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【映画感想】Swallow/スワロウ

はい、2021年新年一発目の映画感想(実際は『新感染半島 ファイナル・ステージ』の方を先に観たのですが、それは【PODCAST】版の方でやってますので【感想】ではこれが一発目ということです。)は、異物を飲み込みたいという衝動に抗えなくなる異食症の主婦ハンターを主人公にしたスリラー映画『Swallow/スワロウ』の感想です。

えー、まず、主人公ハンターを演じてるヘイリー・ベネットさんの顔がですね。良いんですよ。出て来た瞬間からなんか自信無さげな、何かに抑圧されてる様な顔をしていて。旦那の両親と食事してるってシーンで、旦那から「あの面白い話してよ。」って振られて、し始めた途端に義父に遮られるっていうのがあるんですけど(まぁ、まずはああいうシチュエーションで無茶ぶりしてくる旦那が問題有りなんですが。)、そりゃあ、あんな浮かない顔してたらお義父さんも聞く気起きないよっていう。面白い話はもっと自信持ってしないとっていう様な顔してるんですよね。つまり、このイケメンで仕事も出来て、そもそもの家柄も上流階級でっていう旦那をゲットして、待望の赤ん坊まで妊娠してるという幸せの絶頂にいる筈のハンターがなんでこんなに浮かない顔つきをしているのかっていうのが、まずはこの映画の始まりなんです。恐らく結婚する前はこんなに景気の悪い顔つきではなかったと思うんです。なぜなら、ストーリーが進んで行くと段々と魅力的な顔つきに変化していくからなんですが(序盤では美しくはあるんですけど全然魅力的じゃないんです。)。別にいいとこのお嬢さんというわけではない、単なる販売員だったハンターのどこに旦那は惚れたんだろう?って考えたらそうなんですよ。それが物語が進むごとに分かって行くんです。ハンター自身が魅力的になって行くことで開放されているのが分かるんですけど、その解放へのスタートになっているのが異食症の症状なんです。つまり、ハンター自身も気づいてなかった自分を抑圧していたものはなんだったのかっていうのが異食症を通して解明されるっていうスリラーなんです。

で、そもそも異食症というのがどういうものなのかというと、普通は体内に入れない様なものを飲み込みたくなるという、いわゆる摂食障害と言われるもので(ハンターの場合は鉄やガラスなどで、電池とか画鋲みたいな危険なものも飲み込んでしまうんです。)、実際にある症例なんですね。あの、僕の凄く好きな映画に『RAW 〜少女のめざめ〜』というのがあるんですけど、それは、それまでベジタリアンとして育てられてきた少女ジュスティーヌが思春期の年齢になる頃に人肉食にめざめてしまうっていうホラーなんです。で、この映画の場合は、『Swallow/スワロウ』でハンターが異食症に至るまでの様々な要因を主人公の少女ジュスティーヌの"血"として描いてるんですね。もともとの血筋としての人肉食というのがあって、それが大人の女として成長して行く過程でめざめて行くっていう。つまり、少女から大人の女性になる過程で生じる身体や心の変化を人肉食に目覚めていってしまうこととして描いているんですが、そのもともと持っている特性を社会規範の中では抑制しないといけないという、少女の性の目覚めに対する不安や恐怖の表現と、それが社会の中では抑圧されているということを"カニバリズム"というタブーとして描いている映画なんです。

僕は、この少女が成長することで社会の規範に疑問を持ちしきたりとか慣習をぶち壊して暴走する映画がとても好きなんですが、その中でもこの『RAW 〜少女のめざめ〜』は設定がぶっ飛んでて特にお気に入りなんですね(他に好きなやつだと、トルコの古い慣習に疑問を持った5人姉妹の末っ子が軟禁状態の家から飛び出すまでを描いた『裸足の季節』とか、韓国映画の『お嬢さん』なんかも好きです。そういえば去年観た『燃ゆる女の肖像』もそういう側面を持つ映画でしたね。)。で、この『Swallow/スワロウ』もその流れの映画かと思ってたんですけど、ちょっと違って。何が違うのかというと、主人公が思春期の少女じゃないんですね。えーと、主人公が思春期の少女ならば、誰もが経験する性への目覚め(心や身体の変化に自分自身がついていけない感じや大人になるにつれてそれまで縛られていた社会規範に気づいていくみたいなことで)誰もが経験するいわゆる"血"として表現出来るし、共感も出来るし、それこそ常識をぶち壊すことに興奮も出来るんですけど、これはそうじゃないんです。だから、物語前半は個人的にあまり乗れなかったんです。自分で望んで金持ちの旦那と結婚して(しかも、旦那は表面上はちゃんと優しいしハンターのことも一応考えてくれてますし、義理の父母もそんなに嫌な人には見えなかったですし。ていうか、まず、一度でも自分がやりたい様にやってみたのかが疑問でした。)、自分で望んで赤ん坊も授かったんじゃないの?もっと言えば、金持ちの旦那と結婚することで幸せになれると思ってたとしたらそれはそもそもの考えが浅はかだったのではないか?そうじゃないんだとしたらハンターは旦那のどこに惚れたのか?(自分がハンターの立場だと考えたら、ああいう世界で素の自分として生きて行くのは難しいだろうと思うし、それは分かった上で何とか出来ると思ったから結婚したのではないのか。)と思いながら観てたんですが、それがですね、後半の展開で覆っていくわけなんです(この映画ここからが本番でした。)。

えー、要するに『裸足の季節』や『RAW〜少女のめざめ〜』などで思春期の当然の帰結として起こる様な社会規範への反抗をハンター自らの意思で行うことになるんですが(何が起こるかは是非映画を観て下さい。ウジウジぐずぐずしていた前半に比べて後半はハンターが社会と向き合う冒険物語になるので映画が生き生きとして、異食にも磨きが掛かって、「ああ、そういうのもイケるんだ。」とかなかなか興味深いです。)、思春期成長モノのラストの様な何かをぶち壊す的なカタルシスはないんですが、そのカタルシスの無さ、ずーっと後を引く様な空気がこの映画が描こうとしたリアルさなんだと思うんです。たぶん、異食症の特異性を軸にした方がスリラーとして成立するんでしょうが(最近観たのでそういうのあったなと思ってたんですが『透明人間』がそうですね。)、そうしないのがこの映画のメッセージなんだとろうと。ただですね、個人的には絶賛されているエンドロールは、いっそのことなくても良かったんじゃないかなと思いました。なんだか、最後にテーマを説明されちゃった様に見えて(ていうか、最後に来て念押ししなくても分かるよって思いました。)。個人的好みとしては、スリラーなのか何なのか分からないくらいの「なんだこの映画?」で終わる方が好みなんですよね。

http://klockworx-v.com/swallow/

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