見出し画像

2024 J2第5節 ファジアーノ岡山 VS 水戸ホーリーホック の雑感

 晴れたかと思ったら雨が降り出しまた晴れる。風が強いかと思ったら時に弱まる。(特に前半45分は)晴れと雨がコロコロと変わる環境下で、必要以上の集中を余儀なくされるような試合となりましたが、思ったよりも全然バタつくことなく90分間落ち着いて試合を進めていたファジアーノ岡山にここから先の頼もしさを覚えました。


スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

風に左右されないスタンダード

 北から南への風が強く吹いていたこの試合、前半に風上のエンドを取ったのはアウェイの水戸ホーリーホックであった。どうやら水戸がコイントスで勝って意図的に風上のエンドを取ったらしい。

 立ち上がりの10分ほどは風の影響がどれだけあるかという様子見の色が濃い蹴り合い。そんな中、ファジアーノ岡山は普段通りの立ち上がりでグレイソン・岩渕・田中の3トップから高い位置でのプレッシャーをかける守備を仕掛けようとする。しかし風に乗った水戸のロングボールによって岡山の最終ラインは背走させられ、岡山がボールを深い位置で回収した時のグレイソンをターゲットとしたロングボールは風によって押し戻される形が何度か見られることとなっていた。この展開が続くようだと相当苦しい前半となるところであったが、10分を過ぎた辺りから徐々に試合の流れが変わり始めていく。

 様子見の蹴り合いが済んでからの水戸はバックラインからボールを保持して前進させる形を増やすようになっていった。恐らくロングボール中心で試合を進めていっても風に流されてマイボールを確保するのは難しい、と水戸の選手たちは判断したのだろう。自陣ではSBを下ろしてバックライン4枚+2CHの6枚でボールを保持していく水戸に対して、岡山は前述の3トップからの守備で徐々に試合の主導権を握っていこうとする。

 岡山は3トップで水戸のバックライン→中央へのパスコースを消しながらバックラインからのボール出しをサイドに誘導するようにプレッシャーをかけることで、バックラインのヘルプに向かおうとする水戸のCH(前田・長尾)の動きを岡山のCH(藤田・田部井)が捕まえやすくなる。水戸のボール出しをサイドに寄せてそこで詰まったら、岡山はボールサイドのWBを縦スライド、CHを横スライドして全体を圧縮させてそこで水戸に蹴らせることで、最終ラインが前向きに回収する普段通りの形を出すことができるようになっていった。

 ボールを保持した時にバックラインに人数と横幅を担保している水戸としてはどうにか岡山の3トップと2CHを広げるような形を出したいところであった。だが水戸の2CB-2CH間の距離が近い(≒2CH共がバックラインからボールを引き取ろうとするアクションになっている)こともあって、なかなかそういう形を出すことができていなかった。こうなると水戸がいくらトップ下の落合やSH(新井・杉浦)が列を下りるアクションを起こしたとしても、岡山としては冷静に5-2-3のミドルブロックをボールサイドにスライドさせて適宜ボールホルダーにプレッシャーをかければ、前向きに守備ができる場面を増やすことができるようになる。

 ボールを保持した時の水戸は単純に岡山の最終ラインの背後を狙う前線の人数が少なくなってしまうことが多かったので、水戸の1トップの安藤に対して岡山は柳(育) を中心とした3CBで迎撃する形を取ることができていた。そしてボールが風によって最終ラインの背後に流れた時にはブローダーセンがカバーに入ることで十分に対処することができていた。

 次に岡山がボールを保持した時の振る舞いについて見ていく。特に前半は自陣からロングボールを蹴っても向かい風に押し戻されるので、岡山のバックラインがボールを持った時にはCHを経由して我慢して保持して運んでいこうとする意思が見受けられていた。4-4-2を基本フォーメーションとする水戸は岡山のボールホルダー、バックラインの選手にプレッシャーをかけるというよりは、バックラインから出たところに全体をスライドさせて迎撃のプレッシャーをかけるというような守備をメインとしていた。

 そのためこの試合の岡山は、ボールを持った時にCHがバックラインに下りる形(⇒4-1で保持する形)は前節の藤枝戦よりも少なくなっており、両サイドCB(鈴木・本山)→両WB(末吉・河野)に出したところでWBの並行でヘルプに入る動きや、WBの動きに合わせてボールを受けるアクションを起こした3トップ(特にシャドー)に入ったボールのリターンを受ける動きを増やすようにしているようであった。

