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短編小説|初めてのサンタクロース

 サンタクロースが来た。どうせ今年もやって来やしないと思っていたのに、クリスマスの朝、目を覚ませば万年床の枕元に包装された大きな箱が置かれていた。40を過ぎた独り身の中年男性である俺の元に、ついにサンタがやって来たのだ。

 この歳になるまでサンタが来なかったのはクリスマスのお祝い事とは無縁に育ったからだろうか。男手1つで育ててくれた父親は毎年この時期になると仕事が忙しく、俺は放って置かれていた。サンタからのプレゼントにはしゃぐ周囲を横目に、毎年願い続けてきた。この歳になっても願い続けてきたのだ。

 今年は高級時計をお願いしていたのだが、箱の大きさからして違うようだ。いや、40年間願い続けてきた全てが詰まっているのかもしれない。嬉々として包装紙を剥いて箱を開ければ、中には真っ赤なコートとズボン。子供だったら泣いていただろう程におそろしくダサいそれは、よく見ればサンタの衣装だった。一体何の冗談だと言うのだ。

 予想外かつ悲惨なプレゼントの中身に愕然としていると、衣装とは別に小包が箱に入っているのに気付く。開いてみれば中には一本の鍵。何の鍵なのか、不思議とすぐに予想がついた。鍵を持って部屋を出ると、私は実家に向かった。

 実家の庭には大きな車庫が建っていて、昔から父親に「そこには近付くな」と口を酸っぱくして言われ続けてきた。原付で1時間ほどかけて帰ってきた私はすぐに車庫に向かい、閉ざされたシャッターの鍵穴に先ほどの鍵を差し込む。何の引っ掛かりも無くスムーズに刺さった鍵を回し、勢いよくシャッターを開いた。

 未だ眩い冬の朝日が照らし出すのは、エサを食べる数頭のトナカイと巨大なソリ。そしてその上で葉巻をくゆらしながら瓶ビールをあおるサンタクロースの姿だった。

「おう、せがれ。俺はもう引退だ。来年からは頼むぞ。ふぉっふぉっふぉ」


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