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ファジアーノ岡山の2023シーズンを振り返る

 「J2の頂」という、ファジアーノ岡山というクラブにとっては珍しく、現場に対して具体的かつとても大きな風呂敷をファンやサポーターに掲げてスタートした2023シーズン。結果はご存知の通り、13勝19分10敗の10位。J2リーグの優勝はおろか、J1リーグへの自動昇格争いにも年間を通して絡むことができず、J1昇格プレーオフ圏内の6位を伺うのが精一杯というシーズンになってしまった。

 数字として上手く行ったとは到底言えない2023シーズンだったわけであるが、果たして木山監督を先頭にしたチームはどういう戦いをしていきたかったのか。そのあたりを考察して2023年を締め括り、2024年の未来に繋げていくことにしたいと思う。


左右非対称の菱形の意義

 2023シーズンのファジアーノ岡山は、中盤を菱形にしたフォーメーションの4-4-2でスタートした。ただこの形は、あくまでもキックオフ時のフォーメーションであって、実際に岡山がボールを持った時には中盤の左サイドが大外に出て、一方で中盤の右サイドは内側を維持して右の大外はSBが上がることで横幅を確保する。つまり、左右で非対称な動きをする可変式のフォーメーションと言える。

 ここで重要だったのが、今季水戸から加入して左SBで起用された鈴木の動き。中盤に入るいわゆる「偽SB」の立ち位置を取ったり、最終ラインに残って3CBを形成する立ち位置を取ったり(この際、菱形の頂点が中盤に下りることが多い)、状況に応じた立ち位置を取るようにすることで、菱形の底の輪笠とともにチームのボールを保持してのビルドアップ、後方からのボール出しの中心となっていた。

 木山監督が左右非対称となる中盤菱形の4-4-2を採用した理由として、「毛色の異なる両サイドからの攻撃」「ゴール前に入る人数の確保」との両立をしたかったのではないかと考察する。左サイドからはドリブル(⇒中盤の左は佐野や高木、木村といったドリブルでの打開ができる選手)とコンビネーションによる切り崩し、右サイドからはシンプルなクロスによる攻撃というそれぞれ毛色の異なるサイド攻撃を、最低でも2トップ+トップ下の3枚を確保して相手のPA内に入ることで完結させることで、2022シーズンの攻撃力を維持、さらに発展させたかったのではないだろうか。

 個人的な感想で言うと、この左右非対称菱形の4-4-2による戦い方はそこまで悪くはなかったと、シーズンが終わった今でも思っている。GKを使いつつ後方からボールを運んで前進させていくギミックそのものはある程度堂に入っていたモノだったし、何より中盤のオリジナルフォーメーションを菱形にしたことによる、2トップ+トップ下の3枚をスタートにしてボールサイドに絞った高い位置からのプレッシャーの迫力は確かに上がっていた。なので個人的にはもう少し継続した方が良かったのではないかと思っているが、木山監督が早い段階で棚上げせざるを得なかったのも理解できる問題があったのもまた事実であった。

安定しない保持と維持できない出力

 今季のファジアーノ岡山が先述したフォーメーション、システムで戦い切ることができなかった大きな要因として2つある。

 1つ目の要因は「後方からのボール保持を安定させる方策をなかなか打ち出すことができなかった」こと。後方からボールを繋げていく形を昨季よりも増やしていくにおいて、昨季と同じ柳とバイスとで構成した2CBに、GKと中盤の底となるアンカーポジションと左SBとが関わることで後方からのビルドアップのギミックを構築する必要があった。しかし当初のGK+2CBによる保持のスタートではボールの出し入れそのものが安定せずに、アンカーにそのしわ寄せが行くことで致命傷となるようなエリアでのパスミスが起こるようになってしまっていた。

 上手く行く時にはGK+最終ライン→アンカー、偽SBとのボールの出し入れから大外の高い位置に展開するという、チームとして狙いとする形をきちんと作ることができるのだが、後方からのボール保持で上手く行く時と行かない時とが安定しない、振れ幅が激しいというのはどうしても厳しい。そのため、最終ラインのヘルプとして鈴木が常駐しての3CB化、サイドの逃げ場を作るために横幅隊が下りる形などのボール保持における対症療法を増やしていくことになっていった。

