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【3人声劇】黒の祭壇

■タイトル:黒の祭壇


■キャラ

エナ・ノワール・カロシーニ 女

18歳にして、魔法学の頂きである魔法省魔法研究庁職員として入省した天才黒魔法使い

黒魔法の権威であるドルートに恋をしている


ドルート・ノワール・ベニニータス 男 ※性別変更あり

世界最高の黒魔法使いと名高い、魔法省魔法研究庁職員

失われた闇の魔術がメインの研究対象


デルトラ・ヴェルト・ソフォス 男 ※性別変更あり

自分が興味のあることにしか熱意を持てない根暗な内弁慶だが、定期的に凄まじい功績をあげる凄腕

エナより年上だが、魔法省職員としては同期


※エナとドルートに恋愛描写がありますが、同性になっても演者が問題ないなら問題ないです

■関連作品
・マジシャンズカラー

・魔法使いが生まれたとき

――――――――――――――――――――――――――


エナ:(NA)

魔法使いが使える魔法は生まれた時からだいたい決まっている

私が使える魔法は黒魔法…魔法界の嫌われ属性だった


エナ:おはようございます、ドルートさん


ドルート:おはよう、エナさん

今日は随分早いですね


エナ:あ、えっと…ま、まあ…あれです!偶然今日はやる気に満ちた日だったんです!


ドルート:それは素敵な日ですね


エナ:ドルートさんこそ…もしかして、昨晩から研究しっぱなしですか?


ドルート:まあ、そんなところです

節目(ふしめ)で切り上げようとは思っていたのですが、節目が見当たらなくて


エナ:あんまり頑張りすぎると倒れちゃいますよ?


ドルート:その時は白魔法を頼りますよ


エナ:えぇ…白魔法使いって私たちのこと嫌ってるじゃないですか


ドルート:だからといって、お仕事を放棄するような方はこの魔法省(まほうしょう)にはいませんよ

それに…黒魔法使いを嫌っているのは白魔法使いだけではないですから


エナ:(NA)

黒魔法…それはかつて闇の魔術や呪いと呼ばれ、人々から恐れられた禁忌(きんき)の術だった

数百年前の魔法使いたちは、世界を支配しようとした闇の魔術師たちと戦い、勝利した

そして、闇の魔術は黒魔法へと名前を変え、世の反映のため研究されることとなったのである


エナ:とは言ったもののさぁ…嫌われすぎだと思わない?

何世代前の話してんだっつ~の、なあ、デルトラ?


デルトラ:…なんで僕に言うの?


エナ:なんでって、いいだろ同期なんだから


デルトラ:はいはい…そうだね…話し終わったなら帰っていいよ


エナ:なんだよぉ、冷たいなぁ…もう


デルトラ:今、忙しいんだよ…かかわってる暇は正直ないんだ


エナ:お、珍しいね、デルトラがやる気なんて

何の研究してるの?


デルトラ:僕だってやる気がある時くらいある…

命に関する研究だ…


エナ:命…?


デルトラ:緑魔法は生命を生み出す魔法だろ…植物を操るのに長(た)けてるわけだから…

その効果範囲として…どこまでカバーされるのか知りたいんだ


エナ:それって…死者の蘇生とかにも関わる?


デルトラ:そこまで来ると…もう失われた闇の魔術の範囲だ…

君の想い人の研究対象だろ…


エナ:ちょちょ…なんでデルトラが私の好きな人知ってんの!?

デルトラ:当たってた…?僕の予想はやっぱ当たるな…


エナ:こいつ…!!あぁもう!絶対誰にも言うなよな!


