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先日、行政書士のとある勉強会・・・

先日、行政書士のとある勉強会に参加してきました。

テーマは、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」(令和6年2月9日・関係閣僚会議決定)を読み込んで、新たな制度に関する政府の今後の動向を展望するというものでした。

新たな制度とは、「育成就労制度」のことです。

外国人の在留資格の申請取次は行政書士の大事な仕事の一つ

これまで何かと問題点を指摘されてきた「技能実習」という在留資格は廃止され、新たに「育成就労」という資格が創設されます。法案が可決されれば、公布の日から3年以内の施行を目指すということですから、遅くとも2027年度までには施行されることになります。

これまでの技能実習制度は、「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う“人づくり”に協力すること」(厚労省HPより)が目的でした。

一方で、新設される育成就労制度は、就労を通じた人材育成と人材確保を目的とするもので、人手不足が深刻な分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成のためのしくみと位置付けられていますから、政策の大転換です。

穿った見方をすれば、いずれも人手不足の解消が主たる目的の制度ではあるものの、かつては建前上「他国の発展を支援する」と云い放っていたものを、いよいよ「自国の発展を維持する」ためのものと位置づけざるを得なくなったと云うわけで、ここにわが国の現状が如実に表れています。

(しかし、改めて「技能実習」に関するわが国の説明を読んでみると、今日の社会情勢や日本の置かれた状況を顧みて、些か傲慢で気恥ずかしい気がしてしまいます。そう感じるのはわたしだけでしょうか。)

外国人材の活躍が日本の経済成長には欠かせない

今般の法改正で多くの方が気にされているのが「育成就労」における受け入れ職種の分野がどうなるかということ。人手不足で外国人材に頼らざるを得ない業界ではとても気になる論点です。

これについては、技能実習2号移行対象職種のうち、対応する特定産業分野が設定されているものについては、当該分野が特定技能制度において外国人材による人材確保が必要な分野と認められることを前提に、育成就労制度においても、原則として受け入れ対象分野として認める方向で検討され、それ以外の職種については、制度の趣旨や目的を踏まえ、特定産業分野への追加の要否や対応等について、業所管省庁と業界団体等との連携、調整を政府全体で促進していくと説明されています。

一度では理解しきれない文章ですね、ハイ。

掻い摘んで云えば、今まで認められていた分野で、今後も必要性があると認められれば原則認められるということです。それ以外の職種については、業界団体がその必要性を業所管省庁へ積極的に説明してくださいね、内容によっては認められる可能性がありますよ、と云ったところでしょうか。今後も議論は続くようですが、すべてが認められるというわけでもなさそうです。

一つ留意しておくべきは「必要性」と云う文言です。

国が強力にDXを促進している今、DXにより効率化が期待される業務分野の採用を説得することは、些か難しいかもしれません。というのも、そうした業務は、人手を頼らず、一先ずDX化を検討すべしということになると思われるからです。

このように大きく見直される技能実習制度ですが、今回、同文書の中でわたしが一番着目したのは、「外国人の人材育成」について記された箇所の、「業所管省庁は、育成就労制度及び特定技能制度の育成・キャリア形成プログラムを策定する」という一文です。

プログラムの詳細な議論については、これからのようですが、「育成」を謳った在留資格ですから、就労のために来日する外国人材のその後のキャリアのあり方までを深く議論してこれを明確にしプログラム化しておくことは、制度設計の根幹に関わる課題だと思います。

いずれにせよ、対象となるのは自分の息子や娘と同様に将来に夢と希望のある若者たちです。そうした彼らのキャリアに思いを馳せて受け入れるべき体制を整えておくことは、云うまでないことでしょう。

永住許可制度の変更は外国人材のキャリア形成に大きな影響

今般、育成就労法の制定が目指される中、併せて、入管法の一部改正によって永住許可制度の在り方も議論されています。許可要件を一層明確化し、その基準を満たさなくなったら取り消しができるようにするというものです。

この永住許可も外国人材のキャリア形成の議論において欠かせない論点と云っていいでしょう。永住許可は、長期に就労していれば、日本における行動の制約や手続きの点からも必ず視野に入ってくるものです。

これまで永住許可は犯罪等余程のことがない限り取り消されることはなかったのですが、同案によれば、今後は納税や年金などの公的義務を果たしていないことなども取消要件となります。

この点について、人権の観点から諸々論議のあることは承知していますが、同案に目を通してみた限り、わたしにはそう違和感のあるものではありませんでした。

却って、許可要件がより一層明確化されれば、基準がはっきりする分、外国人材にとって許可を得やすくなる可能性さえあります。そうしたことから、取消要件については今まで以上に厳しく設定することにしたということなのでしょう。このことは、日本で腰を据えてまじめに働く外国人にとって、強(あなが)ち悪いことでもないように思えます。

外国人材が増えれば、永住許可を希望する者の絶対数も必然増加することでしょう。加えて、許可要件の一層の明確化により、その速度はますます加速することでしょう。それを見越して、日本で働く外国人材にも、同様の公的義務を確実に果たしていただくようにするための法改正は、サスティナブルな社会保障制度の観点からすれば、当然のことだと思います。

だからこそ、わたしは、その前提として、外国人材の育成・キャリア形成プログラムの策定にあたっては、小手先ではない、本質的な議論を期待したいと考えます。

一生懸命働く在留外国人を支援する行政書士として節にそう願っています。

以上

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