 そして2つ目の要因は、「本来かけたかったはずの2トップ+トップ下を起点にした高い位置からのプレッシャーの出力が維持できなかった」こと。木山監督の就任時から言及している「相手コートでプレーする」というのを成立させるには、高い位置からのプレッシャーのギミックがしっかりと出来上がっている必要があるのだが、当初の形としては、前述したように2トップ+トップ下をスタートにして相手のビルドアップに対してサイドに誘導しながら、中盤と最終ラインが近場のスペースを消しながらプッシュアップしてできるだけ高い位置でプレッシャーをかけることを狙いとしていた。

 しかし中盤菱形の4-4-2によるプレッシャーは上手く行けば非常に効果的だが、各自がある程度広いエリアを守ることができて初めて成立するやり方でもある。2トップの組み合わせによって最初の相手のビルドアップに対する規制の強度がまちまちになってしまい、それによって中盤以降の選手たちもどこまで押し上げれば良いのか、ある程度構えるべきなのかの判断が曖昧になってしまうことが多くなっていた。左右非対称の可変式のボール保持のシステムが不安定であったことも、プレッシャーのスタートポジションの設定が曖昧になってしまうことに拍車をかけてしまっていた感は否めなかった。そのためプレッシャーをかける形の対症療法として、中盤をフラットにした4-4-2をスタートポジションにしてそこからプレッシャーをかける形を増やしていくことになっていった。

 (他にも要因はあるだろうが)これら主な2つの要因によって試合内容が試合ごとはおろか一試合の中でも時間帯によって安定しない試合が増えてきたこと、そして昨季のチーム内得点王(16得点)であるチアゴアウベスがシーズン開幕前の負傷から復帰してきたこともあって、勝ち点を増やすことを優先するために木山監督は後方からのボール保持と高い位置からのプレッシャーをかける形の両立プランを一度棚上げ。フラットな4-4-2で高い位置からプレッシャーをかけるというよりはミドルゾーンから引っ掛ける守り方から、チアゴアウベスと櫻川という何もないところからでも得点機を生み出しやすい2トップにシンプルに当てるプランに移行させた。
 しかし元々のチーム編成として、ボールスキルと機動力を両立させた(⇔ぶつかり合いのフィジカルやサイズ重視ではない)中盤を優先するような編成であるため、プレッシャーをかけてのショートカウンターならともかくブロックを構えてのカウンターが不向きであることは否めず。当初の志向を棚上げしてでも手堅くやる形で試合内容を安定させるつもりが、かえって不安定になってしまうことに繋がっていった。

志向と現実の折衷

 試合内容が安定せず勝ち点を積み上げきれないままシーズンを折り返そうかというところで、木山監督は再びプランを修正。フラットな4-4-2をオリジナルフォーメーションとするのは継続しながらも、再び高い位置からのプレッシャーをかける狙いを持たせるようにする。そして自分たちのボール保持においても、守備時は左SBの鈴木をCBに残す形による右サイドを片上げさせた、中盤を2枚のIHと1枚のアンカーで組み合わせる3-5-2にする形で固定。シーズン当初よりも可変式をシンプルにすることで、ネガティブトランジション(ボールを失った後の切り替え)やプレッシャーのスタートの強度を安定させようとした。

 守備時のスタートが4-4-2でボールを持った時には3-5-2になる形という可変式のシステム自体は昨季の最終形態と似ているが、昨季とはボールを保持して前進させる基本的なギミックが異なっていた。昨季は最前線のデュークや齋藤あたりにまずボールを当てて落としたボールや競り合いで発生したセカンドボールを中盤やワイドの選手がプレッシャーをかけて回収して前進させる形がメインとなっていたが、今季は3CBと中盤でボールを出し入れしながらハーフライン付近まで前進させて、そこから大外のワイドの選手への展開や前線の選手を走らせる形をメインにしていた。ロングセカンドがメインとなるのでどうしても間延びしやすかった昨季よりも、今季の形は「上手く行けば」全体をコンパクトにしたままボールを前進させてより相手コートでプレーする形を作りやすくなったと言える。

 なおこの4-4-2↔3-5-2の可変式自体は、左ワイドを主戦場としていた佐野ありきのフォーメーション、システムであったので、佐野のオランダ移籍後は分かりやすく4-4-2になる形が減少。基本的には3-5-2↔5-3-2のフォーメーションで、高い位置からプレッシャーをかける時にはボールサイドのWBがせり出して4-4-2のようになるというギミックに修正された。

 3-5-2をメインとしたフォーメーションによる戦い方に移行してからのファジアーノ岡山は、シーズン当初に抱えていた2つの問題点(前述した後方からのボール保持の安定と高い位置からのプレッシャー強度の維持)に対して、ある程度の解決に成功した。

