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2024 J2第1節 ファジアーノ岡山 VS 栃木SC の雑感

 13人の新加入選手のうち8人がメンバー入りし、7人を先発起用してきた2024シーズンのファジアーノ岡山。木山監督体制の3年目とはいえ、マンネリとは違う新しい気分にさせてくれる組み合わせです。全体的に悪いわけではなかった(と今でも思っている)ものの、どこか停滞を感じるのも無理はないというような内容でもあった昨季からの変化をピッチ上で見たいところでしたが、なるほど確かに昨季の課題に対してそれなりの解答を持って今季を迎えたのが分かる開幕戦でありました。そんな栃木との開幕戦をいくつか
のトピックで振り返っていきたいと思います。


スタメン

  両チームのスタメンはこちら。

シャドーの動きがスイッチとなるオフボール

 大方の予想通り、3-4-3(3−4−2−1)のフォーメーションでスタートしたファジアーノ岡山。まずは岡山がボールを持った時のシステム・構造について見ていこうと思うが、昨季後半の岡山と違って感じられたのが、「とにかくボールを持たない選手のオフボールの動きが活発」であったこと。特に3トップのうちの2枚のシャドーとして起用された木村・岩渕のアクションは非常に精力的であった。

 この試合の岡山のシャドーは、ボールを持たない時には5-3-2を基本的なフォーメーションとしていた栃木のサイドCBとWBの間のスペースへの抜け出しと、アンカーである佐藤の周辺のスペースでボールを受ける動きとの2つを基本的なアクションとしているように伺えた。2つの動きの優先順位は、前者となる栃木のサイドCBの背後への抜け出しの方が優先としているようであった。

 岡山にとってここで重要なのはこういったシャドーの動きを単発的なものにしない、ということである。この試合での岡山はこのあたりをしっかりと認識していたようで、シャドーの動きを汲んでCFであるグレイソンが最前線に留まってポストプレーをするか列を下りてボールを引き出す動きをするかを決めているようであった。
このようなシャドーのアクションに対してCFがそれを汲んで動く、という前線3枚の基本的な動きに合わせて、さらにボールサイドのWBが大外の高い位置を取るのか内側に絞るのか動きを起こすようにしていたのも印象的であった。

 こうして3トップ+ワイド(WB)の2枚の5枚の選手が、シャドーのアクションをスイッチに芋づる式のような形でそれぞれに動きを入れることで、CHの2枚やボールサイドのサイドCBもどこに動くべきかを判断してアクションを起こしていた。このようにしてピッチ上で岡山の選手たち(特にボールを持っている選手より前の選手たち)のオフボールの動きが幾度も、そして活発に見られていたので、ボールを持った選手もある程度迷いなく前方向に展開する形を作ることができているようであった。

 この試合のオフボールの動きで重要そうに感じたのは、中央を起点にした場合は両内側から中央の3レーン、サイドを起点にした場合は最低でもピッチ中央からボールサイドの3レーン(できれば逆サイド内側までの4レーン)を埋めるように動くこと。とにかく誰かの動きを孤立させないこと、一人の動きを徒労にしないようにすることは意識的にしていたように感じられた。

長短のボールをミックスさせた前進

 岡山がボールを持って前進させようとする形となった時は、基本的に3枚のCB+2枚のCHの5枚の選手たちによって行われていた。その中でもボール出しの中心となっていたのが中央CBで起用された田上。栃木最終ラインの背後に抜け出すシャドーの動きに合わせた長いボールなのか、グレイソンを起点にした長いボールなのか、栃木のライン間に刺すような縦パスなのか、CB-CH間での出し入れを行うのか、これらのボール出しの判断をとても的確に行っていた。

