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戦争と女性

2つのニュース

9月に入ってすぐ、二日続けて米兵が起こした事件がニュースサイトに掲載された。

1件目は『「友達の家だと思って入った」 民家侵入の疑いで米兵逮捕 沖縄』

2件目は『「酔っぱらい」米兵、現行犯逮捕 ビルの屋上に侵入容疑 那覇』。
同じ事件の後追い記事かと思って開いて読んでみると、まったく別の事件だった。

どちらも女性や子供のレイプ被害事件ではないとわかり、ほっとする。

悲しいことだが、日本に長らく暮らしていれば、ニュースに「沖縄」と「米兵」の文字が並ぶと、レイプ事件が頭に浮かんでしまう。それほど、米兵による現地女性(少女や幼児も含む)への性的暴行事件は少なくない。

特に今、わたしはGI ベビーに関わるノンフィクションを書いているので、「米兵」のワードには敏感なのだ。

防波堤

第二次世界大戦に敗れた直後、占領にやってくる連合国進駐軍を迎えるにあたり、日本の責任者たちがまずやったことは、全国各地の駐留基地近くに「慰安所」を作ることだった。
連合国側から頼まれたわけではない。日本の内務省自らが発案し、各都道府県警察に命令が下り、警察官が女たちを集めた。

当時の警察官は、どう考えていただろうか。「(中略)治安はメチャメチャになって凶悪犯罪が続発する。とくに婦女子がねらわれ、混乱状態となって日本人の純血が失われる------などだった」と、その動揺ぶりを語る。そして実際に道内各地では婦女子に対する警告があらゆる機会をとらえ、徹底的に行われた。

『私たちの証言 北海道終戦史』毎日新聞社

慰安所設立の大義名分は、「日本人の純血を守るため」。
そしてもうひとつ、よく言われたのが「良家の子女の防波堤とするため」だったが……

米軍進駐に当たって道民の動揺は、はなはだしかったが、人心の安定に心をくだいた警察自体も、内心の不安をおおい隠せなかった。占領された経験を持たなかったため、占領軍によって、どういうことが行われるのか見当もつかなかった。と同時に思い起こされるのは日本が中国をはじめとする外地で行った占領政策だった。日本が行ったと同じことが米軍によっても行われるのではないかと、だれもが考えた。

『私たちの証言 北海道終戦史』毎日新聞社

なんのことはない、日本が国を挙げてこんな馬鹿げたことをしたのは、かつて自分たちが占領地でやってきたことを振り返り、恐怖におののいたからだった。

さっそく1945年8月30日、連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官ダグラス・マッカーサーが神奈川県の厚木基地に降り立ったその日に、横須賀市内で、米兵による日本人女性への性的暴行事件が複数発生している。
被害者には、未成年の少女もいた。

だからといって、「良家の子女の防波堤」という発想は正当化できない。
男たちの徹底的な女性への差別意識から生まれた、この世の全女性を分断するだけの腹立たしい政策だ。

わたしは「慰安所」の話に触れるたび、当時の政治家や役人の前に日本中の女を並べ、
「さあ、ここから“防波堤”を選べ」
と、迫ってやりたい気持ちに駆られる。もちろん、女たちの最前列には彼らの家族や恋人を置いて。

純血

こんな日本の男たちに幻滅させられたのかどうかは知らないが、一部の日本女性たちは占領軍の米兵たちに魅了された。
中には同棲するなど関係を深め、子を成したカップルもあった。

敗戦の傷の上に冷害の影響もあって困窮こんきゅうを極めていた当時のこの国で、圧倒的に「豊か」だった米兵に愛されることは、一つの特権だったであろう。
彼女たちが「パンパン」だの「オンリー」だのと蔑称で揶揄やゆされたのには、やっかみも含まれていたはずだ。

しかし結局のところ、彼女らの多くが後に男たちに見捨てられた。

“結婚を誓った恋人だったのに、突然に朝鮮戦争への出兵命令が下って、彼は戦地へ行ってしまった。連絡が取れぬまま、戦死の報を受けた。”

“お腹の子供を迎える準備をしていたら、彼に急な転勤命令が出て、米国に帰ってしまった。1人で子供を産んだわたしの元に、彼はしばらく送金してくれたけれど、次第に滞り、手紙も減り、やがて連絡が途絶えてしまった。”

資料をあたると、こんなパターンばかりであることに、すぐ気づくことかできる。
後ろ盾を失った彼女とその子供たちは、一転、世間から差別と偏見のむちを打たれることになった。

米兵にとって“現地妻”など所詮この程度の存在なのだと、言うこともできる。資料でもどことなく、ただの「不運なこと」として片付けられている。
しかし、彼女たちのこのお定まりの転落人生には、裏がある。
といっても、ヨーロッパの方では当時から「公然の秘密」として、誰もが知っていたことだったらしい(イギリスとオーストラリアで活動する、GIファザー探しのボランティアグループから聞いた、信憑しんぴょう性の高い話だ)。

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