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【感想】聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア

2017年 イギリス・アイルランド
監督 ヨルゴス・ランティモス
出演 コリン・ファレル
   ニコール・キッドマン
   バリー・コーガン

あらすじ

主人公のスティーブンは裕福な4人家族でなんの不自由もない生活をおくる著名な心臓外科医。だが、元患者の息子であるマーティンと出会ったことでその人生が歪み始める。
マーティンと交流を深めてしばらく経った頃、突然スティーブンの息子が歩けなくなった。どれだけ最先端の医療器具で調べても、不調の原因がわからず、頭を抱えるスティーブン。
そこにマーティンが現れ、彼に言う。「あなたの家族は全員歩けなくなり、最後には目から血を流して死ぬ。助けたければ、誰か一人を殺せ」
スティーブンはその言葉に激昂し、まるで信じなかった。しかし、しばらくすると娘にも同じ症状が出始めて……。

感想

ランティモス監督最新作『哀れなるものたち』が先週末の映画動員数で9位になりました。普段映画見ない人でも話題だからと見に行ったりするかもしれない微妙な順位です。何も知らないで鑑賞し始めてあれが出てきた時の心情を想像すると、「キャベツ畑やコウノトリを信じてる女の子に無修正のポルノを突きつける時のような下卑た快感」を感じますね。この表現、やっぱ冨樫は天才だな!

ちなみに感想はこんな感じです。

と言うわけで、今回は同監督作品から気になってたのを鑑賞しました。

いやー、暗くて嫌らしくてとても気持ちの良い(?)映画でした。まず特筆すべきはバリー・コーガンの不気味な演技! とくに感情がないわけではなさそうなんだけど、どの表情やセリフも作り物めいていて、それでもって目にハイライトが全くない。言い表しようのない不快感とでも言うんでしょうか。おっそろしい。

主演は『ロブスター』と同じコリン・ファレルだったんですけど、髭もじゃすぎてなかなか分かりませんでした。役どころとしては、監督からの歪んだ愛情を感じます。また精神的にいじめられてる……。でもまぁ、困り顔が魅力的なのは同意しますけど。

映画の内容ですが、出だしは不条理サスペンスって感じです。不意打ち気味に日常を侵食してくる異物感の演出が見事。あとは、見下ろしてる俯瞰的な撮り方や、固定したカメラの中に登場人物がフェードインしてくるみたいな構図が多かったのも特徴的でした。第三者的な目線で見ているような感じがして、悲劇に見舞われた家族に感情移入するかしないかギリギリの距離感を保っている。あんまりどっぷり浸かりすぎるとめちゃくちゃ鬱になる映画なので、そうやって客観的に見せることで、逆に最後まで目を逸させないようにしているのかなと思いました。なんて嫌らしいテクニック。

私が特に好きなのは後半の展開です。物語終盤では元凶っぽいマーティンを捕まえてボコったりするんだけど、結局何も解決しない。残された時間はあとわずか。じゃあどうなるのかって言えば家族みんなが殺されないためにスティーブンに媚び合戦を始めるんです。聞き分けの悪かった子供が急に「パパみたいな外科医になりたい」とか言い出したり、妻は「私の年齢ならまだ子供は産めるわ」とか言っちゃったり。

そのシチュエーションがものすごく気持ち悪いんだけど、過激なブラックユーモアというか、ふひひってきっしょい笑いが出るくらいには面白いんです。自分の中にある腹黒さを見せつけられるかのような映画。本当になんてもんを見せてくれるんや。

難点と言えば、タイトルの意味が難しすぎることくらいですね。なんかギリシャ神話が元ネタらしいんですけど、そこまで観客に教養を求められても困るというか。詳しくはググればいくらでも考察が出てくるので、そちらを参考に。

まとめ。神話の不条理さを現代に落とし込んだ、ブラックユーモア溢れる一作。とにかくバリー・コーガンが不気味すぎるので、その演技だけでも必見! な映画でした。

以上、カビゴンと一緒に寝てきます。お疲れ様でした。

視聴:アマプラ

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