見出し画像

金の雛鳥を追いかけて

あいいろのうさぎ

 金の卵から生まれたヒヨコは他とは見た目からして違うのだろうか。いや、分かっている。金の卵というのは才能ある若者を指す言葉だ。そこから生まれたヒヨコ、というような表現は、俺は聞いたことがない。

 ただ、部活の同期が目覚ましい活躍をしていると、そんなことも思い浮かんでしまう。こいつは確実に金の卵から生まれてきたやつだ。それに、これで卵の状態とは思いたくない。こいつは確実に生まれてきていて、もうニワトリに成長しようとしているのだ。

 そう思っていないと、とてもやってられない。

 成長スピードの差を直視できない。

 入部は同時期だった。お互い正しい姿勢さえ作れないような初心者だった。弓を引いたときなんて腕が震えまくっていて、先輩たちの姿に二人して「すげぇ……」と見惚れていた。

 それが、どうだ。

 基本がまるでできない、ということはさすがにない。それなりに見れる姿ではあると思う。けど、当たらない。あいつに比べて全然、当たらない。

 先輩たちにも言われた。「あの子は才能のある子だよ」と。あいつは今や先輩たちの的中率を超えている。まだ入部して四か月だ。右も左も分からなかったあの頃から四か月。それなのに、あいつは安定して八割以上当ててくる。

 正直、カッコよくて、羨ましくて、恨めしい。

 成長の差なんてどこにでもあることで、例えばクラスで一番頭の良いやつに嫉妬しようなんて気は起こらないけれど、部活は別だった。

 自分でも理由はよく分からない。それはスタートラインが同じだったからかもしれないし、一番最初に先輩に褒められたのが俺の方だったからかもしれない。

 ただ、悔しかった。

 けれど、焦れば焦るほど裏目に出る。それは分かっていた。心を落ち着けて、冷静に、一つ一つ正確に、丁寧に。

 それでも高校生の的中率の平均に届くくらいだったけれど。

 俺には才能がない。言ってしまえばそれだけのことで、けれど絶対に言いたくなかった。

 俺とあいつは違うんだ。そう思ってしまった方がきっとずっと楽なのは、分かっている。けれど何故かそうは思えなかった。俺は俺を諦めたくなかった。目の前でそれを成せる人がいるなら、きっと自分もできる。そう思いたかった。

 今日もあいつの矢が的中する音が響く。

 あいつはもうニワトリになったのだろうか。それとも未だに成長する余地を残しているのだろうか。あいつなら空を飛ぶニワトリになってもおかしくない。

 俺は、あいつが空を翔ける姿を、追い続ける。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 お題は「ヒヨコ」でした。最初の一文が思いついた時に、この子を追いかけたらどうなるかな、と思ったら弓道部でした。自分でビックリしました。この作品がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?