(エナが怒りながら、デルトラの部屋を出ていく)


デルトラ:やれやれ…やかましい奴…


―――――――――――――――――――――――――


エナ:(NA)

ドルートさんはもともと緑魔法の使い手だったけど、黒魔法使いに転向した変人…それが世間一般の認識だった

しかし、いつの間にか世界一の黒魔法使いだなんていわれるようになり、黒魔法の技術向上に大きく貢献した

そんなドルートさんに憧れてここまでやって来た私も少しどうかしてるのかもしれない


ドルート:命の研究ですか、デルトラさんはやはり面白いことをされる


エナ:まあ、聞いただけじゃよくわからなかったですけど

元緑魔法使いならデルトラが何をしてるのかわかりますか?


ドルート:そうですね…緑魔法は何かを媒介(ばいかい)にして力を発揮する魔法と、0から生み出す魔法のどちらかに大きく分岐します…例えば、この種


エナ:アサガオですね


ドルート:その通り

デルトラさんほどの力があれば、この一粒の種から炎でも焼き切れない強靭なつるを生み出すことができるでしょう


エナ:まあ、デルトラなら余裕だと思いますね


ドルート:では、同じ強度のつるをこの種なしで作るとしたら…どれほどの魔力が必要になるでしょうか


エナ:う~ん…種ありの3倍くらいですか?


ドルート:いいえ、私の見立てでは約12倍…デルトラさんより実力が劣ればより多くの魔力を消費するでしょう


エナ:そんなに…ですか…


ドルート:命を生み出すとはそれほどまでに魔力を犠牲にするのです

しかし、当然ある疑問が生まれます

“魔力量さえ足りていれば、どんな命も生み出すことができるのか”…それが彼の研究なのでしょう


エナ:例えば…人間とか魔物を生み出すこともできるってことですか?


ドルート:…う~ん、難しい話ですね…

いい機会ですから、少しだけレクチャーしてあげましょう

こちらへどうぞ


エナ:レクチャーですか?


ドルート:はい、もう私は緑魔法のほとんどが使えなくなってしまいました

しかし、得意な緑魔法もまだあるのです

それが、この魔法…この瓶(びん)に入っているのが何かわかりますか?


エナ:これは…土と種と砕いた魔石のかけらですかね?


ドルート:その通り

ただし、ただの土ではありません

高純度の魔力水をしみこませた土です…砕いた緑晶魔石(りょくしょうませき)もB級相当の者を使用しています

そして、構築術式(こうちくじゅつしき)を書いた紙を瓶の下に敷かせていただきまして…

丁寧に術式を組んだので、詠唱は無しで問題ないでしょう

では…魔力を込めます…!


(ドルートが術式の書かれた紙に魔力を流していく)


エナ:種が動き出した…土も魔石も…!?


(瓶の中で土が人型になり、自由に動き出す)


ドルート:…ふぅ…これはゴーレムです

土が外殻(がいかく)となり、魔石と種が核の役割を果たしている

土の中では、種から伸びた根が神経や骨の役割を担うわけです


エナ:凄い…こんなに精巧なゴーレムは初めて見ました


ドルート:ありがとうございます

エナさん、このゴーレムは低い知能しか持ちませんが、自ら考え行動します

命を生み出す魔法と言えるのではないでしょうか…しかし、人や魔物とは言い難い…

過去、悪しき魔法使いが“人の素材”を使い、精巧な人間のゴーレムを造ろうとした事例はいくつもあります

でも…それは全て失敗しました…人を構成する素材を全て集めても…何人もの魔法使いが魔力を紡(つむ)いでも…それではダメだった…何かが足りないのです


エナ:何か…ですか…


ドルート:その何かを手にすることができれば…人間は神の領域に足を踏み入れ、倫理の内側から逸脱(いつだつ)し…魔法という“手段”にしか過ぎない物を数次元(すうじげん)高みへ押し上げる…魔法界ではそう考えられています…しかし、私の考えは…


(ドルートが何かに気づき、話すのをやめる)


エナ:…ドルートさん?

