水戸戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

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有馬岡山が手本にするべき水戸パイセン~非保持編~

 勝ち点3を積み上げれば6位以内、すなわちJ1昇格のチャンスが現実的に見えてくる水戸と、勝ち点3を積み上げても数字上は可能性があるとはいえ、現実的に6位以内に入るのは難しい岡山。もちろん岡山にもシーズン最多勝ち点の更新、なにより有馬体制1年目となるシーズンの最終戦という舞台装置があるとはいえ、どちらかと言えば水戸の方が「何がなんでも勝ち点3」というモチベーションは生まれやすい一戦。外的要因がなくてもモチベーションを高めるのがプロとはいえ、人間である以上、より明確な外的要因がある方がモチベーションを高めやすいというのは否定できない部分だろう。閑話休題でした。

 そんなシーズン最終戦、ホームだということもあって水戸がスタートからガンガン行くのかと思われたが、立ち上がりの10分ほどは岡山の出方を水戸がうかがうような展開で推移する。

 岡山も水戸もともに基本システムが442である上に、チームとしての狙いも「できるだけ高い位置でボールを奪って攻めたい」という部分で被っていることもあって、岡山はヨンジェ・山本を走らせるロングボールからスタート。CB(濱田・後藤)から繋いでいくのは噛み合わせ上水戸に捕まりやすく、またここ2戦は早い時間帯で失点しているので、リスク管理の意味合いもあって立ち上がりはシンプルな選択をする岡山であった。

 前線を走らせるロングボールで試合を組み立てようとする岡山を受けての水戸。こちらもあまり後ろで手数はかけることはせず、早い段階で前線(小川・清水)をターゲットにしたロングボールを増やしていった。岡山がヨンジェ・山本をサイド奥に走らせていたのに対して、水戸は小川・清水が比較的中央エリアにポジショニングしているところにロングボールを当てていた。

 前線へのロングボール⇒セカンドボールの回収合戦となった立ち上がりの10分を過ぎると、まずは岡山がCB、CHによるボール保持からの前進を試みる。前半の岡山は、CH(上田・喜山)が最終ラインに下りる形をあまり取らず、CBとボックス型でのビルドアップを行っていた。

 普段ならCHを下ろして噛み合わせをズラそうとする岡山だが、あえて相手と噛み合うボックス型でスタートした理由を推測すると、水戸は中央を使ってのカウンターが上手いので、CHが一枚下りることで中央エリアを空けたくなかったからではないかということが一点。もう一点は、岡山のSH2枚、三村とユヨンヒョン(以下ヨンヒョン)にあまりビルドアップ局面での負担をかけさせられなかったからではないか。仲間や関戸(特に関戸)がいるときのように、擬似的にCHの高さでビルドアップの出口になるのは難しい、ならば最初からCH2枚で同じ高さを取ろうとしたのかもしれない。

 そんな岡山のボール保持に対して水戸は、442をセットしての中央圧縮からプレッシャーをかけていく。特に第一ライン(小川・清水)のプレスバック、SH(黒川・木村)が中に絞って岡山のCH(上田・喜山)に襲いかかることで、岡山に自由を与えない。特に水戸のSHはコースを切るように中央に絞って岡山のボールホルダーにプレッシャーをかけるのが上手く、岡山はCHがボールを持つ機会が少なくなっていく。そのため岡山は後方でボールを持ったとしてもすぐに下げることになってしまい、そこから大きく蹴り出すしか徐々に手がなくなっていった。10分までは敢えて大きく蹴っていた岡山だったが、それ以降は蹴らされる形になっていたと言える

有馬岡山が手本にするべき水戸パイセン~保持編~

 岡山の手を前線への放り込み一辺倒にできた水戸は、15分以降は最終ラインと第二ライン(特にCH2枚)のポジショニングを修正して、岡山が放り込んだ後のセカンドボールのほとんどを回収できるようになる。そしてここから水戸の攻勢が始まる。

