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【映画感想】パーフェクト・ケア

『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクが極悪後見人となって老人たちから財産を一切合切だまし取る映画『パーフェクト・ケア』の感想です。

えー、ロザムンド・パイク、既に『ゴーン・ガール』の時から常識人の顔して冷酷な悪人だということは分かってましたが(僕がロザムンド・パイクを最初に認識したのはエドガー・ライト監督、サイモン・ペック脚本主演の『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』だったので『ゴーン・ガール』での変わりっぷりにびっくりしたんですが。)、『ゴーン・ガール』をはるかに超えるクソ野郎っぷりで(ていうか、今回のロザムンド・パイクの起用はどう考えたって『ゴーン・ガール』ありきなので、そこを超えるキャラクターなんだろうなとは思ってはいましたが。)、いや、あの、この映画たぶん面白いって思っちゃったら負けなんですよ。そのくらい擁護しようのない本物のクソ野郎なんですけどね。えー、判断力の衰えた老人の資産を管理して本人のケアをする"後見人"という職業があるらしいんですが(僕はこの映画で知りました。)。まぁ、本人がボケてしまったり、家族が(家族でも)信用ならないやつらばかりの場合、裁判所が後見人と認めた人がその老人の資産を管理(場合によっては有効利用)して良いということなんです。その後見人の立場を利用して資産を持つ老人を狙って資産を根こそぎ奪い獲るというのがロザムンド・パイク演じるマーラなんです。

で、裁判所が絡んでるのにそんなこと出来るの?というところにまず引っ掛かるわけなんですが。普通は出来ないですよ。裁判所が選んだ"後見人"なんですから。ただ、裁判所っていうのは証拠が揃ってて言ってることに疑いがなければ通ってしまう場所なわけで(本当はそこに"真実を見抜く目"というのが必要なんですけどね。)。つまり、マーラ(後見人)が必要だという公的な証拠があればいいわけです。そこでマーラは病院とグルになって、病院が「この老人は正しい判断が出来ません。」と公式の文書を出せばそれで通っちゃうわけです(何度も言いますが、本当はその上に"真実を見抜く目"というのがですね…)。えー、要するに"世界には悪人とバカしかいない"という設定のコメディなんですよね。これ。だから、コメディ(エンタメ)と思ってみたら昔からよくある設定の話なんです。法に準じるべき者がアウトローな側にいるというのは。ただですね、同時に、今、自分たちが生きてるこの世界でもありうる話ではあるよなとも思うんです。このくらいの腐敗やこのくらいのバカな話は現実にいくらでもあるなと。で、そういう場合に登場する主人公というのは、そんな世の中に反抗する様な、いくら世の中が腐敗していてもアウトローの側になんらかの正義があるものだったんですよね(もしくは、思いとか何らかのバックボーンとか。)。それがこの『パーフェクト・ケア』には一切ないんです(というか、あえて描いてないんです。)。徹底したアイロニー。その主人公にいっさい感情移入させないところがまず新しかったんですけど、それが映画を観て行くと、そういう世間的な倫理観とマーラのキャラクターとしての(なんだかよく分からない)魅力に引き裂かれる様な思いになるんです。そこが面白かったんですよね(クソなやつがほんとにクソなことしてるんですけど、なぜそこまでするのかという理由が描かれないのでその行動に興味が湧くと言いますか。で、それは、今まで男性キャラクターでは山ほど描かれてきた物語が初めて女性で描かれたということに関係してると思うんです。なぜそこまでするのか。描かずとも女性にはその理由がある様に思えて来るんです。映画の設定の外側に。)。

えー、でですね、人間に対しても世間に対してもこれだけアイロニカルで、悪いやつがのし上がるのは当然。善人はその飯の種でしかないって描き方されたらそうとうな胸糞映画になりそうなもんなんですけど、この映画、これを下敷きにしてエンタメに話を振るんです。あることからマーラとロシアン・マフィアの一騎打ちになって行くんですけど、そのロシアン・マフィアの親分をやってるのがピーター・ディンクレイジさんなんですね。この人は『スリー・ビルボード』でフランシス・マクドーマンドに恋してる役で出て来るのが印象的だったんですけど。だから、今回ピーターさんが演ってるローマンて役も『スリー・ビルボード』の時のキャラクターを引きずってんじゃないかと思うんですよね。『スリー・ビルボード』でフランシス・マクドーマンドっていう強い女性に恋してみじめにフラれるわけですけど、今回はもっと強いロザムンド・パイクを徹底的に追い詰める役なんです(で、ピーターさんは小人症で身長が132cmなんですけど、マーラを描くのに女性だからということで特別な説明はいらないというのと同じように、この映画ではロシアン・マフィアのボスが身長132cmだからといって特に説明はないんです。だって、両方ともそれだけで普通に怖いし悪人だしクールに見えるんですよね。哀愁もあるし。)。要するに、相手は老人だと舐めていたらなぜかロシアン・マフィアと対決することになってしまったという逆"舐めてた相手が"パターンの話になっていくんですけど、ここでマーラがどうするのかっていうのがこの映画の一番の見どころなんです(マーラというキャラクターがより分からなくなるし、より興味が湧きます。こいつ一体どういうやつなんだっていう。)。

で、まぁ、悪人vs悪人の話になるのでどっちがどれだけやられても多少溜飲は下がるんですが、それと同時にどっちが勝っても悪人が得をするということにモヤモヤもするんですよ。ずっとこのアンビバレントがあるんです。この映画。しかし、こういうアンビバレントって、今、現実にもいろいろバレて来てしまっている世界では当たり前の感情というか、善人なんてこの世にいるのかよという風に特に裏社会を知ってるわけじゃない僕だって思っているわけです。で、そう思っていたら善人はいないかもしれないけど悪人をのさばらせておいていいわけないだろってオチがつくんですけど、まぁ、そりゃそうなんだけど…と思いつつ最早フィクションとノンフィクションが合わせ鏡になった様な世界で生きているのかもしれないなと思うわけです(とても痛快なアクション映画として描いておきながら全然痛快な気分にさせないというのはかなり面白かったです。)。



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