 他の4枚の選手たちもそういった田上の的確な判断に合わせるように長いボールを使うのか、短いボールを使うのかの判断が良くできていたように感じられた。こういった判断の良さは、前述したシャドーを中心とした5枚の選手たちがしっかりとアクションを起こすことができていたというのも大きい。ボールを持つ選手よりも前の選手たちによる単発的でないアクションがあるので、ボールを持つ選手の判断が詰まることが少なくなっていたと言えるだろう。ボール出し・前進の優先事項としては、①栃木の最終ラインの背後→②ライン間への縦パス→③逃げ道としての大外への展開→④逃げ道としての主にグレイソンへのロングボール、というものだろう。この試合では④のグレイソンがほとんど競り勝つ形を作ることができていたのも大きかった。

 この試合の岡山がボールを持った時のバックラインとCHの形は、スタートは3CBと2CHによる3-2の形であったのだが、CHのどちらか1枚がバックラインに下りる形も比較的多く見られていた。その動きの狙いとしては、栃木のボールサイドのIHやWBのプレッシャーを引き出すことで、栃木のアンカー周辺のスペースやWBの背後のスペースを広げて岡山の前線の選手たちがそこを使いやすくする、というのが主な狙いだろう。

 その狙いに加えて、岡山のサイドCBをSB化させて前に押し出すことで前線の5枚(3トップ+WB2枚)の動きに加えさせる狙いもあると思われる。昨季も左CBの鈴木がメインとなって行われていたサイドCBの積極的な攻撃参加であったが、このボール出しでCHが下りる形が常態化するようであれば、はっきりとした攻撃のシステム・構造として考えられるようになるだろう。

 ただし岡山のボール出し・前進の構造に関しては、この試合だけではっきりと良い・悪いを判断しきれないところはある。確かに前述したように長短のボールを使い分けることで比較的スムーズ(過剰にバックパスを使う必要がない)に前への展開を行うことができていたのは間違いない。しかし5-3-2による栃木のプレッシャーがハイプレスでもブロックをセットしてのミドルゾーンからのプレッシャーでもなく、はっきり言ってしまえば単発的かつ中途半端だったので、GKのブローダーセンまで下げる必要がほとんどなかったというのも事実であった。

昨季からの継続といい意味でのアバウト感

 栃木陣内にボールを運ぶ展開を作ってからの岡山の形としては、ここでも基本的にはシャドーのアクションが始点となって、その動きを孤立させないように動くことを意識しているようであった。敵陣でのオフボールの動きで重要なポイントは、栃木のゴール前で待つ前線の選手が最低でも2人いることとシャドーの動きを孤立させないこととを両立させること。シャドーがボールサイドに流れる動きを起こした場合は、シャドーの選手が孤立しないようにポジショニングする必要があるが、そこでゴール前で待つCFのグレイソンが孤立しないように動く必要もあるので、ボールサイドのWBが内側に入ってグレイソンをフォローし、CHがサイドに流れてシャドーをフォローする動きがあるというのがこの試合での一例であった。

 このように複数の選手が連続的に動く必要が出てくるので運動量は求められるが、3トップと2枚のWBの動きがスピードアップのスイッチとなることや、前線の5枚が直線的な前後の動きではなく斜めの動きを起こすことが推奨されていることなど、ある程度の方向付けはされているようなので見た目ほど激しい体力消耗はないのではないかと思われる。

 栃木陣内に入り込んでからの崩しとしては、中央を起点とできれば良いがやはりサイドからの展開がメインとなることが多かった。ボールサイドのWB-シャドーにボールサイドのCHが加わっての3枚での崩しを狙う形がベースとなって、そこになるべくサイドCBが参加する形を取るようにしていた。特に岡山の右サイドで、右CBである阿部が非常に積極的に栃木陣内深くで関与する形が多く見られていた。こうしたサイドからの崩しの狙いは、前述したどの選手でもいいのでニアゾーンに抜け出す形を作ること。また、こうした攻撃が詰まった時のシンプルなクロス攻撃に関しても大外からクロスを上げるというよりは、クロスを上げるにしてもペナ幅付近に絞ってから上げることを意識しているようであった。