 水戸のボール前進手段は大きく2つ。一つは立ち上がりに多く見られた、前線へのロングボールからのセカンドボールを回収しての前進。もう一つは、後方でボールを保持⇒岡山のSH(三村・ヨンヒョン)を引き付ける⇒背後のスペースを作り、そこに選手が入り込んで前進していく形であった。特に水戸がセカンドボールを回収できるようになって以降の時間は、後者の形からボールを前進させていくことが多くなる。

 水戸は敢えてSB(岸田・志知)が低い位置にポジショニングしたり、CH(前・白井)が最終ラインに下りたりすることで、サイドの低い位置に起点を作るようにしてボール保持を行う。そして岡山のSH(三村・ヨンヒョン)を前に引き出し、そこで生まれたスペースにSH(黒川・木村)が入り込んだり、FW(主に清水)が下りたりしてボールを受ける。この動きに合わせて岡山のCH(上田・喜山)が横にスライドすれば、中央にできたスペースからボールを展開SB(椋原・増谷)が縦にスライドすれば、背後のスペースに流れてそこでボールを受けることができるようになる。

 サイドに出たボールへの対応は442でプレーするチームのSHに求められる重要な要素であるが、特に左SHの三村は前節の横浜FC戦同様に対応の甘さを露呈。後方(椋原や喜山)の準備が整っていないうちから突っ込みすぎて、背後のスペースを水戸に与えることになってしまった

 20分以降続く水戸の流れからどうにか盤面をひっくり返したい岡山だが、後方からのボール保持は水戸の第一ラインからのプレッシャーに捕まってほとんど前進できず(これは前述の通り)、ヨンジェへの放り込みは水戸のCB(細川・瀧澤)にほとんど潰されていた。ピッチ上でボールを落ち着ける場所を作れない岡山は、ボールを持ってもすぐに失うので、ボールを失った後のトランジション(=攻→守の切り替え)でも水戸に後手を踏む形となっていた

 それでもなんとか一森、後藤、濱田でペナ内で踏ん張ってゼロで耐え忍んでいた前半の岡山。しかし前半終了間際に水戸がゴールをこじ開ける。
41:06、志知の直接FKが壁を抜けてディフレクション、こぼれたところに瀧澤が詰めて水戸が先制。確かにアンラッキーではあるが、壁の作り方はどうだったか。良くない流れの中でも0-0で折り返すことができれば良かったが、リードを許して前半を折り返すことになった岡山。修正は必須である。

無得点では終われない・・・が

    後半の立ち上がりは前半のリピート。岡山の前線に放り込まれるボールを水戸が潰してそこから攻撃に繋げていく。前半は三村の食い付きを利用して右サイド(岸田-黒川)から攻める形が多かった水戸だが、後半は一転して左サイドから押し込んでいく。中央に絞る木村がヨンヒョンや増谷を引き付け、引き付けてできたスペースに志知が攻め上がってのクロスであわやのシーンを作っていた。

    立ち上がりの5分を過ぎると、岡山も前半から修正してきていますよ、という意思を見せるようになる。その心は後方から我慢してボールを動かすというものであった。前半はCB(後藤・濱田)から比較的簡単に蹴り出していた岡山だったが、後半は我慢してボール保持をすることで全体を押し上げようとしていた。全体を押し上げることでヨンジェと山本を孤立させないようにする意図があったと思われる。水戸の第一ラインからのプレッシャーに捕まりかけるシーンもありながら徐々にCBが動かす⇒サイドに広げて運ぶ形も見られるようになってきた岡山は、58分にヨンヒョン→赤嶺。ヨンジェと縦関係の2トップを組んで、水戸の第二・最終ライン間での起点を作ろうとする。これによって山本が右SHに移動する。