ドルート:…いつの間にやら、もうこんな時間ですね…エナさん、今日はもう上がってもいいですよ


エナ:え?は、はい…わかりました、ありがとうございました


(エナは重苦しい顔で外へ出ていく)


ドルート:ふぅ…同期の子が心配ですか?デルトラさん


デルトラ:…気づいてたのか


(扉の陰からデルトラが現れる)


ドルート:素晴らしい練度(れんど)の迷彩(めいさい)魔法です

さすがは、緑魔法界に水星の如く現れた鬼才(きさい)…私も少しの間気づけませんでした

それで、なんのご用でしょうか


デルトラ:少しか…まあいい…ドルートさん…あんた、何を企んでいるんだ…

これ以上、エナを煽(あお)るのはやめてもらいたいな…

あいつがこそこそしてる研究…知らないわけじゃないだろ…


ドルート:…彼女の研究?


デルトラ:知らないとは言わせないぞ…なんでかは知らないが…あいつは…死者の蘇生について調べてる…過去…誰一人として成功させていない…禁忌の魔法をな…


ドルート:ふむ、あなたもご存知でしたか…まあ、デルトラさんが心配する気持ちもわかります…

しかし…正しく行っているのならば、部下の研究対象に口を出すことはできません


デルトラ:研究テーマそのものが問題だろ…!

あんたには、あいつの直属の上司として…止める義務があるはずだ…!


ドルート:…黒魔法が闇の魔術と呼ばれていた理由はなんだかわかりますか?


デルトラ:…何?


ドルート:闇とは恐怖の象徴です

何も見えず、感じず…ただ空虚だけがそこには存在する

闇とはそれだけのはずなのに…人々の心を大きく揺さぶる奥行(おくゆき)を持っているんです


デルトラ:それが…なんだって…うがっは…!!?


(突如、デルトラの胸が締め付けられるような苦しみに襲われる)


ドルート:これは闇の魔術の一つ…“見えざる手”と呼ばれるものです

対象の呼吸を制限するだけの魔法でしたが…長年、多くの魔法使いはこの魔法の仕組みを理解することはできませんでした


デルトラ:それが…なん…だと…


ドルート:黒魔法の源流をたどればたどるほど、その内容は異質で理解しがたくなっていく…

他の色魔法と併用(へいよう)して混色魔法(こんしょくまほう)とすることも現状は不可能…謎なんです…黒魔法というものは

だから皆、黒魔法を…闇の魔術を恐れ、蔑(さげす)む…理解ができない物だから…


(瞬間、デルトラが解放される)


デルトラ:…っはぁ…!!

ごほっ…ごほっ…!


ドルート:怖いだけなんですよ…黒魔法だって、魔法の域を出ないんです

何をしようとも魔法使いが実行可能な範疇(はんちゅう)でしかない

愚かしい妄言で、若者の未来を閉ざす行為は控えていただきたいですね

デルトラさん


デルトラ:…よくわかったよ…ドルートさん

なら…僕は…僕の好きにやらせてもらう…


―――――――――――――――――――――――――


エナ:(NA)

私が、ドルートさんの秘密を知ったのは彼の下で働きだして数か月がたったころだった

卑屈で、ひん曲がった性格の奴が多い黒魔法使いらしくない、その気さくで優しい性格が一体どこから来るのか知りたかった

そんな時、偶然ドルートさんの日記を見つけた

そこに書いてあった、ある名前…イリーナ・ヴェルト・アダムスに私は聞き覚えがあった


デルトラ:ドルート・ノワール・ベニニータス…見つけたぞ…ドルートさんの手記だ…


ドルート:(NA)

イリーナは、魔法教育局(まほうきょういくきょく)の局員を務めていた

未来ある若者の成長のためなら、自らをかえりみないことも多々あった


デルトラ:イリーナ・ヴェルト・アダムス…イリーナ先生が…ドルートさんの恋人…!?