 サイドからの切り崩し・できるだけペナ幅に絞ったクロスなど、構造そのものは昨季の継続ではあるが、この試合で印象的だったのは栃木のBOX内に入るオフボールの動きを優先して多少アバウトでもボールを前に運ぶ形を取っていたこと。具体的には後述するが、敵陣に押し込む展開を作ることができていれば、綺麗にボールが通らなくてもそこからのネガティブトランジション(攻→守の切り替え)でのプレッシャーでボールを回収する形を作ることができる。昨季の後半ならばまずは相手のサイドの選手を外す形を作ってからボールをBOX内に入れることが多かったであろう(⇒なおこれに関してはBOX内でのオフボールのアクションが昨季は少なかったことも関係している)。

 ①ゴール前での人数を確保すること、②斜めのオフボールのアクションを積極的に起こすこと、③多少アバウトな形でもボールをBOX内に入れるのを優先すること。これらによってこの試合では結果的にBOX内でボールを受けた選手が前向きにプレーする回数を多く確保することができ、複数の選手がシュートを打つこと、そして良い体勢でのシュート本数を増やすことにも繋がったと言えるだろう。

3トップからのプレッシャーの徹底

 ここまではボールを持った時の岡山の動きについて見てきたが、ここからはボールを持たない時・栃木がボールを持った時の岡山の動きについて見ていくことにする。3CB+1アンカーでボールを運ぼうとする栃木に対して、岡山はまずは3トップで栃木の3CBによるボール出しに自由を与えないようにするプレッシャーをかけるようにしていた。

 このプレッシャーをかける形で非常に良かったのがCFのグレイソンであった。まずグレイソンが栃木のアンカーである佐藤へのパスコースを消すような立ち位置を取ることで、栃木のボール出しを縦ではなく右 or 左のサイドに方向付けさせることに成功していた。そうなれば次にシャドーの木村・岩渕が内側を切るようにしてプレッシャーをかけて大外に誘導、逃げ道として栃木がWBに出したところに岡山もボールサイドのWBが連続してプレッシャーをかけるようにしていた。ここでCHの藤田・田部井がきちんとボールへの横スライドと縦スペースを広げないようにするためのプッシュアップを行うことで、栃木が内側に逃がしても簡単に前を向いて展開させないようにする形を作ることができていた。

 もちろんこの段階でボールを取り切って栃木陣内からのショートカウンターの状況を作り出すことが岡山にとっての最良の形であるのだが、栃木がこうした岡山のプレッシャーを嫌ってシンプルに蹴り出す形となっても、最終ラインの3枚+逆サイドのWBが横スライドとラインを高く設定することで簡単に逃げられないようにすること、ボールを回収する形を作ることができていた。田上・鈴木・阿部の3CBが機動力がしっかりとあってラインを高く設定することやボールサイドへの横スライド、カバーリングを広くできる、かつ相手との空中戦でそれなりに自由を与えないようにする高さがあるからこそできるやり方でもある。また、逆サイドのWBが相手の大外ではなく自分たちの3CBに合わせたポジショニングをする、というのは地味に重要。ボールサイドから逆サイドに逃がされてもまだ何とかスライドも帰陣も間に合う、それよりもCB-WB間を割られて中央を突破されるのが嫌だとする優先順位の付け方は大事である。

 岡山陣内で栃木がボールを持った時の形としては、5-4-1というよりはなるべくグレイソンとシャドーのどちらか1枚を2トップのようにした5-3-2的にして守りたいのかな、という意図が見えた。そのため、サイドでのWBである柳(貴) や末吉のシンプルな対人の強さも求められるようである。理想はサイドでの攻防をWBの対人とサイドCBのカバーリング、そこにCHのスライドで回収して、そこから3トップを使った逆襲に転じることなのだろう。

ネガトラはボールへの執着

 この試合の岡山が一番印象的だったかもしれないのがネガティブトランジション(以下ネガトラ)、つまり岡山ボールから栃木ボールになったところでの切り替えの部分である。相手のカウンターに備えて素早く全体を帰陣させることもネガトラの要素であるが、この試合で特に見えたのは栃木がボールを回収したところですぐに自分たちのボールにしてしまおうとプレッシャーをかけていったところである。いわゆるカウンタープレスというものである。