    ボール保持の姿勢を強めるようになった岡山に対しての水戸は、無理に前から行くのではなく、442のブロックを作って中央エリアを固めつつ、縦を狙えるときにはパスカット⇒トランジションからのカウンターをうかがう形で試合を進めようとする。赤嶺が起点になるプレーを相当警戒しているように見えた。
岡山はサイドの低い位置を起点に、ヨンジェと右SHにポジションチェンジした山本で、右サイドに抜けようとする動き(⇒右サイドのチャンネルラン)を増やして攻めようとするが、水戸はその動きに合わせて全体のプレスラインを下げつつ、中のスペースを切って外に追い出す守備を徹底していた。

   それでも岡山は、水戸のプレスラインが下がるようになったことでCH(上田・喜山)のボールタッチが増えるようになると、ヨンジェや山本がペナ内に侵入する形も増えるようになる。また水戸の第一ライン(小川・清水)が下がるようになったので、最終ラインからの(⇒特に濱田の自ら運ぶプレーから)縦パスを入れることができるようになった岡山は、74分に椋原→武田拓を投入。左ハーフスペースでビルドアップの出口になる受け方のできる武田拓と、左SBに回った三村が大外から仕掛ける形でのクロスを増やすことで水戸のゴール前に迫れるようになっていったが、ヨンジェも山本も水戸のマークをなかなか剥がすことができず、シュートを打ち切れない展開が続いた。

    80分を過ぎると、両者ゾーン2を飛ばしてのオープンな展開が目立つようになり、両ゴール前でのプレーが増えるように。岡山は82分に山本→久保田を投入するが、久々の公式戦となった久保田は行ったり来たりの展開の中でミスを連発してしまっていた。ATには無得点でシーズンを終えたくない岡山がCKで一森を上げてのパワープレーを敢行するも結局ゴールは奪えず、1-0でタイムアップ。結果的にあと1点取れば6位に滑り込めた水戸だったが、一森の好判断連発によって2点目は奪えなかった。

雑感

・勝ち点70、得失点差+19で7位。これだけの数字を残しながら6位以内に入れなかった水戸。ここ数年のJ2の魔境ぶりを示す数字であるが、本来ならば6位以内に入るに相応しい本当に素晴らしいチームだったことは間違いない。

・縦横をコンパクトに洗練された442による第一ラインからのプレッシングで相手の自由を奪い、中盤でのインターセプト⇒トランジション攻撃。それに加えて、SBを起点にサイドから丹念にボールを保持して相手を引き付けてスペースを襲うボール保持攻撃。守備と攻撃が連動しており、派手さはないが今の岡山が手本にするべきサッカーをしていたように思う。

・そんな素晴らしいチームを作り上げた長谷部監督だが、退任⇒福岡の監督に就任との情報が。水戸としては正念場のオフシーズンになりそうである。

・開幕戦、水戸に442の痛烈なレッスンを受けてスタートした有馬体制初年度の岡山。あのときから格段にチームとして積み上げることができたのは間違いないが、それでも水戸の442の壁は厚く、高かったという印象である。

・仲間、関戸という本来のSHがいなかったのはあるが、SHがゲームに関与し続けられないと442をきちんと運用するのは難しいということを痛感させられる形となってしまった。特に岡山は(水戸も)SHがサイドに張るのではなく、中に絞る形を取るので、攻守両面に加えてトランジション時でも効果的なポジションを取り続けられるかどうかが重要になるが、この日の三村、ヨンヒョンはその点で水戸のSH(黒川・木村)に及ばず消えてしまう時間も多かった。

・それでも途中出場で左SHに入った武田拓のプレーには不動の左SHとなった仲間の残り香を感じたし、ヨンヒョンはまだ若い。SHに代表される形で(⇒あとCB田中の離脱も痛かった)選手層の薄さを露呈する終盤の4試合となってしまったが、有馬体制はまだ1年目。足りない部分は伸びしろだということで、2019シーズン最終戦を閉じたいと思う。


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