 岡山の水戸陣内への前進→スピードアップのさせ方としては、サイドCBを起点としたWB・CH・シャドーを使った運びがメインとなっていた。岡山のCB・CHがボールを保持して攻撃のサイドを決めた時、WBがボールを受けに行くのかサイドの高い位置を取るのかで、シャドーがサイドの高い位置に抜け出す動きをするのかボールを引き出す動きをするのか連動させていく必要があるのだが、その連動のタイミングが徐々にではあるが明確になってきている気がするのは非常に良いことだと思う。

 こうして水戸陣内でボールを持った時の岡山は、向かい風だからこそできるロブのボールも使いつつ、サイド深くにボールを進める形を取ることをメインとしていた。そういった同一サイドでのボール運びがメインとなっている中で、グレイソンのポストプレーを中心にした中央にボールを入れての前進を試みたりや中央を経由してのサイドチェンジをしたりするという、同一サイドでのボール運びだけでない判断をする形がこの試合で何度か見られていたのも非常に良い傾向だと思う。

 岡山と水戸と、ボールを保持した時のそれぞれの振る舞いを見ると、やはり岡山の方がボール出しの精度はともかく(この点については後述) 、相手陣内に前進させる形に迷いがないのは明らかではあった。この差について考えるとやはり ①岡山のシャドーの選手が起こすオフボールのアクションが、岡山のCB-CHからボールを引き出す動きと水戸の最終ラインの背後へ飛び出す動きとでハッキリしていること ②その2シャドーのアクションを汲む形でグレイソンが中間で起点となっていること があるのではないかと思う。①と②は因果関係が逆(⇒グレイソンが良いポジションを取れるからシャドーがアクションを起こせる)なのかもしれないが、どちらにしても3トップがきちんとアクションを起こすことによってWBの選手もそれに合わせたアクションを取ることができるようになり、こうしてボールホルダーの前の選手のアクションがあるからこそ、ボールホルダーはある程度迷わずにボールを展開することができるというのはあると思う。

CHのセカンドボールコレクション

 こうして岡山は、立ち上がりの10分以降は環境にそこまで左右されないで意図した試合の運び方がある程度はできていたと思う。ただ構造そのものは意図したとおりにできていたとしても、ボールを回収した時のクリアではなく前の選手に繋げるプレー(⇒試合前のアップで岡山のバックラインの選手がワンタッチで前にボールを出す練習をしていたので恐らくチームとして意識しているのだろう)や、シンプルなパス・キックというスキルの面で環境の影響を受けて、ボールが弱くなってしまったり強くなりすぎたりできちんと繋がらないという場面は散見されていた。そういう部分の影響をできるだけ減らすというのが本当に積み上げるべき技術なのだと言われれば全くその通りである。

 それはともかくとして、この試合では岡山のきちんとボールが繋がらない時に水戸の迎撃のプレッシャーを受ける形や、前述した水戸の保持に対する岡山の3トップからのプレッシャーがかかる形、当然ロングボールを使った時のセカンドボールの形など、ミドルゾーンにおいてボールの奪い合いというよりはどちらのボールかがハッキリしないという場面がいくつも見られた。

 ここでのセカンドボールワークで非常に素晴らしい働きをしていたのが岡山の藤田と田部井。岡山の保持・非保持両面においてボールサイドへのスライドをサボらず、また岡山の最終ラインの前にできるスペースをしっかりとプロテクトするようにポジションを取っていたことで、「ここでマイボールにできれば攻撃を連続できる」・「ここで水戸に繋がったら一気に前進される」というようなシーンでかなりの確率で先にボールにアプローチすることができていた。特にこの試合での藤田のセカンドボールワークは異常と言っていいレベルであった。

 先制ゴールとなったグレイソンのPKまでの過程は、水戸の保持に対する岡山の3トップからのプレッシャー、何度か連続して起こったミドルゾーンでのセカンドボールワークでの先手、そこからマイボールを確保してからの右サイドでの本山・河野を中心とした同一サイドの前進→グレイソンを起点にした3トップで水戸の最終ラインを右に寄せてからの逆サイドの末吉が詰める形で獲得したPKであった。この試合で意図したことが全てきちんと繋がった形で得点にまで繋げることができたのは今後を考えても非常に大きいと思う。

