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日本農業遺産 三富新田「武蔵野の落ち葉堆肥農法」の体験 ~ 「くいしんぼう ラボ」活動レポート(Vol.11) 

2023年1月22日(日)に行われた年明け最初の「くいしんぼう ラボ」11回目の活動報告です。
今日は「三富落ち葉野菜研究グループ」の島田さん達が企画する、日本農業遺産「武蔵野の落ち葉堆肥農法」の体験会にラボのメンバーで参加しました
大学の敷地を出て、実際の農業に触れるというラボ初の学外活動です。
その内容は、330年続く「落ち葉掃き」を自ら体験し、この地の持続可能な農業の話を伺い、地元料理である「けんちん汁」を頂き、この土地の野菜のおいしさを確認するというぜいたくなもので、武蔵野の歴史や地理、畑と雑木林の関係等、沢山のことを学ぶ機会となりました。

落ち葉堆肥農法を説明する看板

◆平地の雑木林

三富新田の特徴は、短冊状に畑が連なり、短冊の先の平地に雑木林があることです。東京の多摩地区の雑木林は山や丘陵地の斜面にあることが多いのですが、ここは平地に雑木林があるのです。
現地に到着すると、最初にイベント主催の「三富落ち葉野菜研究グループ」の農家の島田さん達が開会の挨拶をされました。参加者は総勢約30人で、私たち以外に社会地理学を学ぶ大学生や大学の先生、ガス会社の社員など様々な方がいました。
挨拶が終わると、各自の持ち場に分かれて「落ち葉掃き」の作業に取り掛かりましたが、今回が初参加の私たちは、落ち葉の集め方や道具の使い方などを島田さん達からレクチャーを受けながら、体験させていただきました。

畑の端にある雑木林の様子

たくさんの落ち葉でふかふかでした。これらの落ち葉を全部集めるのはなかなか大変な作業です。

◆落ち葉の集め方

学校の教室掃除の雑巾がけの要領で、横一列に並んで雑木林の奥から一斉に掃き残しがないようにすることが、落ち葉を集めるコツだそうです。具体的には、

1.熊手で落ち葉をかき集め、山にする。
2.籠を横に倒して、塵取りの要領で中に落ち葉を熊手で掃き入れる。
3.籠を木の横に置き、抱えられるだけの落ち葉の大きな塊を作り、籠に落ち葉を詰めていく。
4.籠の中に人が入り、木につかまり籠ごと転倒しないように注意しながら、足で踏み固めるようにして落ち葉をしっかり詰め込んでいく。
5.籠を逆さにして落ち葉がこぼれないことを確認し、籠を横にして「運動会の大玉転がし」のように転がして、トラックの停車しているところへ運ぶ。
6.2人で籠の真ん中を持ちトラックの荷台に乗せる。この時、籠の上部を持つと落ち葉の重みで、籠の上端が外れて壊れてしまうため注意する。
7.主催者が運転するトラックに同乗し、堆肥置き場まで運搬する。
8.堆肥置き場で籠を下し、籠の中の落ち葉を掻きだす。 

という流れで実際の作業を行いました。
2~4人のグループになり、熊手で落ち葉を集める人、籠を押さえる人、籠に入って落ち葉を足手で踏む人、落ち葉の塊を抱えて入れる人と役割分担しながら作業をすることで、気が付くと、初対面の参加者同士も声をかけながら、力を合わせて作業していました。

落ち葉を集める様子

◆使ってみて分かった!昔の道具のすばらしさ

竹製の大きな籠や熊手は、古民家や博物館に展示してあるものを見たことはありましたが、実際に使うのは初めてでした。まず、驚いたのは今回使用した熊手の軽さ(推定およそ1kg)です。
金属製やプラスチック製とは比較にならないぐらい竹製の熊手は軽かったのです。しかも、絶妙な塩梅で竹がしなり、細かい土や石、ドングリはそのまま、落ち葉だけをかき集めることができました。軽いので長時間使用していても腕が疲れにくい点も素晴らしいと感じました。
東京学芸大学の農園で農器具を使い慣れている平田さんも、「こんなに軽くて丈夫で使いやすい熊手はなかなかないですね」と、この熊手の性能の良さに感心していました。
博物館で目にして「こんなに大きな籠に、一体、何を入れるのだろう?」と思った、その「大きな籠の謎」が今回解けました。それは中に落ち葉を入れて運ぶのに、非常に便利な道具でした。網目の隙間は落ち葉を押し込めて詰めることで、穴に落ち葉がはまり逆さにしてもこぼれないのです。
落ち葉を詰め込むと、1籠50~60kgにもなるそうですが、運ぶときは、この籠を横にして転がして運ぶことで、持ち上げることなく楽々遠くまで運ぶことができます。また、通気性が良いので濡れてもすぐに乾きやすい非常に便利な道具でした。
ちなみに、この地域では、大きな籠をハチホンと呼ぶそうです。竹を八本(ハチホン)で作ることに由来しているとのことでした。
実際に使うことで、展示を見ただけでは、分からなかったことが分かりました。しかし、残念なことに、こうした素晴らしい道具も消滅の危機に瀕しているそうです。
籠については、今回使ったような大きなものを作れる職人さんがいなくなり、新たに買うことができなくなったため、修繕しながら大切に使っているとのこと。
熊手については、作れる職人さんを探し求めて、今は群馬県の職人さんにお願いして同じように作ってもらっているとのことでした。文化の継承のためには、これを支える道具作りの職人さんの後継者を育てていくことも喫緊の課題だと感じました。ちなみに、竹製のこれらの道具は、大事に使用すれば20年程使い続けることができるそうです。
なんと環境負荷の少ない素晴らしい道具なのだろうと先人の知恵に感動しました。

