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手編みのマフラー

あいいろのうさぎ

 ……さむい。

 怒った勢いで家を飛び出したらすごく寒いし、頭も冷えてきた。でも、家に帰りたくなかった。

 だって、せっかくの誕生日。変身ベルトが貰えると思ってワクワクしてたのに、いざ出てきたのが母さんの手編みのマフラーって、ガッカリするじゃん。俺、今日のために色々手伝ったりして、母さんももったいぶってたから、絶対貰えるって思ったのに。

 いざ出てきたのがマフラーって。

「ックシュン」

 外は寒い。このままだと風邪ひくかも。でも家に帰りたくない。っていうか、帰りづらい。今思ったらやりすぎだなって思うけど、あんなに怒って喚き散らした後で平気な顔して帰れるかよ。

「悠人ー! 悠人どこにいるのー!」

 やばい、見つかる。でもちょっと安心してる自分もいて悔しい。

「ゆう……あ、やっぱりここにいた」

 言い方からして公園の遊具に隠れてるって見当はついてたらしい。母さんが入り口から声をかけてくる。

「ほら、そんな恰好でそこいたら風邪ひいちゃうでしょ? 早く出ておいで」

 ここで素直に出ていけばいいのに俺は動かない。

「まったく……。あのね悠人、お母さんも悪かったよ。ちょっと意地悪しすぎた。本当はちゃんと変身ベルトも用意してるの」

 そこで振り返ってしまった。

 母さんは俺と目を合わせて溜め息を吐いた後、言った。

「帰ろう」

 さすがにここまで来て動かないわけにもいかなくて、俺はのろのろと遊具を出る。

「わっ冷たい! もう、この季節に上着も着ないで飛び出すからよ? ほらこれ着て、マフラーもして」

 言われるまま上着を着て、母さんの手編みだというマフラーもつけた。……悔しいけどあったかい。

 母さんが俺の背中にそっと手を添えて歩き出す。近くで見たら、母さんはこの季節なのに汗をかいてて、俺の事走って探しに来てくれたんだってわかった。

「……そのマフラー、久しぶりに編んだの。結構自信作なのよ?」

「……ありがとう」

 冷静になってからずっと頭の中を回っていた言葉を頑張って出してみた。

「……ごめんね」

「いいのよ」

 母さんは俺の頭をポンポンと撫でた。

 ちょっと気恥ずかしかったけど、俺の母さんが母さんで良かったって、そう思った。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 この作品は「マフラー」がお題でした。私は基本連想ゲームで作品を書いていますが、「マフラー」→「寒い」→「家出少年」の流れには流石に自己ツッコミしました。なんで「寒い」から「家出少年」に? でも結果として作品が出来たので良しとします。お楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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