 この試合でのボールを持った時の岡山の振る舞いとしては、ここまででも書いてきたようにオフボールの動きを連続的に、孤立させないように起こすことを意識していた。そのため、岡山がボールを失った直後に複数の選手が栃木のボールに対してプレッシャーをかける形を作りやすくなっていたと言える。そこで素早くボールに対してプレッシャーをかけることで栃木の選手のミスを誘ってマイボールに、しかも前向きにボールを再度回収する形を作ることができやすくなっていた。

 ここで重要な役割を果たしていたのがCHの藤田と田部井。特に藤田は非常に高い頻度で栃木のボールの頭を抑えるようなポジショニングを取ることができており、岡山の即時奪回の流れを生み出す中心人物となっていた。前の選手としては、CHやCBがいてほしいところにいてくれること、潰しておいてほしいスペースを潰してくれていることでボールを失った直後も迷いなくプレッシャーをかけることができるということである。

得点シーンはプレッシャーの結実

 この試合での岡山の1点目と2点目はそれぞれこのようなプレッシャーをかける形を意識して行っていたからこそ生まれた得点であったと言える。

 まず1点目は右サイドでの崩しから栃木ボールになったところで、岩渕と藤田が素早くカウンタープレスをかけることで頭を田部井が押さえて再回収、そこから藤田→岩渕→木村と繋いで、木村がドリブルで決めた形。
なお、この形になる前の右サイドの4枚崩し→柳(貴) がクロスを上げた流れもカウンタープレスの展開と言えるだろう。

 次にグレイソンが得点した2点目。これは栃木のバックラインでのボール保持に対して木村が連続してプレッシャーをかけに行く展開(⇒グレイソンがアンカーへのコースを消すことで右サイドに制限させている)から田部井、阿部が連動して田部井がボールを回収、そこから木村が潰れて田部井→柳(貴) がマイナス方向の折り返し、岩渕のデコイランに遅れて入ったグレイソンが冷静に沈めた形である。

 1点目は栃木ボールになった直後のカウンタープレス、2点目は栃木のボール出しに対しての3トップによるプレッシャー。そしてそういったプレッシャーを出しやすく、プレッシャーから攻撃に繋げやすくするためのオフボールの連続した動き。今季の狙い、取り組みがはっきりと得点という成果として開幕戦から現れたというのは今後の試合においても自信になると言えるだろう。

まとめ

・とはいえ栃木の内容が非常に良くなかったことは考慮するべきだろう。プレッシャーもブロック守備もリアクションが過ぎていたので岡山としてはスペースを作りやすかったという部分はかなりあるし、栃木がボールを持った時の振る舞いとしても地上戦とロングボールのミスフィット感は否めなかった。

・自分たちがボールを持った時に整ったプレッシャーをかけるチームやしっかりとブロックを敷いたチーム、逆に相手がボールを持った時にボール出しの手段がしっかりとしているチームやワイドからの攻撃手段が鋭いチーム、そういうチームに対してどういう振る舞いを見せるのかはまだまだ見ていかないといけないところがある。

・それでもやるべきこととやりたいこととをある程度ピッチ内で両立させて、期待値の高い非常に良いパフォーマンスを見せた岡山にケチを付けるのもまた違う。この試合を見る限りでは今季の岡山は、良い意味で相手に左右されることなく自分たちのアクション次第でどうとでもパフォーマンスを向上させることができるチームになれそうな予感はある。結局強いチーム、最終的に勝てるチームというのは、スタイルに関係なく相手に左右されずに自分たちがどうアクションを起こせるかを徹底できるチームだと思うので。なお相手を見るのは、相手に左右されるとは違って、自分たちがアクションを起こすためにもとても大事なことですよ、念のため。

・新加入選手はどの選手も安定して高い質を保てる選手な気がする。ボールを持った時のクオリティもそうだが、オフボールでの判断の質がとても良い。既存の選手たちにとってもとても良い刺激になるのではないだろうか。
その中でも田上と藤田、この2人はもう簡単には外せない選手になってしまった気がする。

試合情報・ハイライト


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