エナ:(NA)

イリーナさんは学校へ臨時教員として向かった際、生徒の魔力暴走に巻き込まれて命を落とした…その後だ…ドルートさんが黒魔法使いとして名をはせるようになったのは


ドルート:(NA)

…彼女が守った命を憎むつもりはない…彼女の行動を否定するつもりもない

ならば…


エナ:(NA)

ドルートさんにイリーナさんを忘れてほしいだなんて思っていなかった…

ただ、ほんの少しだけ私を見てほしい…それすら叶わないなら…“不可能”を証明したかった

あなたが抱いた希望を打ち砕くことになるのだとしても…未来に進むことができるなら、私はそれをするべきだと思っていた…だというのに…


デルトラ:…馬鹿な…こんなことがあってたまるか…!?


ドルート:(NA)

私が彼女の命を“守る”ことを…誰が否定できようか


エナ:(NA)

私は見つけてしまった…倫理の外側を


デルトラ:あの…大馬鹿野郎が…!!


エナ:(NA)

最近研究資料が視られた形跡がある…もし、そうだとするのならば…


―――――――――――――――――――――――――


(深夜の研究室)


ドルート:こんな夜更けにどうしたんですか…?

エナさん


エナ:ドルートさん…!?


ドルート:それは私の大切な研究資料です…鍵もかけておいたと思うのですが…さすがはエナさん…素晴らしいですね…どんな術式で鍵を破ったんでしょうか?


エナ:そんな事どうでもいい!…この研究資料は、一体何なんです…?

どうして、ドルートさんがこの資料に書かれていることを知っているんですか…!?


ドルート:ふむ、あなたの質問に答えるつもりはないですが…僕の質問には答えてほしいですね

どのようにしてこの研究成果にたどり着いたのか…やっぱり生まれながらの黒魔法使いは脳の作りからして違うのかなぁ…その資料の32pにある構築術式…ここが知りたいんです!まさに私が求め続けた答え!!

しかし、理解できずに使用すると、何かしらの欠陥を引き起こす可能性があるじゃないですか

なんて言ったって、チャンスは一度しかないんですから!!はぁ…興味が尽きない…あなたの質問に時間を割く暇なんて無いんです…!フフフ…あははは…!


エナ:無理です…!この資料どおりにやったって…魔力が足りるわけがない…

不完全なゴーレムを作り出すだけです!


ドルート:いいえ、その問題ならすでに解決済みです

あなたを研究助手として雇って本当に良かった…

さて、その研究資料をどうするつもりなのか…教えてくださいますか?


エナ:然るべき場所に提出し、処遇を検討してもらいます…!

私たちが扱うには危険すぎる…!


ドルート:…なら、仕方ありませんね

予定を早めましょう


(突如、エナが苦しみ始める)


エナ:がっ…かはっ…!

見えざる…手…じゃない…!?抵抗…でき…ない…


ドルート:君が見つけ出した構築術式はすでに他魔術への流用が完了しているんです

…大丈夫です、次目覚める時は…もうすべてが終わっていますから…


エナ:…だ…駄目…!!


(エナの意識がそこで途切れる)


―――――――――――――――――――――――――


デルトラ:(NA)

ドルートの手記を盗み出し、その内容をのぞき見た次の日…エナとドルートが消えた

考えられる理由は一つ…儀式を行うつもりだ…


デルトラ:なら…僕はやれることをやるだけだ


―――――――――――――――――――――――――


(黒い祭壇の上でエナが目を覚ます)


エナ:ここ…は…?ひっ!!死体…!?


ドルート:あれ?目が覚めましたか?おかしいなぁ…魔法抵抗力が高すぎるんですかね…

あまり暴れないでください…大切なイリーナが横に寝てるんですから


エナ:ドルートさん…!?…何ですかこの縄…ほどいてください!!


ドルート:それは闇の魔術が編み込まれた縄です、ほどくことはできませんよ


エナ:…力が抜ける…魔力も…!


ドルート:過去、幾人(いくにん)の魔法使いが挑み、なしえなかった死者蘇生…

それはなぜか…最も大切なものが欠けていたからです…それは…魂


エナ:うぅ…ぐぅ…


ドルート:人の魔力には色がある…死後、体から抜けていき散り散りになってしまう魔力にはその者を特定する情報が色濃く残っている…それはまさに魂と呼ぶにふさわしい!

