長崎戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

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長崎の自己紹介、のち上田の魔弾

 昇格争いに生き残るには勝つしかない両者。しかし立ち上がりの5分間はどちらも特別なことをするのではなく、試合はセーフティな蹴り合いでスタート。442同士で布陣が噛み合ってしまうので、ミドルゾーンでのセカンドボールの拾い合いで始まる。岡山は前節の徳島戦の主な敗因を「球際で競り負けたこと」と捉えていたようで、今回は同じ過ちを繰り返さないぞ!という意味でこういう試合の入りをしたのではないだろうか。
 岡山は、セカンドボールを回収してからの仲間のドリブルで自らのシュートなり、上田のセットプレーなりでチャンスを作っていた。試合の入りにはどうやら成功した模様である。

 立ち上がりの5分が過ぎると、徐々に長崎が本来の形(⇒できれば後方からボール保持~前進を行いたい)を見せていくようになる。長崎は後方からボール保持を行う姿勢を強める形でゲームを運んでいこうとしていた。
 長崎のビルドアップ隊はCB(徳永・高杉)、CH(秋野・カイオセザール、以下カイオ)の4枚。ボールを前進させる中心選手は秋野とカイオの2枚。夏の移籍で加入したレンタル選手はボールスキルが高く、前への展開に長けている。メインとなる形は、秋野が列を下りて最終ラインを3枚にしてボールを運んで行こうとする形(≒サリー)。ビルドアップの出口にはSH(大竹・澤田)と玉田が、岡山の第二ラインの前まで列を下りてボールを受けに行くことが多かった。岡山のボール保持に関しては後述するが、岡山のボール保持と形自体は似ている。

 長崎のボール保持に対する岡山の非保持は、長崎の最終ラインにボールがあるときは第一ライン(ヨンジェ・赤嶺)2枚+第二ライン1枚がプレッシャーをかけに行くのが最優先。プレッシャーをかけに出る第二ラインの選手は、SH(仲間・関戸)だったりCH(上田・喜山)だったり、場合によりけりであった。相手の最終ラインの枚数に噛み合わせに行くのは普段通りの形である。しかしこの試合では前線に赤嶺が起用されており、これまでスタメンであった中野や山本と比べると機動性に若干難がある。そのためプレッシャーが最優先とはいえ、早々と442にセットして相手のボール保持に対抗することが多かった
 非保持時の岡山が特に気を配っていたのが、ピッチ中央(≒第一ラインと第二ラインの中間ポジション)で秋野とカイオにパスの供給をさせないことであった。第一ラインはCBにボールを持たれても、2枚への縦のパスコースを切ることを優先して行い、万が一ボールが入ってしまった場合は上田と喜山が素早く詰めて前を向かせないようにしていた。

 実際のゲームの展開としては、長崎が自己紹介を始めた10分過ぎに岡山がスコアを動かすことになる。12:15、長崎の自陣深くでのスローインをカットする形から仲間がカイオにファールを受けてFKに。そのFKを上田が直接決めて岡山が先制。カイオのバイタル中央でのファールは、上田というJ2屈指のキッカーのいる相手に対してやや軽率な振る舞いだったというかスカウティング不足だったように思う。

積み上げたモノを見せつけろ

 先制した直後にも、長崎の自陣深くでのクリアを増谷がカットすると、上田→仲間→赤嶺→上田と素早く繋いで仲間がシュート、徳重が弾いたところに赤嶺が詰める形で決定機。これが15:30。
 さらに18:30にも、仲間からボールを奪ったカイオに喜山が素早く詰めて奪い返す⇒ヨンジェに繋いでシュートというシーンが見られた。

 前述の展開に代表されるように、この日の岡山は特に前半、相手ボールになったとき、マイボールになった直後の攻→守、守→攻の両トランジションの局面で長崎を圧倒していた。ネガトラでは長崎がボールを回収した直後にボールホルダーにプレッシャーをかける、近くの選手が素早くプレッシャーのフォローに入ることで長崎に展開を許さずに蹴らせることに成功。マイボールになってからのポジトラでも、近くに選手がいるので孤立せず、素早くトランジションからの攻撃に繋げることができていた。

 岡山が先制に成功してから、時間で言うと15分過ぎからであるが、岡山も後方からのボール保持⇒前進作業を進めるようになっていった。岡山のビルドアップ隊は、長崎同様にCB(田中・ジョンウォン)とCH(上田・喜山)の4枚が中心になっていた。長崎の非保持時は、442のセット陣形を崩さないように守っていた。そして第一ライン(呉屋・玉田)があまり深追いせず、中央に留まっていることが多かった。そのため岡山は、上田が最終ラインに下りる形から4対2の数的優位を作ってボール保持をすることができていた。最終ラインからの数的優位を確保できていたので、SB(廣木・増谷)はあまり下がることなく、横幅を取るポジショニングを取っていた。

