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読書log-『鏡は横にひび割れて』(『半落ち』を添えて)

面白かった・・・!
しんみりと、・・・面白かった!!
市の図書館で数ヶ月待ちだった本書をついに手にしました。
その前に読んだ『半落ち』と読後感は似ている。


下記、ネタバレと考察・感想です!






本作で感じた「ミス・マープル」について
初めて読んだマープル作品です(これから読みたかったの!!)
読み終わってから調べたら、『アクロイド殺し』のキャロラインを元にしているキャラなんですね。キャロライン好きでした!!!なるほどねぇ。知ってから2周目読んだらアクロイド殺しも思い出してしまって辛さ倍増。
「オールドミス」という言葉は本作で初めて知りました。結婚適齢期を過ぎた人を指す言葉・・・英語はなぜ既婚女性を指す言葉があるのでしょうか。結婚することが当たり前だから?この人は未婚ですよと知らせることでその人が結婚しやすくなるとか?結婚してるのかなとか遠回りに調べずにすぐアプローチできるから?ミス・マープルがなぜ結婚しなかったのか、とても気になるけど他の作品で語られているのかな?とりあえず次は火曜クラブを読みます!
年の功と持ち前の聡明さと好奇心で真相を導き出すのが単純に尊敬します。

冒頭の導入が好き
一番最初の、庭の手入れが思い通りにならないことにストレスを感じている描写がめっちゃ共感。心理描写というか、キャラクターの情景を描くのが上手いなぁと惚れ惚れします。
「誰々に似ている」というマープルの人間観察もわかるなぁ。私の持論ですが、「誰々に似ている声」で性格診断ができるな、と思っています。似ている声の人は性質も似ていると思う。不思議です。
2周目に読んだ「マープルが転んでヘザーに助けられて休んでいるシーン」はやばいですね。犯人の名前を口にする殺される人とその人と結婚してた人と真相に辿り着く人。ご都合主義といえばそれまでだけど、抗えない運命で辿り着いた結果としか思えず胸が苦しくなるシーンです。


犯行の疑問点

第一の殺人
ドリー視点を読んだ時の第一印象と同じ結末ではありました。ヘザーが何か知ってはいけないことを知っていて、それがマリーナの表情を凍り付かせた要因であることはわかっていました。
でも、すぐにマリーナ自身がヘザーを殺すほどとは思っておらず、散々弄ばれ・・・真相にたどり着くまで楽しませてくれました。人間の振れ幅ってすげぇ、の一言ですね。人生で一番憎んでいた人物をその場で衝動的に、かつ冷静に殺すなんて。流石に計画を練ってから殺すのでは?・・・すぐに殺せる劇物を持っていたならすぐ殺す・・・だろうか?
でも、ヘザーは本当に歩くテロリストで無邪気に殺意を振り撒いているので同情の余地もありません、、悲劇、の一言です。

第二の殺人
エラを殺したのはマリーナってことでいいんでしょうか?流れとしては最初はアードウィック・フェンに電話してて、その後にマリーナに電話したことになりますよね?
普通に考えて、エラがマリーナを脅迫していたとしたら呑気に屋敷にある薬を体内に入れるなんておかしいと思うのです。マリーナがラッドにエラに脅迫されたことを漏らしてラッドが始末したとかも考えられますか?

第三の殺人
こちらも、なぜロンドンに行ったのでしょうか?ジュゼッペが脅迫したのはマリーナでいいと思うんですが、あのお金はなんのために誰から受け取ったものだったのかがわかりません。事件には関係ないものだった?
ジュゼッペを銃殺したのがマリーナだと思えないんですが、本当にマリーナが殺したのか・・・?屋敷の中で銃声がして気づいた描写があったのがメイドのビアンカのみってのも疑問です。プレストンもラッドも共犯だった可能性?エラの時と同じように脅迫されたことをマリーナがラッドに漏らして、ラッドがプレストンに指示して殺した可能性もあるのでしょうか?プレストンがグルだと思うのは、グラディスを探していたアメリカ人の青年はプレストンで道を聞かれたのがマープル(グラディスを助けた前後の出来事)だからです。この時のプレストンは純粋に手が足りないから手伝いとしてグラディスを頼っていた可能性もありますが、ラッドの指示で始末しにきた可能性もありますよね?

