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働くことに生きがいを求めて。その14「靴屋の店頭販売の巻」

前号までの話はこちらです。

「大好きな仕事を見つけて燃えるように生きる」、つもりだった。しかし,その前に
「大好きな彼女」ができてしまった。
そして、二人の気持ちが盛り上がってしまい、結婚することになった。
僕は大学を中退、彼女は予備校を退学した。
彼女は早々に就職が決まった。
僕はなかなかうまくいかなかった。
そんな時、中学時代の親友が助け舟を出してくれた。彼の勤め先は流通業界のビッグスリー「Sストア」の子会社「S友シューズ」だった。

S友シューズ荻窪店に面接に行った。
いってみたら、
荻窪店店長の藤川さん曰く、
「あなたの友達が保証すると言うから,面接なしで採用です」と言われた。
藤川さんと僕の中学時代の親友辻本は、元上司と部下という関係で、配置換えになった後も付き合いがあるとのこと。

親友辻本のおかげで,僕は無職から業界大手の靴屋にアルバイト採用された。
正社員への中途採用の道があると聞いたので、それに向けてがんばることにした。

荻窪店は丁度靴の店頭販売中。
ワゴン5台。全て子どもの運動靴と上履き。3月末だったので、新学期準備用品を並べていた。

僕は面接だけだと思っていたからスリーピースだった。
自分のスーツ姿と子どもの運動靴、この見事なアンマッチに我ながら、ニヤリとしてしまった。
面接なしの即採用後、そのまま店頭販売をやらされることになるとは。やれやれ。
靴のことなんて何にもわからないからひたすら声を出していた。

「いらっしゃいませ〜、いらっしゃいませ〜」

中学3年までずっと野球部だったこともあり、声だけは鍛えられていた。
「いらっしゃいませ〜」
が荻窪商店街に響き渡る。
たくさんの通行人が振り返るほどの声だった。
お客さんが、インベーダーゲームのように、ズンズン押し寄せて集まって来た。

お客さんの対応に必死だった。
いつの間にかすぐ背後に来ていた藤川店長から「あなた,いい声してるねぇ」と言われた。
「あっ、ありがとうございます。中学まで野球部だったんで」と答えた。
「その調子で頼むよ!
で、何か足りないものとかある?」と聞かれたので、
「釣り銭で硬貨がバラバラになってしまうから、お釣りを渡すときに手間取ってしまいます。だから、硬貨を種類で分けるように工夫してみたいのですが?」と僕。
「なるほどぉ。いいところに気がつくねぇ。だったら、靴の空箱で工作するか?」と藤川店長。
「はい」
その後、靴の空箱を切り取り工作した。
自家製コインケースの誕生。
10円、50円、100円、500円と種類別に並列に並んだ釣り銭箱は、見違えて使いよくなった。さらに一万円札隠しとして、手作りコインケースの下に箱の底全体を覆うように、薄い靴箱の蓋を切り取ったものを敷いた。これで釣り銭箱の蓋を開けても万札は目に見えない。盗難防止にもなるはずと考えた。
これが、交代で店頭販売に入っているパートさんにバカウケした。
「アンタ,頭いいねぇ」と笑顔で言われた。
僕は自分の思いつきを褒められて,かなり嬉しくなった。
これに気をよくして、毎日一つずつぐらいアイデアを出した。

通行人のアイキャッチを考え、ワゴンごとに、値段がわかるポップをつける。
お客さんが探しやすいよなうにワゴンの前にサイズ別のポップをつける。
これで、
荻窪駅から続く商店街を歩く通行人をまず、デカい声で振り返らせ。
そして、
赤い色の値段ポップを見てもらい、こちらに脚をむけてもらう。
ワゴンに近づいたら、サイズことに分かれているから、買いやすい。
そして、お金の精算も釣り銭箱という原始的なシステムなのに,素早く釣り銭を渡せる。
という店頭販売の効率システムを作り上げた。
大学を中退して、数ヶ月、数回の転職を繰り返してきた使えない男が、なぜか、ここでは、生き生きとしていた。
たったワゴン(2×1メートルぐらいの大きさ)5台で、すべて子どもの運動靴というアイテムだけで、1週間に100万円売ってしまった。
僕は知らなかったことですが、実はその店のその月の売り上げ予算が、100万円ぐらい不足しそうだった。それを補う目的で緊急でワゴンセールを企画したらしい。
それを見事に達成してしまった。
3月31日の閉店した後、藤川店長が満面の笑みを浮かべながら、「ありがとう!あなたのおかげで奇跡の予算達成になった。ほんとにありがとう!」と握手しながら言われた。
面映かったが、とても嬉しかった。

靴屋の仕事は順調だった。
しかし、問題点が一つあった。
それは、彼女であるワイ子と休みが合わないことだった。
彼女の休日は日曜日。
僕は平日だった。
これは困った。
どうする家康?
じゃなくて、デートはどうする?

つづく。

追伸・・・余談ですが、
この時の状況が、自分の「得意なこと」という才能の現れだとは、つゆとも気づかなかった。
大学中退後、本屋のアルバイト、時計屋、電気屋と働いて、あまり向いていなかった(本屋は向き不向きがわからないまま、別の理由で辞めている)
この当時の自分は、靴が好きで靴屋に就職したかったわけではない。仕方なく勤めている。にもかかわらず、アルバイトで入って、即自主的に働いている。
分析してみると、店頭販売のため、僕一人で任されていた。自由にやらせてくれた。売上が増えることが楽しかった。お客さんが喜ぶことが嬉しかった。働いている人の不便を考えることができて褒められた。褒められて嬉しかった。今考えたら、ここにすごいヒントがあったことに気づいた。
仕事のPDCAはよく聞く言葉ですが、人生にもPDCAがあることを知りました。
D(経験したこと)をC(チェックする)。このチェックが雑だった。というか、ほとんど振り返っていなかった気がします。自分の特質を知る一番の秘訣は、もしかしたら、このC(チェック)なのかもしれない。)

生きがい🟰やりたいこと、と捉えたならば,こちらの本もおすすめです

こちらもいっしょに読むとより一層理解が深まります

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