琉球戦の備忘録ー2周目ー

前回対戦

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スタメン

中を使われたくない岡山VS中を使いたい琉球

 開始2分も経たないうちにヨンジェのゴールで先制した岡山。その前段階で赤嶺とヨンジェが上手く琉球最終ラインにチェイスをかけてカルバハルに蹴らせる⇒セカンドボールを高い位置で回収する一連の流れが良かった。またヨンジェのアシストパスを出した仲間のドリブルが良かったのだが、これについては後述。

 早い段階でリードを許した琉球だが、戦い方自体はこれまでと特に変更することはなく、ハーフスペース~中央レーン(岡山第二・第三ライン間)にポジショニングする2列目のレシーバー(富所・越智・河合)に縦パスを入れる⇒縦パスが入った場所でオーバーロード形成⇒レイオフやフリックを駆使して相手の背後を取って崩しに行く形を狙う。4:30からの琉球の左サイドからのボール前進は①上里から左HSで越智が縦パスを受ける⇒②大外に流れた河合が一度受け取る⇒③インナーラップした福井が抜け出すという形で、琉球のやりたいことが垣間見えたシーン。
 琉球はこういったシーンをどれだけ作り出せるか、一方で岡山はこういったシーンをどれだけ阻止できるか、というところが大きなポイントになるのだが、結論から言うとここから前半の終盤まで、琉球は前述のようなシーンを作り出すことができなくなっていく。

 岡山は琉球ボール保持時に前線からプレスに行くのではなく、第一ラインをセンターサークル付近に設定し、ハーフスペースから中央レーンを閉じた中央圧縮の442の3ラインを形成。開始10分までに仲間と久保田がそれぞれ1回ずつ、琉球のゾーン2に入れようとする縦パスをカットしたシーンが見られた部分にSHの中央に絞る意識が強く感じられた。ヨンジェと赤嶺の第一ラインは、上里や風間から直接縦パスが入る形を出させないように外に追いやる動きを徹底。仮に中央にパスが入っても第二・第三ライン間を圧縮させて外に締めだす形を取るようにしていた。

 前半立ち上がりは比較的前からプレスに行く傾向の強かったこれまでの岡山からすると、少し予想外の振る舞い。こういう振る舞いになったのには以下の3つの理由からではないかと推測。

①早々にリードできたことで余裕が生まれたため
②前回対戦で中央に縦パスを入れられる形から決定機を何度も作られていたため
③高温多湿という気象条件のため

 サイドを捨てているのならサイドからだ、ということで琉球もサイド起点の組み立てを開始する。岡山の横スライドを誘って中央に縦パスを入れるスペースをどうにか作りたいところだが、起点となる西岡と福井の両SBはワンタッチで中に入れるとか、持ち運んでとかのプレーが出来るわけではないのでボールが止まってしまうことが多かった。そのため結局岡山の横スライドの方が速く、後ろに下げてしまうシーンや外から外への無理目の展開でタッチラインを割ってしまうシーンが目立っていた。

 ここまでを振り返ると、岡山の442守備が良く機能しており、琉球のボール保持攻撃のギミックを狂わせることができている前半ということになるのだが、岡山の442守備で特に良かったのが第二ラインの関係性。この点は前節の鹿児島戦と比較しても相当良化していた。具体的には以下の3点。

①まずは中央を閉じることを優先させる、SHのポジショニングの整備
②喜山・関戸の両CHのポジショニング関係良化(ex.関戸が前に詰めれば喜山は後方カバーリングポジションを取る。逆も然り)
③SH横スライド時のCHのスライドの連動

 また琉球はサイドから単騎で仕掛けて切り崩せる選手もおらず、大外に展開されてもSBの田中と椋原が1対1で大部分勝つことができており、琉球としてはサイドに展開しても前進出来ずに下げる形となってしまっていた。20分あたりからはロングボールを増やして2列目の選手が岡山の背後に飛び出す動きを見せるが、これもまた有効に通る回数は数少なかった。リーグ得点王の鈴木にボールが入る形を作れていないので、得点を感じさせるシーンがどうしても少ない琉球であった。

 岡山のボール保持時間が少なかったのでシーン自体は多くはないのだが、ボール保持の局面でも前節の鹿児島戦から改善されている場面が見られたのでここで言及しておく。SBが高いポジションを取ったときに、CH(特に喜山)がそのSBの元いたポジションに入ることで後方でのボール保持に関わる回数が増えていた。ダイレクトにヨンジェや赤嶺に蹴るのではなく、ある程度後方で保持をして琉球を引き付けてスペースを作り、そこから前線へのボールを入れたい意図が見られた。主にヨンジェは琉球のSBの裏スペースを狙い、赤嶺は中央でポストになろうとする動きをしていた。

中を使いたい琉球の修正策

 ボールは保持するが全くチャンスを作れていない琉球だったが、30分を過ぎたころから中盤がいくつか動きを見せる。まずは上里や風間が増谷と岡崎の最終ラインに落ちることでボール保持に参加するサリーの動き。次に2列目の列を下りる動き。主に富所や越智が下りることが多かった。どうにかして岡山の守備時の目線や景色を変えることで混乱させたい意図が伝わる動きである。

 実際にこの動きによって具体的にチャンスになりかけた形がいくつかあった。まずは31:02から、①富所が右サイドの低い位置に落ちて増谷からパスを受け取る⇒②越智が右HSに移動、富所から縦パスを受ける⇒③オーバーラップしてきた西岡が椋原の背後を取って抜け出してクロスを入れたシーン。
次に32:55から、富所が岡山第一・第二ライン間まで下りて縦パスを受け取り、そこからレイオフを入れて前進に成功したシーン。
最後に42:28から、①富所とのポジションチェンジで岡山の第二・第三ライン間に入った風間が福井から縦パスを受け取る⇒②風間ターンしてドリブル前進⇒③ペナ付近の鈴木にくさびを入れワンツーでペナ内侵入に成功したシーン。

