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ごめんね、石油ストーブくん。

あいいろのうさぎ

 私は全力でスマホとにらめっこしていた。

 エアコンと石油ストーブの比較記事を懸命に読み込む。

 一人暮らしを始める私に親が渡してくれた(というか押し付けられた)石油ストーブ。電気代がかからないのは良いけれど、代わりに灯油代がかかって、しかも今はその価格が高騰しているのでエアコンを買った方が良いのでは、と思い始めたのだ。でも今は電気代だって高いし、結局どっちの方が安いのかを調べるため、懸命ににらめっこしている。

 けれど『エアコンは外気温との温度差で消費電力が変わり、電気料金が変動する』とか書いてあって、しかも省エネモードがついているかどうかなどによっても電気代が変わってくるらしい。エアコンの評価基準についてはよく分かっていないけれど、とりあえず絞り込み機能にあった『省エネ性マーク:あり』という項目を押してみると、様々な会社のエアコンがズラッと並ぶ。軽く見た感じでは十二~十三万円くらいのものが多い。

 十三万かぁ……。

 調べた感じ、一日中エアコンを付けっぱなしにはしないであろう私にとっては、灯油代より電気代の方が安そうではあった。

 とはいえ十三万かぁ……。

 なかなか踏ん切りの付かない額である。

 って言うかエアコンの設置工事代とかもかかるのでは? でも一回設置してしまえば灯油を買い続けるよりお得か……?

 もし私の今の様子が漫画になったなら『ぼんっ』と音を立てて頭から煙を吹き出しているだろう。もう分かんない。元々数字とにらめっこするのは得意じゃないんだ。そこに性能がどうとか言われたら考えるのがめんどくさくなってしまう。

 ……でもお金は貯まる方が良い。

 実家から預かった石油ストーブをちらと見る。石油ストーブの暖かさは独特だ。職場のエアコンの暖かさとは少し違う。どちらかというと『熱い』に近いような、少しジリジリする暖かさ。

 嫌いじゃないんだけどな。

 灯油を入れる手間のことを考えると、スイッチ一つで部屋全体が暖まるエアコンは、それはそれで魅力的だけど、手間をかけて使う道具も素敵だと思う。

 ……結局のところ、私は今使っている石油ストーブに愛着があって離れがたいのかもしれない。

 君とお別れするのは今年の冬を越してからでもいいかな。

 考えるのがめんどくさくなったのも理由の三割くらいを占めているけれど、そう決めた。次の瞬間に舞い込んできたニュース。

 キャスターによると今年の夏は猛暑の見込みとのこと。

 ……エアコンを買おう。石油ストーブは部屋を冷やしてはくれない。

 ごめんね、石油ストーブくん。冷却機能が付いたらまた会おう。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 今回のお題は「石油ストーブ」。石油ストーブってほぼ使ったことないぞ…? と思い、色々調べていたところ、「逆に今調べてる様子を小説にしちゃう!?」と思いつきました。この作品がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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