〜社長に騙されて赤字美容室を400万(税抜き)で買わされた31歳美容師の珍道記〜 その②
僕はその約2年かかっていない美容室を正社員になった瞬間に辞めたというか、
逃げた。
まさに逃げた。
昼ご飯買ってきますと言って荷物や道具をそのままにそのまま帰らなかった。
当然ながら先輩やお店、同期などから携帯に恐ろしい程の回数の着信が入っていた。
なぜ逃げたかって?
理由はこうだ。
いつも通り店のバックルームでカラーカップなどの洗い物をしていた時、24、 5歳位のかわいい女性スタイリストの先輩のカバンから給料明細がはみ出ていた。
多分これは会社側からすると先輩としては絶対にやってはいけない事だったんだと思う。
総支給で137,800円。
僕はただただ唖然とした。その女の先輩は、自分から見ると、身長は低いが当時流行っていたミニモニのメンバーにそうな可愛らしい顔立ちの天真爛漫ないつも明るいハキハキとした女性だった。
ただいつも手が荒れていた。赤ぎれやなんかで、指先にはいつも血がしみ出ていた。
そして顔の肌荒れがいつも気になった。傍目から見てもきつそうだった。
アルバイトの自分よりも仕事が終わった後などに練習や休みの日に出てきて、夜遅くまでレッスン。
休日は技術向上のための講習勉強会。
いつ自分の時間があるんだろうといつも不思議に思っていた。
先輩はいつも明るく笑っていたし充実して見える感じもあったのだが勤めて5年目位のこの先輩の給料明細は自分にとっては恐ろしかった。
この会社でこのぐらい長い期間頑張っても所詮手取りはこんなもんなんだ。そしてその当時の僕は根暗というか卑屈で不器用。
シャンプーもできず、シャンプーができないだけで同期に比べて遅れをとっていたことで、とても焦っていたし泣いてしまう日もあった。
今考えると笑えてくる。それからシャンプーなんて死ぬまでに何万回とするのに。
勤めていた店長や優しくしてくれていた先輩などにも
「入職する前に何かしていた今やっといた方が良いことがありますか?」
と聞くと、先輩たちは口を揃えて「とにかく遊んどいたほうがいい」
とまるで、これから死刑宣告がされる前かのような答えが返ってくるばかりだった。
みんないっぱいいっぱいだったんだと思う。それだけは17、18歳の若造の自分にも伝わった。
そんなわけはないのに、このまま一生この感じが続いて死んでいくんだなぁと目先が真っ暗になった。
それから店を出て直接原付に乗り家に帰った。
そして初めて親にも泣き付いたもうあそこに戻りたくないと。
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