無理攻めしないで追加点を狙う姿勢は良かったが

 後半になって風上のエンドに立った岡山は、前半以上に水戸のバックラインからの保持に対してプレッシャーをかける姿勢を見せていった。3トップが中央のコースを消しながらプレッシャーをかけていくのは前半と変わらないのだが、守備時のWBのスタートポジションが前半よりも明らかに高くなっていた。水戸がサイドをボール出しの逃げ場にしたらすぐさまWBで喰ってやろうといわんばかりであった。

 もちろんリードしたこと、風上に立ったことによる心理的優位性が多分にあるのだろうが、個人的には岡山が後半開始から田部井→仙波という交代があったのも要因の一つなのではないかと思っている。WBが縦スライドをハッキリとさせることで、仙波のボールサイドへの横スライドやカバーリングのためのポジション取りをしやすくするというような意図は多少なりともあったのかなと。

 ボールを持たない時の岡山が意識的にWBを高い位置に設定したこともあってか、後半の水戸は岡山のWBの背後にボールを出す形を増やしていくことになるのだが、特に岡山の右サイドにおいて本山がしっかりと河野の背後のスペースをカバーする守備ができていた。そのため水戸の保持から背後を取られることによる致命的なピンチは少なかったと思う。水戸の攻撃をサイドで時間をかければ、5-4-1のブロックで中央→逆サイドと迂回させて、その段階でブロックを押し上げることで未然に防ぐことができていた。

 そして後半のマイボールになった時の岡山は、前半のようにサイドを起点にした前進も行いながらも、グレイソンを起点にしたロングボールを前半よりも明らかに増やす形で前進を行っていた。水戸が最終ラインを高く設定していたのでグレイソンに当てる形からのシャドーの飛び出し、というシンプルな展開が何度か刺さっていた。せっかく仙波がCHに入ったのだから、仙波のところで落ち着かせてそこから前進を図る、というような展開がもう少し見られても良かった気がするが、それでも全体を押し上げて、かといって前方に無理に人数をかけることなく攻める形自体は作ることができていた。

 ただ後半の振る舞いで個人的に少し気になったのは、水戸陣内に押し込んだ段階でのプレー選択が少々雑だったのかなという点。まずはボールを持たない人間のオフボールのアクションがあってナンボというような攻めではあるので、丁寧に振れ過ぎたらそこのアクションが落ちる可能性というのはあるのだが、少しパスが雑になってしまうことで逆に水戸にカウンターの機会を与えることに繋がっていたのは否めないところであった。

 ただそれ以外の部分では、後半の試合運びに関しては概ね問題は無かったと思う。追加点を狙いに行きつつも、水戸のボール保持に対して適宜プレッシャーをかけ、岡山陣内に運ばれた時は5-2-3⇔5-4-1のミドルブロックで対応するメリハリの効いた守備で時間をしっかりと溶かして完封に成功した。

まとめ

・強風下の試合となったが、そういった環境を過剰に意識せずにここまでのプレシーズン~4試合で構築してきた戦い方をしっかりとブレずに行うことで、90分間のほとんどの時間帯で主導権を水戸に渡すことなく試合を運ぶことができたのは非常に良かったのではないかと思う。

・本文でも書いたが保持と非保持の両面でシャドーとWBのアクションの連動(⇒上下の段差を作る動き、ボールサイドへの縦横スライド)がスムーズになっているのは特に良い傾向。ボールの収まりどころとしてもプレッシャーのスタートとしても非常に質が高く安定しており、かつ非常に利他的なグレイソンが最前線にいるから、連携の構築がある程度スムーズに進んでいるところはあるのかもしれない。

・前節の藤枝戦で5-2-3⇔5-4-1のミドルブロックを多用してある程度上手く行った部分があったので、この試合でもスタートからそれを常用するのかなというのは試合前の若干の懸念材料ではあった。ただこの試合ではそんなことはなくまずは3トップからのプレッシャーありきという振る舞いだったのは個人的に非常に安心した部分。3-4-3でのプレッシャーがかからなければ、そこで初めて5-2-3⇔5-4-1のミドルブロックから押し上げる形に移行すればいいわけで、そこのチームのスタンダードがブレてはいけない。

試合情報・ハイライト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?