 岡山が後方でのボール保持を続けていると、長崎の非保持時の問題点が浮かび上がってくる。大きくは2点。1つ目は、前述した第一ラインの守備貢献の少なさ。そして2つ目は、第一ラインと第二ラインの動きが連動しないところから間延びが発生してスペースができていた点。特に2つ目の問題点が深刻で、岡山はこのスペースを使って、CH(主に喜山)が受けたり、SH(仲間・関戸)や赤嶺が落ちてきて受けに入ったりすることで、ボールを前進させる起点にすることができていた。
 中野に代わって久々の先発起用となった赤嶺は、保持時はヨンジェと縦関係の2トップ。後方からの縦パスを上手く引き出して中継点となりつつ、そこからゴール前に飛び込んでいく動きで良く機能していた。この動きのおかげで、ヨンジェや仲間が下がりすぎることなく、ヨンジェは最終ラインとの駆け引きに集中でき、仲間は高い位置でドリブルまたはキープする仕事を増やすことができていた。

 トランジションとボール保持で主導権を完全に握ることに成功した岡山が追加点を奪うのは時間の問題であった。27:15、敵陣左サイドでの上田・廣木・仲間のボール保持⇒中央の喜山、関戸と経由して右サイドを上がった増谷に展開⇒増谷のクロスに赤嶺、仲間と詰めて2-0。
 左サイドでのボール保持の前段階で、仲間がトランジションからのロングカウンターで決めきれなかったものの長崎を押し込み、ゾーン2(≒喜山のいたポジション)にプレッシャーがかかりにくい形を作ったところから始まっている。中央を固める相手に対してサイドからサイドへの速い展開で中央のマークをズラし⇒ゴール前に飛び込んでいく形での理想的な得点であった。

 追加点を許し、加えてさすがにボール保持を許しすぎだということで、30分辺りから長崎も前からのプレッシャーをかけに出ようとする。しかし第一ラインが積極的に追いかけるというよりは、第二ラインまたはSB(亀川・翁長)の選手が我慢できずに突っ込むというモノで、あまり連動したプレッシャーにはなっていなかった
 岡山のボール保持は、一森まで下げる形だったり、SB(廣木・増谷)が下がって受けに入る形だったり、2点差ということもあって無理せずに後方の人数を増やすことで対応していた。SBが受けて、そこにサイドに流れたSH(仲間・関戸)や赤嶺が絡んで外からボールを前進させる形を増やしてゾーン2までボールを運ぶと、そこからの喜山と上田へのマークは弱いままだった(⇒どのラインが見るのか曖昧)ので、前から行きたいはずの長崎は結局、最終ラインを上げられずにズルズルと下がる場面が多かった。

 非保持時を修正できない長崎は、ボール保持でも後手を踏んでしまうことになっていた。徳永も高杉もボール保持⇒前進が得手でないことは明らかなので、CB2枚+CHで岡山の第一ラインを突破できない状態が続くと、玉田や大竹などが我慢できずに列を下りてきてしまう回数が増える。これによって前線の呉屋が孤立。ゴール前にボールが入れば多彩なフィニッシュで得点を量産できる呉屋だが、単独での打開が得意な選手ではない。J2日本人得点王はゲームの流れから完全に消えてしまうこととなった

 442でセットする岡山は第二ライン4枚が中央から動かされることが少なく、3ラインをコンパクトにすることで、受けに下りてきた選手をしっかり見ることができていた。また中央にポジショニングしているときの秋野・カイオへの警戒は序盤と変わらず、2人が我慢できずにサイドに逃げる回数が増えていたので、長崎発信の攻撃でピンチを招くことはほとんど無かった。

 ここまで万事順調にゲームを進めていた岡山だったが、41分に田中が負傷。増田との交代を余儀なくされる。以降の岡山は無理に前に行くことなく、自陣までプレスラインを下げて対応。ピッチ内では喜山が、テクニカルエリアでは有馬監督が細かく指示を出しているのが印象的であった。前半はこのまま2-0で折り返し。2試合続けてCBが途中交代となってしまった岡山は、前節と同じ轍を踏むことなくゲームを運べるか。

落ち着いて、空いているスペースを見て…

 前半の立ち上がり同様、後半の立ち上がり5分も両者ともに最終ライン+GKの判断はロングボール優先。サイドをターゲットにしてそこからのトランジションを起こそうとしていた。実は岡山の方はゴールキックのスタート時にSBが受けに下りようとしていたのだが、一森の判断はロングボールであった。増田とジョンウォンの足元を気にして、立ち上がりは無理なリスクを負わないようにしていたのかもしれない。

 立ち上がりの5分がロングボール主体だったのが前半と同じなら、それ以降は長崎がボール保持をしようとするのも前半と同じ。そして、その長崎のボール保持が上手くいかないのもまた前半と同じであった。後半の岡山は徳永・高杉にボールを持たせつつ、第一ラインから中央(≒前半同様秋野・カイオ)へのパスコースを切ってサイドに誘導⇒サイドに逃がしたりバックパスしたりしたところをトリガーにプレッシャーを強める形を取っていた。52:00にはその形から上田がボールを回収~持ち運んでクロス⇒赤嶺が飛び込むもクロスバー。