 まず1つ目の問題点であった、後方からのボール保持の安定について。3CBへの本格的な移行を機に柳が中央のCB、その両サイドのCBに機動力とボールを持って運ぶことのできる鈴木と本山がそれぞれ入ったことによって最終ラインでのボールの動かし方が向上。また鈴木と本山が空いているスペースに自らボールを持ち運ぶことができるので、最終ラインから中盤より前を押し上げる形を作りやすくなっていった。

 このように最終ラインでのボール保持が安定したことによって、中盤-最終ライン間でリンクしてのボールの出し入れを行いやすくなり、中盤で起用されていた輪笠や仙波、田中、田部井あたりのパフォーマンスも安定。ボールの出し入れをする形で全体を押し上げ、そこから相手陣内に入ってPA内に飛び込む形や前線にスルーパスを出す形などでの攻撃貢献も増やしていくことができるようになっていった。

 3-5-2をメインにしてのボール保持で個人的に面白かったのが、2トップを縦関係にすることで中盤と前線のリンクも取りやすくなったという点。これをすることによって、ワイドの低い位置からボール保持が始まった時でも「下りてきた前線に斜めのボールを入れる→中盤に落として逆のワイドの高い位置に展開する」という形を作りやすくなった。また中央のパスコースを一つ増やすことによって、最終ラインから相手のライン間に直接縦パスを通す形を出すことができるようにもなっていった。柳はこの恩恵をかなり受けた選手と言えるだろう。

 ボール保持が安定して相手陣内に入る形を増やすことができるようになったことで、木山監督が当初狙いとしていたであろう前述の「毛色の違う両サイドからの攻撃」と「相手PA内に人数をかける形」の両立も見られるようになっていった。ただし、それで得点力が向上したかと言われると、それはまた別の話。

 次に2つ目の問題点であった、高い位置からのプレッシャー強度の維持について。スタートポジションが3-5-2という比較的馴染みのあるフォーメーションであること、いざという時は5-3-2で構えて守れるというセーフティネットがあること(⇒木山監督がそれを許容したこと)、そしてボール保持の形が安定したこと、これらの要素によって、スタートの2トップがどういう組み合わせになっても思い切り相手のビルドアップに対して規制をかけるプレッシャーを安定して出すことができるようになった。

 プレッシャーのかけ方としては、基本的に2トップが相手の最終ラインでのビルドアップに対して中央のコースを消しながら1stプレッシャーをかけてサイドに誘導、プレッシャーをかけるエリアや自分たちの態勢によってボールサイドへのプレッシャーをWBが縦スライドでかけるか、IHが横スライドでかけるか、どちらかの形を取るようにしていた。なお前者の形だと4-4-2のような形となるのが基本的だが、非常に高い位置からプレッシャーに行く時は3-5-2の形のままプレッシャーをかけることもあった。そして中盤と最終ラインは全体をスライドさせて近場のスペースを埋めることで、できるだけ高い位置でボールを回収する形を作るか相手にボールを蹴らせる形を作るかするようにしていた。

 この守り方、プレッシャーのかけ方に関しても、ボール保持の時と同様にやはり最終ラインの3CBに機動力のある鈴木と本山が入ったことが大きく作用していたように思う。昨季の3CBを構成していた徳元-バイス-柳だと、徳元の左サイドはともかく柳やバイスを走らされた時に、カウンターの形でなくても最終ラインの背後を突かれるシーン自体はある程度見られていた。しかし今季の鈴木-柳-本山の3CBは、そういったシーンは少なくなっていたように思う。背後を潰せる機動力があり、それに加えて縦に迎撃できる強さもある程度持っているので、中央の柳をサイドに出張させないと対応できないようなシーンそのものを減らすことができるようになっていた。

 3-5-2への変更によって、試合内容を安定、さらに向上させることに成功した岡山。方法論としては、「紆余曲折の末、2022シーズンからの継続→発展という本来の正着手に辿り着くことができた」と言えなくもない。そして後半からのムーク、ルカオ投入によるパワーアップというカードの切り方も見出だしたことで勝ち点を積むペースを上げることにも成功した。しかし、最後の最後でブーストをかけることができずに順位を上げきることができなかったのもまた事実であった。