その魂たる、イリーナの魔力をここに集結させる…!外部からいくら魔力を注ぎ続けても駄目だった…君が見つけた魂の再構築術式によって完全に消滅した魂の一部を復元しつつここへ顕現する!!ついに夢にまで見たイリーナが蘇るんだ!フハハハハハ…ははははははは!!


デルトラ:そんなこと…無理だ…!


(突如デルトラが現れる)


エナ:デルトラ!!


ドルート:デルトラ…!?どうやってこの場所が…


デルトラ:街中の地下に植物の根を這(は)わせて…この場所を探しだしたのさ…

高い魔力回復薬がぶ飲みしたんだ…後で払ってもらうぞ…


ドルート:はぁ…何をしに来たのか知らないですが…邪魔しないでいただきたいですね


デルトラ:あんたの手記を読んだぞ…!エナの隣に寝かせている死体…イリーナさんだな…!

エナが見つけ出した魂を収束させる術式を起動させるには膨大な魔力が必要だ…!

あんた一人の魔力で賄(まかな)えるはずがない


ドルート:えぇ、だから…彼女を使います


デルトラ:…まさか!


エナ:うああああああああああ!!


デルトラ:エナ!!


ドルート:“見えざる手”は彼女の“魂”に触れることができる新たな魔術に変化しています!

彼女の魂を絞りつくし、術式を起動させる魔力に変換する!

彼女の肉体から生まれる魔力によってイリーナは蘇るのです!!


デルトラ:させて…たまるか…!!うわぁ!!


(デルトラが近づこうとすると魔力の結界に阻まれる)


ドルート:ここを見つけるために大魔法を使いすぎたフラフラの君ではこの結界すら破れない…大人しく見ていてください

あなたにはこの崇高なる儀式を止める権利なんてないんですから


エナ:デル…トラぁ…!!


デルトラ:ふざけんな…!!…お前がエナの命を奪っていい理由が…どこにある!!


ドルート:だって…彼女は私が好きなんだから…本望でしょう?


デルトラ:なん…だと…?


ドルート:エナさんが私と結ばれるにはこうするしかないんです

イリーナの一部となり、私と共に生き続けるんだ…これ以上ないハッピーエンドでしょう!


エナ:私…は…!!イリー…ナさん…に…なりたい…わけじゃない…!!

私は…エナ・ノワール・カロシーニ…!!あんたの望み通りには…ならない…!


ドルート:何をするつもりです?

もう君にできることなんて何も…


エナ:へへっ…こんな危ない術式…私が馬鹿みたいに資料にほんとのことを書いてるって思ってたのか…って話だよ!!


ドルート:なんだと…!!


エナ:気付かなかった…?あの構築術式を組んだ時に、反転する構築式を隠しておいたんだ…あの研究資料通りに式を構築したんなら…魂は…霧散(むさん)する!!


ドルート:そんな…馬鹿な!!

魂の収束値(しゅうそくち)が下がっていく…!!


エナ:そっちに夢中で大丈夫…?もう一人いるんだよ?


ドルート:あ…?ぐはぁ!!


(ドルートが植物のツタで殴り飛ばされる)


デルトラ:すまない…結界の解除に時間がかかった…


エナ:大丈夫…縄ほどいてくれる?

もう魔法は解いたから、ほどけるはず…


デルトラ:さすがだな…しかし…なんてものを発見したんだ…

本当に死者が蘇るところだったぞ…


エナ:死者蘇生なんて夢のまた夢だったって思ってもらおうとしたんだけど…なんか…行けそうな式見つけちゃって…


デルトラ:はぁ…優秀すぎるのも…考えものだな…


ドルート:あぁ…駄目だ…待ってくれ…待ってぇ…!


