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あまい卵もわるくないなって思ったんだ

生きているうちにたった一度、あるかないかくらいであろう改元の瞬間を、2人きりで過ごした。本州最北端の県の、ホテルの一室で。

居酒屋でばら焼きを食べながら「平成最後のご飯だね」なんて話した。それから部屋に戻って、テレビをつけて、カウントダウン。まるでお正月みたいだった。

なんとなく、そこに私の家族がいないことに違和感を覚えた。家族以外の人と年を越したことがないからかもしれない。人生の大事な瞬間は家族と迎えるものだった。これまでずっと。


それから一年半。簡単には地元に帰れなくなり、私は初めて家族と年を越さなかった。今考えてもとてもありがたいことだが、昨年の夏に彼と同棲を始めていたので、一人で年を越すことはなかった。なるべく毎年と同じように過ごしたくて、紅白を観て、ジャニーズのカウコンを観て、そのまま新年を迎えた。改元に続いて、彼と迎えた2度目の大きな瞬間だった。


少しずつ慣れていく期間なのかもしれないと思う。家族でない人と、家族になっていくことに。父も母も姉も私にとっては間違いなく大切で、大好きで、だから私はいつか一人だけ違うシャチハタを持つようになることが、とてつもなく寂しい。結婚に憧れはあるけれど、お嫁に入ってしまったら家族と同じお墓に入れなくなることを、幼い頃からずっと寂しいと思っている。

だからこうしてじわじわと『その時』が近づいているように感じるのは、私にとってもの悲しいことでもあって、だけどじわじわきてくれているだけありがたいと思う。突然、はい、明日からあなたは新しい家庭をもつんですよ。なんて誰かに言われても、すぐには順応できないだろうから。

自分の家庭に固執している私を彼が知ったら、面倒くさいと思うだろうか。だけど今朝、彼がつくってくれたスクランブルエッグは、あまくておいしかった。うちではずっと卵焼きはしょっぱかった。でも本当は、母の実家ではあまくて、結婚してから父の好みに合わせてしょっぱいのをつくるようになったって言ってたっけ。

ゆっくりと、歩み寄れたらいいと思う。あまい卵を食べることは、母の味を裏切ることにはならないのだと、ちゃんとわかっている。大学進学のために上京し、そのままこちらで就職しても、地元を捨てたわけではないと証明しているのは、他でもない私自身なのだから。

決して長くはないこの腕で、今の大切な家族も、これから家族になるであろう彼も、もしかしたら数年後に誕生しているかもしれない我が子も、みんな抱きしめて生きていきたい。しょっぱい卵焼きを土台に、あまいスクランブルエッグに感動するような新しい日常を、その新しさを楽しみながら過ごしていきたい。

そうしていつか地元に帰れた時、私が出会った新しさをお土産として家族に渡せたら、それは素敵な連鎖なんじゃないかって気がしている。


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