 前半のデジャヴは避けたい長崎は55分に翁長→米田。米田が右SBに入ると直後の56:17、カイオから玉田、大竹と繋いでペナ内まで侵入した米田がクロス⇒呉屋が詰める形で決定機。ボールを持てる選手を後方に増やしてボール保持を機能させようとする長崎。

 しかしその後しばらくは、再び岡山の時間帯。CB(増田・ジョンウォン)のパス能力を考慮して、SBが低いポジションを取り、一森に下げる形を増やすことで、長崎の陣形を縦横に広げて第一ライン(呉屋・玉田)の背後で上田や喜山がオープンな状態でボールを受ける形を作る。そこからサイドに展開⇒SHとSBの連動でサイドから前進させる形を狙っていた。
 岡山は左右両サイドとも、SH(仲間・関戸)が中に絞っている時はSB(廣木・増谷)が外にポジショニング、逆にSHが外に開いた時にはSBが中にポジショニングすることで常にパスコースを確保することができていた。サイドを起点にボールを前進させることができていたこの時間帯までで、決定機に近い形は少なくとも4つはあった。ここで3点差にしていればもっと楽なゲームになっただろう。

同じ轍は踏まなかった岡山(失点したけど)

 64分に岡山は赤嶺→福元。この時間辺りから、岡山の非保持が第一・第二ライン間の秋野とカイオへのコースを消せなくなってくる。そのため岡山は無理にプレッシャーに行くのではなく442で帰陣するようになる。すると後方にかかるプレッシャーが弱まった長崎は、岡山の第一ライン脇からボールを前進させる形を増やしていく。68分には大竹→吉岡で右サイドの運動量を増やそうとする長崎。
 この交代直後、68:15、秋野が第一ライン脇から持ち運ぶ動きから亀川、玉田と繋いで中央のカイオがフリーに⇒カイオから右サイドの米田に展開⇒中央のカイオに戻して左サイドの澤田に展開⇒澤田のクロスに吉岡が折り返し、玉田が詰めて2-1。

 この攻撃がヒントになった長崎は、70分以降ほぼ一方的にボールを保持。サイドから運ぶ形を見せて、岡山のブロックをボールサイドに寄せる⇒中央の秋野・カイオや列を下りてきた玉田がフリーの状態を作り、そこからサイドに展開してスピードアップさせる形を狙っていく。
 長崎は83分に澤田→イバルボ。呉屋との2トップでハンマーを増やし、ガードの上から殴りかかりに出る。狙いたいのは得点シーンのような、サイドからのドリブル~クロス⇒大外折り返しに詰める形。

 これに対して岡山は、442のブロックを下げて対応。SB(廣木・増谷)が大外に引っ張り出されても、SHやCHが下がってスペースを埋めることで中央は絶対に使わせない強い気持ちを見せて逃げきりを図る。
 85分以降は、最終ライン4枚がペナ幅を守って、SHがそのまま下がることでサイドを埋める。長崎のパワープレー気味の攻撃に対して6バック上等の逃げ切り体制。イバルボへのダイレクトなロングボールは増田が対応。91分には仲間→椋原のクロージングで逃げ切った。

雑感

・長崎は組織の構成度というよりは、前線のタレント力でここまで来たんだな、ということが分かる試合であった。秋野・カイオがパスを前線に供給できれば、個人能力の高さでどうにかできるようなシーンを作れるが、肝心の2人がパスを出すためにフリーにする形を自分たちの動きで作るシーンは最後まで見られなかった。あまり整備できていないようだった第一ラインからの守備も含め、何というか色々勿体ないチームな気がした。

・一方で岡山は、ボール保持・非保持の両局面で積み上げてきたもので長崎を上回ることができたゲームとなったが、特に積み上げてきたものの差が顕著だったのがトランジションの部分だったように思う。

・攻→守のトランジション(=ネガトラ)では、たとえ帰陣優先のゲームプランであっても相手ボールホルダーに自由を与えないことができていたか。守→攻のトランジション(=ポジトラ)では、奪った直後のボールホルダーのフォローに入ることで攻撃に繋げることができていたか。この日の岡山は両面で長崎を明らかに上回ることとなっていた。

・前節の反省点で有馬監督は、「球際で競り負けた」ことと「マイボールを簡単に捨て過ぎた」ことを挙げていたが、プレッシャーのあまり強くない相手であったとはいえこの2点を見事に修正してきていた。この日も田中が負傷してしまい、重要な選手が負傷するのが続いている流れは決して良いとは言えない。しかし自分たちの殻を破り続けてきた今のチームならば、この良くない流れをひっくり返すツキを持っているのではないかと期待し過ぎは良くないが、どうしても期待してしまう。


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