が消えたからでもなく、報酬系が破壊されドーパミンが出づらくなってしまっているからなのかもしれない。

「能力が低くても欲が強くて成功している」という人が、あなたの周りにもいないだろうか。欲望は全ての原動力だ。欲望が減退したままでは、あなたがどれだけ能力がある人であっても、欲が強い人に勝てないだろう。
悔しすぎるので欲望を高めていきたい。

【補足】
スマホ依存の定義は難しい。生理学的に「脳がこの状態になったら依存」というわかりやすい基準はない。しかし、一般的な「依存」の定義¹¹をもとに解釈するのであれば、健康的、社会的な問題を引き起こしているのに、スマホの利用を制御できないなら、それは依存である。少なくともそのような状態にもかかわらずやめられないのであれば、脳に大なり小なり影響が出ていると見るべきだろう。


永続的に認知機能が落ちる危険性も?

スマホ依存症の脳を調べたところ、認知機能において重要な役割を果たす前頭前野の灰白質が縮小していることが研究によって明らかになった¹² ¹³。
脳の疲労や睡眠不足であれば「一時的なものだ。今後直していけばいいさ」と思えるが、脳に物理的な変化が起きた場合、完全な回復は困難なケースも多いので、強く警戒しておきたい。
(自身が依存しているかどうかの判断基準については、前項の補足を参照)


パフォーマンス悪化の多重スパイラル

スマホ利用がどのようにパフォーマンスに影響を与えるかを図示してみた。
スマホ利用が様々なプロセスでパフォーマンスを悪化させていることがわかるが、
わかりやすいスパイラルは
「脳機能が低下する」→「パフォーマンスが悪化する」→「仕事時間が延びる」→「疲労が蓄積する」→「脳機能が低下する」
だろうか。

やる気の減退も見逃せない。パフォーマンスが悪化すると、モチベーションを保つのが難しく、それによってパフォーマンスがまた下がっていくだろう。

そして、何より、これらがさらにスマホ依存を強めてしまうことが最も問題だ。
脳機能が低下すると、衝動を抑制できなくなり、スマホを利用してしまう。メンタルが弱ると、慰めを求めてスマホを利用してしまう。
最も直接的な負のスパイラルは、スマホ利用により報酬系が破壊され、もっとスマホを見たくなることだ。

今は問題なくとも「忙しくてメンタルが弱った」といったきっかけを機に、一気にスマホ依存になることもある。ここまでの状態になってしまう前に、問題あるスマホ利用ができない状態にしておくことが絶対に必要だ。

効果的な脱スマホ依存方法

思ったより直接的に脳に悪影響がありますね。もしスマホ利用時間を減らしたいと思った方は、下記の記事を読んでみてください。

もし、スマホ利用時間を減らそうとしてもなかなか上手く行かなかった私を見て元気を出したい人はこちらを読んでみてください。


参考文献

[1] Kang, Sanghoon., & Kurtzberg, Terri R. "Reach for your cell phone at your own risk: The cognitive costs of media choice for breaks." Volume 8: Issue 3, (2019). Pages 395–403. https://doi.org/10.1556/2006.8.2019.21.

[2] Hans P.A. Van Dongen, Greg Maislin, Janet M. Mullington, David F. Dinges, The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation, Sleep, Volume 26, Issue 2, March 2003, Pages 117–126, https://doi.org/10.1093/sleep/26.2.117

[3] 株式会社ライボ. 2022年 スマホ依存の実態調査を実施:8割がスマホ依存に該当 コロナの孤独に使用時間1.5時間増 デジタルネイティブ世代に顕著 “スマホなしでは生活できない”の声. ライボ. (2022). Retrieved February 14, 2024 from https://laibo.jp/info/20220912/

[4] 株式会社PR TIMES. スマホを1日何時間使っている?意識と実態に3時間差「スマートフォン利用に関する生活者実態調査」 公開. PR TIMES. (2021). Retrieved February 24, 2024 from https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001076.000000112.html

[5] Tai, X.Y., Chen, C., Manohar, S. et al. Impact of sleep duration on executive function and brain structure. Commun Biol 5, 201 (2022). https://doi.org/10.1038/s42003-022-03123-3

[6] Okano, K., Kaczmarzyk, J.R., Dave, N. et al. Sleep quality, duration, and consistency are associated with better academic performance in college students. npj Sci. Learn. 4, 16 (2019). https://doi.org/10.1038/s41539-019-0055-z

[7] Alshobaili, Fahdah A., AlYousefi, Nada A. The effect of smartphone usage at bedtime on sleep quality among Saudi non- medical staff at King Saud University Medical City. Journal of Family Medicine and Primary Care 8(6):p 1953-1957, June 2019. (2019). https://doi.org/10.4103%2Fjfmpc.jfmpc_269_19

[8] Sanjeev Sinha, Sahajal Dhooria, Archana Sasi, Aditi Tomer, N. Thejeswar, Sanchit Kumar, Gaurav Gupta, R.M. Pandey, Digambar Behera, Allied Mohan, and Surendra Kumar Sharma. A study on the effect of mobile phone use on sleep. Indian Journal of Medical Research155(3&4):p 380-386, Mar–Apr 2022. (2022). https://doi.org/10.4103/ijmr.ijmr_2221_21

[9] 谷渕由布子., 松本俊彦. 行動嗜癖. 脳科学辞典. (2014). https://doi.org/10.14931/bsd.4651.

[10] Westbrook, Andrew., & Braver, Todd S. "Dopamine Does Double Duty in Motivating Cognitive Effort." Neuron, Volume 89, Issue 4, P695-710, (2016). https://doi.org/10.1016/j.neuron.2015.12.029.

[11] 独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター. e-Learningで学ぼう依存症の基本. 依存症対策全国センター. [cited 2024 Mar 14]. Available from https://www.ncasa-japan.jp/e-learning/assets/pdf/elearning_basic.pdf.

[12] Juliane Horvath, Christina Mundinger, Mike M. Schmitgen, Nadine D. Wolf, Fabio Sambataro, Dusan Hirjak, Katharina M. Kubera, Julian Koenig, Robert Christian Wolf, Structural and functional correlates of smartphone addiction, Addictive Behaviors, Volume 105, 2020, 106334, ISSN 0306-4603, https://doi.org/10.1016/j.addbeh.2020.106334.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306460319313802)

[13] Wang, Yongming., Zou, Zhiling., Song, Hongwen., Xu, Xiaodan., Wang, Huijun., d'Oleire Uquillas, Federico., & Huang, Xiting. "Altered Gray Matter Volume and White Matter Integrity in College Students with Mobile Phone Dependence." Front. Psychol., Volume 7 - 2016, (2016). https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.00597.

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