最後の決闘裁判/中世が舞台の「今どき」映画
リドリー・スコット監督作品『最後の決闘裁判』を観ました。
第一章・騎士の無骨男ジャン視点の物語、第二章・ウェイのヤリ○ン従騎士ジャック視点の物語、第三章・アホ男たちに翻弄されたマルグリット視点の物語で構成された、芥川龍之介『羅生門』手法の映画と言われている作品です。
が、羅生門より先に『Black Box』を思い出してしまいました……。
1.ジャンの視点
「苦労を重ね、愛する妻が友人に強かんされ、妻のために命がけの決闘に挑む」という、とても一般的な「ファンタジー映画の男性主人公」に見えます。
でも、主人公・ジャンの悪い所が全く描かれず、ライバル・ジャックが全ての悪を背負っていて、妻・マルグリットが「主人公に都合が良すぎる」「自我がほぼない」従属的な女性として描かれていることが印象的でした。
『幻想の普通少女(内田春菊)』で、主人公の同級生・カッコつけ屋の真一が「常に自分に酔っている・他者視点が欠けている・自分中心に地球が回っているような少年」として描写されていますが、ジャンもそういうイメージ……。
妻・マルグリットの目から見たときに、ジャンの実像は全くアレだった……と知ることができます。
2.ジャックの視点
『もしかしてだけど』を素で行くバカ男です。
既婚女性マルグリットに一目惚れしたジャックは、彼女の態度がどうであろうとも「もしかしてだけど、それってオイラを誘ってるんじゃないの?(どぶろっく『もしかしてだけど』)」と無理やり自分に都合良く解釈して、最後には彼女を強かんします。
そして「俺は不倫してしまった!(※暴行)」「他人の妻と愛し合ってしまった!(※強かん)」「神に謝る!!(マルグリットには謝らない)」と明後日の方向に向かって反省します。
ていうか「強かんじゃない愛し合った」「不倫として反省している」って、今話題の監督そのまんまじゃん……。
この監督の反省文を読んだけど、明々後日の方向に向かって反省していて驚いた……。
『どぶろっく』でも思いつかないような酷さだよ……。
3.マルグリットの視点
ジャンとジャックの証言が、いかに偏った視点だったかを知ることができます。
マルグリットのことを、ジャンは「従順で自我のない妻」、ジャックは「恋の駆け引き相手(失笑)」と認識していました。
しかしマルグリットにとって、ジャンは「仕事できねえ甲斐性なしモラハラ自己中野郎」、ジャックは「クソほども信頼できねえ良い所は顔しかない悪い男」でしかありませんでした。
しごでき女のマルグリットが彼らに抱く印象は、めちゃめちゃ容赦ないです。
マルグリットが暴行されるシーンが長すぎる、という批判もあるようですが、あそこまで「めちゃめちゃ抵抗しました!」的に描写しないと分からない視聴者もいるので、苦肉の策だったのではないか……と個人的には思いましたが……。
マルグリットがジャックに強かんされた後。
ジャンは「俺の妻(所有物)が奪われた」と怒り「お前は俺の女だ」とマルグリットの拒否を無視して強かん(最低)、ジャックは「愛し合っていたのに(どぶろっくネタ的な意味で)」と憤ります。二人共くたばればいいのに(暴言)。
傷心のマルグリットですが、義母からは「私だって強かんされたけど黙って耐えた!」と罵られ、女友だちから「マルグリットはジャックの容姿を褒めていた」と謎告発されてしまいます。
小○廉もク○ス・ウーもチョン・ジュ○ョンやフ○も容姿だけなら褒められるだろ……。
現在にもある理不尽なセカンドレイプですよね……。
マルグリットを裁く連中も、時代と宗教背景のせいか「強かんで子どもはできない」「快楽を感じていれば子どもができる」ととんでもないことを正論()として吐いたりします。
マルグリットは「ジャックの罪が裁かれればそれでいい」と考えます。
が、ジャンは、テメーのプライドを重視し「命を懸けた決闘」を選択……。
そうしてジャックはころされ、ジャンは数年後に戦地で息絶え、マルグリットは二度と結婚せず仕事しながら長生きしました(めでたしめでたし)という終わり方でした。
作品の舞台は中世ヨーロッパですが、つい先日も似たような報道があったように、大変「今どき」な映画だと思いました……。
榊監督による強かん被害者の一人・石川氏のブログです。
石川「尊敬する監督(※性別指定なし)に、俳優(※性別指定なし)として学びたい!」
榊「可愛い女の子が近付いてきた! もしかしてだけど、これってオイラを誘ってるんじゃないの?」
石川(ここで監督の機嫌損ねたら役を外されるし、誰もいない所で戦っても勝ち目がない……)
榊「彼女から近付いてきました(ドヤァ)」
石川氏個人については全面的な支持をしかねるのですが、この監督から受けた被害に関しては彼女を支援しますよ……。
この監督が言っていることは、どぶろっくコントの斜め上なんだよ……。
どぶろっくは「バカ男の勘違い」が大前提ですが、この監督はガチのヤバ男だから……。
ジャックは、中世ヨーロッパや『どぶろっく』のコントの中だけではなく、今この現実にいるのですよね……。
『羅生門』より先に『Black box』を思い出した件
『Black box』は、ジャーナリスト伊藤氏が、山口(元)TBS海外支局長に性的暴行を受けた事件を書いた本です。
山口元支局長は「合意だった」と主張しますが……
周りの人は「酩酊しながら嫌がって『帰る』と宣言し嘔吐する女性を無理やり連れて行った」と証言……。
「吐かれて大変だった」と山口元支局長は言いましたが……「なら寝かしとけや」以外に感想がありません。
「枕営業だーハニトラだー」と騒ぐ人もいたけれど……嘔吐しながら「帰る、駅で下ろして、嫌だ」と抵抗するハニトラ仕掛人なんて前代未聞、ていうかいないでしょう。
でも山口元支局長的には、ジャックのような脳内変換があって「合意だった」と勘違いしたのかもしれません……どぶろっくもビックリだよ……。
所で、映画の感想で「羅生門ほど三名の視点にズレがない」と言ってた人がいたんだが、マジで?
私にはメチャメチャ違ったように見えたのだが。
この三人の視点は、ドキュメンタリーみたいに「淡々と」描かれている点が、個人的には印象に残りました。
事実的にズレはない。けれど、受け取り方・体験的にはメチャクチャ違ったんだ……というインパクトがあった……。
男性視点で都合の良い「非実在女性」
個人的に一番「キッツい」と感じたのが、『ジャンの視点』でした。
彼にとって、マルグリットは「都合良く従順な美しい配下」であり、彼女自身の「心」がないことにされている。
俗称インセル男性・モラハラナンパ師などが「女性嫌いの女体好き」と批判されていますが、ジャンも「マルグリットを自我のある人間として見ていない」ことが露骨で、誰が見ても悪漢であるジャックと同じくらい気味が悪く思えました……。
今、某ベテラン男性小説家の短編集を読んでいるのだけれど……どれもこれも女性描写が『ジャンの視点』みたいな感じで気味が悪い……。
繰り返しになりますが、『最後の決闘裁判』は中世の話です。
同時に、榊監督・山口元支局長の件のような「現在の問題」を描いた作品でもあります。
今からでも、是非、多くの人に観て欲しい……と願わずにはいられません。
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