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①イスタンブールのイラク人

どうして、このユスフパシャ(Yusufpaşa)という町には、アラブ人が多いのか?前回序文で書いたように、ここは、新大久保のように様々な移民が混ざり合っている町です。その中でも特に多いのが、イラクやシリアからのアラブ人です。

アラブ人が多く集まる理由を考えながら町を歩いていると、こんな看板に出会いました。

イラク各地への長距離バスのオフィスが随所にある

写真は、この周辺のとあるバス会社のオフィス。バス会社が町にいくつもあり、イラクの各都市向けのチケットを販売しています。なので、イラク人がここへやってくるのは自然なことなのかなと思いました。このバス路線とこの町との繋がりには、実は深い関係があるようなのですが、それはもっと調べてから、別の時に書こうかと思います。

イラク北部の都市モースルの名前のついた店
こちらはイラク中部の都市キルクークの店
駅前にある大型イラク料理店。メニューが豊富だった。

さて、ユスフパシャには、上記の写真のようなイラク料理店がいくつかあります。ただ、イラクを代表する料理マスグーフを提供する店は、1軒のみでした。ネット検索をすると、中心部から離れたエリアにもマスグーフを売りにしている店がありましたが、今回はイラク人が多く集まっている店に注目してみました。

イラクのスレイマーニーヤ出身のクルド人ゴランさん

今回、YouTubeの撮影で協力してもらったのは、こちらのゴランさんです。米国の市民権を持ち、2年前にこちらに来て、このレストラン「Iraklilar Locantasi」を始めました。「Locantasi」とは大衆食堂のような意味。その名の通り、午後1時〜2時くらいになると、いつのまにか店は多くの客でいっぱいになり、故郷の味を求めるイラク人でいっぱいになります。主に来る客は、イラクのクルド自治区スレイマーニーヤ出身のようですが、バグダッドやキルクーク出身のアラブ人もやってくるそうです。米国ジョージア州から移住したゴランさんは、イスタンブールの緩やかな雰囲気が暮らしやすいと、ここに居を構えました。

ゴランさんが作るタワ

「羊が新鮮だから、今からそれを作ってやる!」

この店の料理は、基本「タワ」と呼ばれる鍋で炒めたシンプルな炒め物。インドにも「タワ」という鍋があると思われますが、この料理の名前の由来は、その鍋の名前から来ているようです。日本人が鍋料理を総じて「鍋物」と呼ぶような感覚なのかもしれません。

脂の乗った羊肉のトマト炒め

店で提供する料理は、シンプルな「羊のトマト炒め」や「羊ひき肉の玉ねぎ炒め」など、羊の肉料理が売りです。正直、かなり地味な料理で、羊肉の苦手な日本人にはちょっと食べにくい味かも。1鍋(タワ)には、ボリュームたっぷりの羊肉が入って、50リラという安さ!羊肉を安価でたっぷり食べられるところも、同胞たちに人気の理由の一つかもしれません。

オイルを多めに入れて炒めた、羊の脂炒め

こちらは、羊肉の脂身の多い部位を使って、オイルに浸して炒めたタワ。至ってシンプルな味わいですが、私のような羊肉好きには、結構たまらない料理です。日本人が「肉が食べたい!」と焼肉屋に行くように、イラク人も「肉が食べたい!」とゴランさんの店に集まっているのだと思います。

お昼の混雑時は、テーブルがイラク人でいっぱいに!

ユスフパシャには、イラク料理を名乗る店でもトルコ人がオーナーだったりします。ある店でメニューをのぞくと、イラクではみないトルコのインスタ映えしそうな派手な肉料理なども提供していました。湾岸諸国などのお金持ちのアラブ人観光客などを見越して、商売をしているのかもしれません。

そんな店とは一線を画すゴランさんの「Iraklilar Locantasi」。そこは、イラク北部からやってきたクルディスタンの人たちに故郷の味を提供する、地元のコミュニティのような存在でした。みんなの親父さんのような同胞の頼もしい存在として、ユスフパシャでこれからも愛されていくのだと思います。

カフェ・バグダッドさんが提案された「世界を知るための10皿」という企画に乗り、様々な国の料理を取り上げていきます。料理を通じて、移民の方々や、聞きなれない国に親しみをもってもらいたいと考えてます。今後はYouTube「世界のエスニックタウン」と連携した企画をアップしていきます。