エナ:イリーナさんの体が崩れてる…


デルトラ:あれだけ高密度の魔力を…高速で出し入れしたんだ…

無防備な肉体が無事なはずない


ドルート:許せない…許せない許せない許せない!!

貴様ら…私の…私の悲願を…台無しにしやがったなあ!!


エナ:ドルートさん…


デルトラ:エナ…あれはもう、ドルートじゃない…闇に飲まれた哀れな愚か者だ


ドルート:お前らを殺してやる…!!殺してやるぅぅぅうう!!


デルトラ:…エナ…黒魔法は嫌われ者だけど…僕は君がそこまで嫌いじゃない


エナ:は!?なんだよこんな時に…!


デルトラ:魔法に良いも悪いもない…あるのは使い手が抱く感情が、悪意か善意かだけだ


ドルート:何を…ごちゃごちゃと…!!なんだ…!脚が…!!


エナ:いつの間に植物の根を…!さすがデルトラ!すっごい魔法精度!!


デルトラ:はは…さぁ、思いっきりかましてこい


エナ:おう!!


デルトラ:(NA)

エナ…初めて会った時僕は確信したんだ

今後の黒魔法を牽引(けんいん)するのは、こいつになるんだろうと…

だって…みんなが恐れる黒魔法をあんなに楽しそうに、美しく使うんだ…


デルトラ:そりゃあ守るよな…だって、あいつ凄いから…


エナ:さぁドルートさん…馬鹿みたいな計画も…未練も…過去も…私が終わらせてやる!!


ドルート:待て…やめろぉ!!


エナ:うおりゃあああああああ!!!


(エナが思いきりドルートを殴り飛ばす)


ドルート:うごあああああ!!


エナ:…ばいばい、私の初恋


―――――――――――――――――――――――――


デルトラ:最後に打ち込んだのは、魔封じの術式か…?


エナ:…うん


デルトラ:あれだけきれいに入れば、年単位で魔法が使えないだろうな…はぁ…疲れた…


エナ:ありがとう…デルトラ


デルトラ:…別にいい…優秀な魔法使いが…無駄に死ぬことにならなくてよかった

後は…魔法警察が処理してくれるだろ

…しばらくは…引きこもりたい気分だよ


エナ:ねえ…死んだ人にもう一回会うって…そんなに駄目なことなのかな…


デルトラ:…どういうことだ?


エナ:あの構築式をブラッシュアップして、正しく魔力量の確保ができれば、安全に死者を蘇らせることが…むぐっ!


(デルトラが口を塞ぐ)


デルトラ:人も、魔物も、植物も…終わりがあるから…今を大事にできるんだ…

それに…あの構築式、たぶん一か所間違ってる

ケアレスミスのレベルだけど…割とクリティカルな気がする…あれのせいで5割くらい失敗するんじゃないかな…あの術式


エナ:嘘!どこ!?


デルトラ:教えたらほんとに完成させそうだから言いたくない…


エナ:え~教えてよ~!なんか気持ち悪いじゃん!!


デルトラ:(NA)

ドルートが企んだ死者蘇生の実験は、世間への影響を考え公(おおやけ)にはされないこととなった

しかし、エナが作り出した構築術式の雛形(ひながた)は様々な議論を呼び、今なお魔法界では研究が禁止されている


エナ:(NA)

私とデルトラは、ある青魔法使いが作成した混色魔法の構築術式を改良し、魔法界初の黒と緑の混色魔法の構築術式を開発した

ドルートさんは…牢に囚われ抜け殻のように動かないんだそうだ…


デルトラ:…最年少で上級称号(じょうきゅうしょうごう)授与か…まぁ、共同作業だし妥当な評価ってとこかな…

ところで…エナは何イライラしてんの?


エナ:最近入省(にゅうしょう)したミリアっていう白魔法使いに喧嘩うられてるから…どうやってボコボコにする考えてんの!


デルトラ:はぁ…お前は、そういう奴だよな


エナ:何?何で呆れてんだよ!?

おいデルトラ!待てよ!待てってばぁ!

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