攻撃における「その辺」の曖昧さ

 最後の最後で順位を上げきることができなかった要因としては、考察する人の数だけ思い付くだろうが、個人的には自分たちがボールを持った時の曖昧な感覚、受け手と出し手の関係性や3人目、4人目の動きの連動を最後に詰め切ることができなかったところにあると思っている。それは自陣でのボール保持でもそうだし、相手陣内に入ってのラスト1/3のフィニッシュの部分でもそうだと思っている。

 どういうことかというと、この2シーズンで当事者のサポーターとして木山監督のサッカーを見てきたところで、特に自分たちがボールを持った時において「ある程度の設計図や狙い、動きの形はきちんと示すが、他の戦術的な監督と比べると選手の思考に任せる余白が大きい」部分があると思っている。そうなると自陣からボールを保持して前進させていこうとする形において、相手陣内に入ってコンビネーションで崩してクロスを入れていこうとする形において、それぞれ受け手と出し手の「その辺に出す」「その辺で受ける」の感覚や連動を詰めていく必要がある。昨季はボールの前進手段は最前線への選手へのロングセカンドがメインであったし、フィニッシュの形としても右ワイドの河野のクロスに飛び込む形という、ある程度シンプルにしても問題ない形であった。

 しかし今季のメインのやり方だとそうはいかない。自陣からのボール保持からの前進においても、保持の形としてある程度安定していても、対戦相手によってプレッシャーのかけ方も少しずつ異なってくる中で、ボールの受け手と出し手のそれぞれの擦り合わせの要素が多いと、細かな部分でミスが発生してしまうのも致し方ないのかなと思う。

 また、左サイドからのコンビネーション攻撃と右サイドからのドリブル打開からの攻撃(⇒この点は末吉の加入によって当初の河野によるクロス攻撃から変化した部分)という毛色の違うサイド攻撃を増やせるようになり、相手PA内に入る人数もある程度確保することができるようになったにも関わらず得点力がそこまで伸びなかったのも、最後の部分を受け手と出し手の関係性の擦り合わせに大きく依存している部分に大いに関わっているのではないかと思っている。

 木山監督が大きくアプローチの形を変えない以上、やり方そのものをシンプルにするか、ボールを持った時に絶対的な指針を示すことができる選手を投入するか、来季はどちらかの選択が迫られる時が来るかもしれない。

2023シーズンは失敗だったのか

 最初に書いたように今季の目標が「J2の頂」で、結果がJ1昇格POの6位以内にもかからない10位。数字で見ればそれは失敗と言わざるを得ない。

 ただ敢えて言うと、今季は「当然成功とは言えない、それでも失敗とは言い切れない」シーズンだったのではないかと思う。一時期どうしようもなくなって志向そのものを棚上げにした時期もあったが、基本的には2022シーズンからの継続→発展をというシーズン当初の志向を踏まえてのフォーメーションの作成とシステムの構築、試行錯誤を重ねて、勝ち点を伸ばし切れなかった前半戦から一度は確実に6位以内に入るという、一時的ではあるが一定の結果を出したというのもある。

 細部の粗、細部の擦り合わせをどうするのかについてあくまで選手マターなのか監督が介入する余地を増やすのかという大きな課題は確かにあるが、ボール保持からの前進の形とプレッシャーをかける形との両立は間違いなくできてきているし、それによって試合ごとの内容に関してもある程度高いレベルで安定するようになってきている。その点に関しては昨季よりも向上しているのではないかと思う。来季に向けて、監督もそうだが、中盤と最終ラインの今季のコア部分を担った選手がほとんど契約更新したというのも大きい。

 成功とは言えないが、失敗とも言い切れないシーズンを糧に、2024シーズンを誰がどう見ても成功と言えるシーズンにできるか。2023シーズンの合否は、ある意味で来季にかかっていると言えるのかもしれない。

2023シーズンの個人的ベストゲーム

第34節 ホーム仙台戦:焦れずに我慢強く主導権を離さずに進めたこと、後半のパワーアップで勝ち切ること、今季のやるべき形が一番表現できた試合

2023シーズンの個人的ベストゴール

第36節 ホーム磐田戦 37分 鈴木喜丈:ボールを保持して全体を押し上げる、ピッチ全体を使ってサイドからサイドへの展開、左サイドでのコンビネーションでの崩し、文句無し

2023シーズンの個人的MVP

背番号5 DF 柳育崇:決してバラバラなどではない、熱量を持ったチームをしっかりと作り上げた。あらゆる面で個人の技量を高めていたのもGood


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