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どうか、私の代わりに届いてね。

2020年7月27日(月) くもり

「夏休みは実家に帰るんです」

嬉しそうな顔で、隣の席の新人が言う。ふうん。そうなんだ、とだけ返してパソコンに向き直る。どす黒い何かがお腹の奥の方で、ぴくりと動いた気がした。

東京駅を通って通勤している。東海道線のホームからは、隣のホームの東北新幹線が見える。かつて帰省を終えて東京へ戻ってきた私を現実に引き戻す存在だった東海道線を、今や日常で使っていることに、今でもたまに驚く。

東京での生活もだいぶ長くなった。東京と自分の間に違和感や境界を感じることもほとんどなくなり、漸くこの街に順応しつつあることを感じている。それでもやはり、ふとしたときに地元を思ってさみしくなることがある。

東海道線の窓から、やまびこの行き先「仙台」の文字がふいに見えたとき。地元の友人から何気ない連絡がきたとき。SNSで、帰省している友人を見かけたとき。

地元に帰省していないのは私の自己判断で、都から命令されているわけではない。他人には他人の事情や考えがある。そうわかっていても帰省する友人を妬んでしまう自分がいて、意外とぎりぎりのところで自粛を続けているのかもしれないと気がついた。

・・・

仕事が早く片付いたので、東京駅で大丸へ寄った。入口をくぐるとすぐに、おいしそうな銘菓が並んだコーナーがある。チョコレートやマカロンにも惹かれたけれど、今日のお目当てはゼリーだった。

アンリ=シャルパンティエのフルーツがたっぷり入ったゼリー。見た目もかわいい。試食のフィナンシェをくれた店員さんに声をかけた。

「配送、できますか?」

次にいつ会えるかまだわからない家族へ。特に、来月誕生日を迎える大好きな母へ。帰省して直接ことばを伝える代わりに、ゼリーと焼き菓子のセットを送ることにした。

家族の喜んでくれる顔を想像して、さみしさが軽くなる。新人に感じたもやもやした気持ちも、薄まったような気がした。

私は私の家族が大好きで、大切で、だから今は帰省しない。私はこの方法で家族を守ると決めている。他者を羨む時間があったら、会えない家族を喜ばせることに使いたい。

さみしさの分だけのありったけの愛情が、大好きな家族にちゃんと届きますように。


〜おまけ〜

ちゃんと家族に届いたみたいです。家族のよろこぶ声を聞けて、何かを失くしたようにつつしむ日々を送っている自分が、救われたような気がしました。

予想もしなかった世界の動きに知らず疲弊しているみなさま、どうかご自愛ください。

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