竹製の熊手(写真左)と大きな籠
籠は子供がすっぽり入れるほどの大きさ
2013年から使用している竹製の熊手
落ち葉を入れた籠の重さを体感

これで重量は50~60kgほど。雨などで濡れると70kgを超えるので、持てる程度に中身は調節するそうです。

◆武蔵野の雑木林は人工林

武蔵野台地の北に位置する埼玉県所沢市から入間郡三芳町に広がる三富の地域は、今から約330年前の、元禄7~9年(1694年~1696年)に川越藩主、柳沢吉保の命により藩の事業として開拓された畑とのことでした。
地域内に道路を造成し、道路から間口40間(約70m)、奥行375間(約700m)の奥行がある短冊形地割が特徴です。畑の中央部に農道、最奥部にクヌギ、コナラ、アカマツなどの樹木からなる林を形成させたところが特徴的です。こうして出来た雑木林が、この地域独特の景観を作っています。
三富落ち葉野菜研究グループの島田さん達の話によると、畑作で作物を継続的に栽培していくためには、農作物に吸収される土壌の栄養成分を補い続ける必要があり、雑木林は、薪などの燃料や落ち葉を集めて堆肥にして畑へ投入するためになくてはならないものだったそうです。
武蔵野の雑木林は、自然にできた林ではなく、先人によって造られた林だったのです。薪などにするため、雑木を切ると、切り株からたくさんの芽(ひこばえ)がでてきてやがて太い木に成長します。雑木林はひこばえやドングリが芽吹いて成長したりすることで、若い木に更新されながら、330年もの間続いてきたそうです。三富新田の雑木は樹齢60~80年、そろそろ更新が必要とのことでした。
今回訪問した早川さんの短冊形の土地は、畑とその奥の雑木林との間に高速道路が建設されて、雑木林だけが分断されていました。また、ここ数年、ナラ枯れ(コナラなどの木が枯れる)という雑木林の病気が問題になっているそうです。武蔵野の雑木林の維持していくためには、様々な課題があることも知りました。

落ち葉堆肥農法の歴史を説明する旗

◆お待ちかねのけんちん汁

作業が一通り終わった後、どこからかおいしそうな香りが漂ってきました。振り返ると、地元農家特製のけんちん汁が準備されていました。調理担当の農家さんによって味が変わるそうです。
冷えた体に、熱いけんちん汁が染みわたりました。「お替りが欲しい人は、どうぞ」とのアナウンスに、お替りをたくさんして身も心も満たされました。
具には、この土地でとれた大根やにんじんごぼう、里芋などがたっぷり使われていました。実の詰まった味の濃い野菜だと感じました。武蔵野の雑木林でのけんちん汁、最高でした! 

農家さんのけんちん汁
けんちん汁をほおばる学生
けんちん汁を堪能する平田さん親子

落ち葉掃きをして、地面がすっきりしました。 

◆質疑応答とまとめの時間

「集めた落ち葉は、発酵させて堆肥にします。何か質問はありますか」と、落ち葉堆肥農法の説明をする農家の早川さん。
いつもは私たちの質問に答えてくれる平田さんが「堆肥は、落ち葉の他に何を入れて発酵させていますか」と質問しました。
「集めた落ち葉に水と米ぬかを混ぜて発酵させ、2年ほどねかし堆肥が完成します。」と早川さん。
この堆肥を畑にすき込んで、おいしい野菜が栽培できるそうです。肥料は、輸入に頼る農家が多い中、この地域では古くから落ち葉をたい肥にして活用することで、輸入の肥料に頼らない持続可能な農業をしているとのことでした。
落ち葉には、夏にカブトムシが産卵し、孵化したカブトムシの幼虫が落ち葉を食べて糞をすることで、様々な微生物が増えて菌の種類が多様になり良い堆肥になるそうです。堆肥が発酵すると、温度が上昇し、最盛期には手を入れられないほどの熱さになるとのこと。この熱で、冬場は、堆肥から湯気が出ているのが見えるそうです。
雑木林が広く、落ち葉を集める作業は大変なので、継承していくためには、今回の様にサポートしてくれる人の存在が欠かせないそうです。落ち葉堆肥農法を後世に残す活動を今後も応援したいと思いました。

堆肥置き場 落ち葉の中にはカブトムシの幼虫が

平田さんの息子さんは、沢山活躍してすやすやお休み中。
 
くいしんぼうラボの1年目の活動ももうすぐ終わりになります。1年制の学生は、3月に卒業し、2年制の学生は進級の時期を迎えます。
次の年の計画を立てつつ、今までの活動を振り返ろうとのことになり、発表の場を持つことになりました。次回の活動も楽しみです。

辻調理師専門学校 井原啓子

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