 全般には岡山のペースで進んだ前半であったが、終盤になって琉球が攻略のヒントを掴むことが出来た形で前半を折り返すこととなった。

システム変更の琉球VSブレない岡山

 前半の終盤になって、中央を閉じる岡山の442攻略の糸口を見つけた琉球は、後半になってボール保持時のシステムを変更。風間を一列上げて上里をアンカーにした4141。後方でのボール保持はCB2枚とアンカー1枚で事足りると考えて2列目のレシーバーとなる選手を増やし、列を下りる動きをしてもライン間に選手を残せる思惑のシステム変更だろう。

 後半立ち上がりはこのシステム変更が奏功。ライン間にポジショニングする琉球の選手が増えたことで岡山の中盤が混乱、第二ラインで相手を掴まえ切れずにライン間で受ける回数が増えた。47:25からは、富所が列を下りる動きからボールを運びフリーで河合が受けてシュートを打つ形。49:55からは、越智から風間、鈴木と中央でワンツー打開を図る形。50:23からは、左サイド低い位置に下りた河合から鈴木、富所と中央を経由して逆サイドの西岡へ展開する形と、中央で2列目の選手が受け、レイオフなどのワンタッチを加えての崩しを図る、琉球のボール保持攻撃の本来の狙いを短い時間で複数回出せている後半立ち上がりとなった。なお53:30からの鈴木が迎えた最大の決定機はこの流れとはあまり関係はなさそうであった。

 これに対して岡山は、ブレずに442の中央圧縮の形を継続。57分の上田投入の段階でベンチからの指示を受けたのか、第二・第三ライン間を閉じることをより強く徹底。ヨンジェと赤嶺を縦関係にして、赤嶺を第二ラインへのプレスバック要員とする形。また、ボールサイドと逆サイドのSHの中央への絞りも前半以上に強く意識しているようであった。極端に外は捨ててしまおうという勢いの中央圧縮。なお、久保田→上田への交代でそれまで中央でプレーしていた関戸が右SHに入っている。後半立ち上がり10分ほどは中央への縦パスが通っていた琉球も、こうなると人口の密集しているゾーンになかなか縦パスを通せなくなり、ほどなくして岡山は守備を落ち着けることに成功した。外から仕掛けたくても仕掛ける術がないのは琉球としては厳しいところである。

 守備が落ち着いた岡山は、攻撃で上田を起点にしたボール保持の形を増やしていく。61:00からは左サイドで受けた上田を起点に左サイドでオーバーロードを形成⇒仲間が左ハーフスペースで上田からのパスを受けてターン⇒中央まで入ってきた関戸とワンツー⇒背後を取ったヨンジェにスルーパスを通しヨンジェがシュートを打つ形で決定的なチャンスを演出。
 そして66:55からの流れ、右サイドに流れたヨンジェのキープから上田が受け取り、逆サイドの仲間へ展開⇒仲間が椋原のオーバーラップを利用し上門との1対1を作り、そこから仕掛けて上門がファール。これで得た上田のFKからヨンジェが頭で押し込んで追加点をゲットした岡山であった。

2-0になってから見せた岡山の落ち着いたゲーム運び

 2点差が付いてしまったことで攻撃の形云々というよりはとにかくゴール前に運んで行かないといけなくなった琉球。すでに63分に越智→上門の交代をしていたが、さらに70分に風間→和田、82分には福井→金と攻撃的なカードを切っていく。

 しかし岡山の中央を閉じた442を攻略することができない琉球。相変わらず中に縦パスを通すことができず、外から運んでの河合や西岡のアーリークロスくらいでしかペナの中にボールを入れる形を作れない。そして琉球がクロスを入れるときには岡山の選手たちが数多くボックス内に集結しており、この流れで得点するにはピンポイントで合わせるしかないが、濱田・ジョンウォンとCBがいずれも185cmオーバーで高さで優位に立っているのは岡山だったのでそれも望みが薄かった。事故を起こしたくても起こせない琉球。ラストプレーの上里のゴール前20mのFKもポストに叩かれた。

 2-0以降の守備は前述の通りほとんど危なげなかったのだが、個人的に好みだったのが2-0以降のボール保持時の振る舞い。もちろん前線が裏を狙える時にはヨンジェと中野(69分に赤嶺と交代)をシンプルに走らせるロングカウンターも狙うのだが、基本的には一度後方に下げて(最後尾の一森まで下げることも多かった)、横幅を使いながらボール保持時間を増やし、さらに仲間のドリブルと上田のキープによる個人のタメを加えることでゲームを上手くスローダウンさせていた。2点リードしている展開で、加えて高温多湿のアウェー戦、わざわざトランジション局面を増やす必要はないのでとても理に適ったゲーム運びだった。

雑感ー2得点に絡んだ仲間のドリブルについてー

・この試合の2得点はいずれも仲間のドリブルから生まれている。単純にキレもあるのだが、周囲を有利にできる戦術的にとても効いたドリブルになっているというところが素晴らしい。個人的には1点目のアシストに繋がるドリブルに特に凄みを感じた。

・下動画の0:07からのシーン、仲間が岡崎と正対し仕掛けようとするところで、左側にも切り込めるようなアクションを見せて増谷を中央に意識させて、増谷の背後でフリーになったヨンジェにパスを通してアシストしている。

・顔を上げてドリブルしているので恐らくヨンジェの動きも間接的に視野に入っていただろう。マークが外れたところで下手に動かなかったヨンジェも見事。

・この試合の2得点でトップスコアラーに並んだヨンジェともども上からの引き抜きがありそうでマジで怖い。


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