見出し画像

マフラーの話。


「コートは重くて好きじゃない。肩が凝るから」


そう言った彼女が重荷に感じていたのは、コートではない、もっと別の何かのように僕には思えた。


僕達が通っていた高校は、田舎ではめずらしい私立の中高一貫校で、所謂「自称進学校」というやつだった。


毎日スクールバスで通学、同級生は6年間一緒、高校受験はなし。そんな僕達のことを、よく先生は「ビニルハウス育ち」と揶揄した。


僕達はそんな温室で守られながら、そこから外に出たいという気持ちを持て余しつつ、それでもなんとなくその居心地のいい環境を甘んじて受け入れていた。いや、当時はそんなこと考えたりしてなかったかな。


そんな学校だったから、制服はもちろん、通学鞄も、コートも、手袋までもが学校指定で、唯一自由を許されていたのがマフラーだった。「黒・紺・茶、またはスカートと同じ柄(緑のチェック)」なんて条件付きで。


マフラーの柄にこれといったこだわりもなく、ただ真っ黒なデザインのものをぐるぐると首に巻きつけていただけの僕とは違い、彼女は毎日、校門を出て数メートルしてから先生方に見つからないようにきょろきょろして、校則破りのクリーム色のマフラーを巻いていた。成績優秀、生徒会に入ったりしていた彼女にもこんな一面があるのかと、少なからず驚いたことを覚えている。


僕達の住んでいた地域は、東北でも雪があまり降らない土地だったが、それでも東京に比べれば格段に寒く、空気は刺すような冷たさだった。そんな中でも防寒具はマフラー1つで、生足を出し、頑なにコートを着ようとしない彼女に
僕は一度だけ尋ねたことがある。


「こんなに寒いのに、どうしてコートを着ないの?」と。それに返ってきたのが、冒頭の彼女の台詞だったというわけだ。


加えて、彼女はこんなことも言った。
「知ってる?首元をあっためるだけで、全身が暖かくなるの。コートがなくても寒さに耐えられるくらい」
騙されたと思って、一度試してみて。そう言われるがまま試してみると、なるほど確かに暖かかった。「本当だ」と驚く僕に、「でしょう」と得意げに笑う彼女の首元で揺れるクリーム色のマフラーはなんだか羽根のようにも見えて、外の世界を好む彼女にぴったりだと、僕は思った。



高校受験を終え、卒業式当日。久々に見かけた彼女が身につけていた防寒具は、相変わらずクリーム色のマフラーだけで。東京の有名私大に合格したらしいと、クラスメイトから聞いた。


「東京は暖かかったよ」なんて話す彼女は、これからもっと軽装になるんだろう。温室を出て、身軽になった彼女は、きっと僕なんかには到底届かないような世界で、まぶしく活躍していくのだろう。



今にして思えば、あれが僕の初恋だったのかもしれない。


今でも、街の人々がマフラーを巻き始める季節になると、僕は彼女を思い出す。


(まとまらなかった...リハビリだから許して。
コートが好きじゃなくてマフラー1つで東北の冬をやり過ごしていたのは私の実話。)


#コラム #エッセイ #冬 #学生時代 #東北
#マフラー


photo by Only Sequelさん
(お写真お借りしました。ありがとうごさいます。)

よろしければサポートお願いします。頂いたサポートでエッセイや歌集を読み、もっと腕を磨いていきます!