第四の殺人
最後のマリーナは誰を恐れていたのでしょうか。脅迫者を自分で始末していたとすると怖がる人はいないはず。あのシーンを読むと、最後までラッドに自分がヘザーを殺したとは言っていないということでいいんですよね?
撮影所でのコーヒーの砒素はマリーナ自身が入れたとして、胸像が落ちてきたことはただの偶然だったと思います。脅迫状は悪戯とマリーナ自身が仕込んだもののどちらもあったと思います。
最後に薬を盛ったのはラッドだと思います(確信)


感想

今も昔も人を惹きつける“噂話”
「セント・メアリ・ミードのありとあらゆる舌がさかんに活動していますよ」めっちゃセンスのいいセリフ回しだなぁと思います。今はテレビやネットのおかげで口頭でなくてもニュースを得ることができますが、だから人との繋がりも薄くなっているんだよなぁ、としみじみ思います。プライベートを秘密にできないことと、人との繋がりが希薄になることは等価交換で、どっちが幸せなのかはわからないです。

鎮静剤(カルモー)をみんなが飲んでいること
昔から鎮静剤を飲まないとやってられなかったとすると、やっぱり生きるのは辛いってことですよね。なんのために人間は子孫を残しているんだろう。子供が辛い世界を生きることになるのに。絶滅しようぜ。

“半落ち”の犯人

本作の前に読んだのが横山秀夫氏著の『半落ち』でした。犯人に関わる人の心情を丁寧に描く様子と、日本の現状を書いていることが本作に似ているように思います。
ラッドと梶は似た境遇だったと思います。「壊れてしまった“愛する人”を救えた」という救いのない結末。人生の結末はいつだってそうだと思います。それを誤魔化して、あるいは気づかずに笑って生きている。
辛さの中にも希望はあって、希望を持った若者はいいものだという啓示も似ているように思います。

チェリーは一緒に暮らすのか? “家族”について思うこと
「一緒にいられる人間」かどうかは実際に暮らしてみないとわからないものです。ナイトがマープルに合わなかったように、マリーナに合う人間はそうそういないだろう。片方が合ってももう片方が合わないこともあります。
私は人間の最小単位は二人だと思っています。人間は一人だと不具合が起こる。三人でも四人でもいいのです。一人でさえなければ、卓球もセックスもおしゃべりもできる。それが家族だ。
マリーナは結婚していても養子がいても実際は“一人”だったのだろうと思います。だから自分の家族になってくれる「自分の子供」を求めたが、生まれた子は自分を求めてくれる子ではなかった。実子がもし健常者だったとしても、多分同じだったろうと思います。家族の契りを交わしたもの同士には責任が生じるがそれを無下にし、どこまでも自己中心的で、だから壊れてしまったのだと思います。
マープルが「一緒にいられる人間」を見つけられた描写がチェリーからの申し出であったのだと思います。結婚相手に欠点がないことなんかまずない。そして、世の中全ては“タイミング”です。ナイトとの関係が限界に来ていたこと、チェリーも居場所を求めていたこと、チェリーの欠点を受け入れ、チェリーも相手のしてほしくないことをしないように努力していくことを誓う。うまくいくかはわからないけど、やってみないと結果はわからないのだから。



当時のイギリスに想いを馳せたり、私の趣味の住宅地巡りを疑似体験している感覚、さまざまな立場への感情移入、プロットのうまさに翻弄されて贅沢な読書時間でした。満足度が高すぎて、「鏡は横にひび割れて」というタイトルだけで様々な想いが思い出されて胸が苦しくなります。
人生って辛いよなぁ!

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