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エフェクチュエーション

アントロプレナーシップにおいて、
注目されている理論


〈目次〉
1.はじめに
2.エフェクチュエーションへ 
3.エフェクチュエーションのための3つの資源
4.エフェクチュエーション  5つの原則
5.まとめ 

1.はじめに
現代は、不確実性が高まっている。そのため、社会やビジネスの未来についての予測が困難となっている。

このような現代において、アントレプレナーシップ(※)の新たな潮流として注目を集めているのが「エフェクチュエーション(Effectuation)」である。

(※)
アントレプレナーシップとは、世の中の課題に対して新しい解決策(商品・サービス)を打ち出し、リスクを恐れずに立ち向かっていく精神・姿勢のことを指す。

エフェクチュエーションとは、インド人経営学者サラス・サラスバシー氏が、著書『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』のなかで提唱した理論で、優れた起業家に共通する意思決定プロセスや思考(考え方)を発見・体系化した市場創造の実行理論である。

サラス氏の研究によると、優れた起業家の89%がエフェクチュエーションの理論を実践しているというが、このエフェクチュエーションは起業家を目指す人だけのものではない。

例えば、企業内で新製品やサービスを生み出そうとする人や新規事業の立ち上げなどに携わる人にとっても、優れた起業家の意思決定プロセスは大いに参考となる。

サラス氏によれば、現代で活躍する起業家が取る問題解決アプローチの共通点としてあげられるのは、最初に目標を設定するのではなく、今ある手段から新たな可能性を創造していくことだという。

また、従来と逆のアプローチ方法を打ち出した点も、エフェクチュエーションが注目を浴びた理由である。

2.エフェクチュエーションへ
従来、大企業を中心に取り入れられてきたのは「年間売上20億円」「事業拡大」など、はじめに目標を設定し、それを達成するために最適な手段を後から検討していく方法であった。

このような目標設定型の逆算的アプローチは「コーゼーション」と呼ばれ、将来をできるだけ予測して目標達成のための手段を考え、行動を進めていく。

ただし、コーゼーションはある程度将来が予測できる場合においては有効であるが、不確実で将来の予測がまったくできない時代では、必ずしも通用しないことも多い。

そこで、不確実な状況下で新たなビジネスを創造していく起業家の共通思考が注目されはじめた。

コーゼーションとは対極の考え方の、手持ちの手段から新しいゴールを発見していく問題解決型アプローチであるエフェクチュエーションが求められるようになってきた。

コーゼーションでは「目的」を達成するためにまず、「自分は何をすべきか?(What should I do?)」と考えるのに対して、エフェクチュエーションでは「自分は何ができるか?(What can I do?)」という観点から考え、誰もが持っている「3つの資源」(後述)を洗い出すことで、自分が今、すでに持っている手段やスキルを認識することができる。

3.エフェクチュエーションのための3つの資源
①自分が誰であるのか?
特質、能力、属性

起業家やイノベーターに特定の能力や属性は存在しないため、自分自身の特徴や独自の魅力を明らかにして、それを利用する。

②何を知っているのか?
教育、専門性、経験

個人が持つ知識や経験の内容や量は、それぞれの人生によって異なるため、同じスタートや環境でのベンチャーでもゴールは違ったものになる。 

③誰を知っているのか?
社会的ネットワーク

新しい取り組みを始めるときに最大の資源となるのは、自身が持っている人脈である。直接的な知り合いである家族や友人、他者を通じてつながった人々などがあげられる。

その人たちが持つスキルを、自らのスキルに加えること。つまり、その人たちを巻き込むことで、スキルの幅を広げていく考え方である。

4.エフェクチュエーション 5つの原則
手持ちの手段からスタートし、それらを使って何ができるかを考える、というエフェクチュエーションは、以下の五つの原則から構成される。

①手中の鳥の原則
新しい方法ではなく既存の手段を用いて、新しい何かを生み出すこと。

この原則は、目標やプランによって手段を選択する目標設定型アプローチとは異なり、企業や組織がすでに保有している人材のスキルや技術力、ノウハウ、人脈などの手段を用いた問題解決型のアプローチを行う。

②許容可能な損失の原則
仮に損失が生じても致命的にはならないコストを予め設定すること。

従来のように、将来期待できる利益をベースに戦略を練るのではなく、どこまでの損失であれば許容できるのかを決めておき、それを上回らないように行動する。

大きなリターンに魅力を感じる人も多いが、リターンが大きければその分リスクも大きくなる。 

はじめから巨額の投資を行うのではなく、リスクの小さな少額投資から始め、すぐに切り替えることができるような小さな失敗を重ねて学習することで次のプロセスへと進めていく。

③クレイジーキルトの原則
形や柄の違う布を縫いつけて1枚の布を作るクレイジーキルトのように、顧客や競合他社、協力会社、従業員などのさまざまなつながりをパートナーとしてとらえて、一体となってゴールを目指していくこと。

④レモネードの原則
アメリカのことわざに「When life gives you lemons, make lemonade.」というものがある。これは「人生がレモンを与えたときには、レモネードを作りなさい。」という意味である。

レモネードの原則は、このことわざのように、手持ちのものを工夫して、新たな価値を持つ物事へと生まれ変わらせるという考え方である。

⑤飛行機の中のパイロットの原則
先述の4つの原則を網羅した原則でもあり、状況に応じて臨機応変な行動をすること。

常に数値を確認し臨機応変な対応をするパイロットのように、不測の事態に備え、外部環境の変化に対して柔軟に行動することが重要である。

このことは、未来は自分たちで変えることができるという世界観を意味している。未来は発見されたり、予測されたりするものではなく、ビジネスの実践者自らがカタチにしていく、というマインドセットである。 

4.まとめ
エフェクチュエーションは、激変する市場や予測不能な領域で高い効果を発揮する。

不確実性の高い現代において、状況を臨機応変に判断しながらゴールを目指すこの理論は、企業の経営戦略の手法として、ますます注目されていくと思われる。

ただし、コーゼーションも企業にとって重要な経営戦略の手法であることに変わりはない。

一般論としては、0から1を創るような新規事業に取り組んでいくにはエフェクチュエーションが有効であり、1から10にするような既存の事業の延長にはコーゼーションが有効といわれている。

但し、場面や状況に応じて、両方の手法を平行的にすすめていくことも有効といわれている。

総じて、不確実性の高い時代においては、経営戦略や手法についても絶対的な正解はなく、状況に応じた柔軟性と素早い行動力が求められるといえるだろう。

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