僕が病気になった話

 こちら、書くかどうか迷った。自分の中でも相当、相当に辛いものであったからだ。しかし、自分の中で整理をつけるため、今はもうそんなことはない、と声を大にして言うためにけじめのつもりで記載する。
と同時に、もし同じような悩みを持っている人がもしいたときに、乗り越え方などを単純に連ねたいと思う。

結論、僕は精神疾患になった

 僕は当時、大学一年生だった。大学に入って初めて、一目惚れをしたのだ。美しいと思った、他の人にはない儚げな雰囲気、笑顔を誰にでも振り撒くわけではないその凛としたところも含め、外見だけでなく、その人のまとう空気感を含めて一目惚れをしてしまったのだ。
だが僕には、あまりにも恋愛では障害となるものを抱えていた。

   僕は、トランスジェンダーだった。

 身体は女性だが、心は生まれた時から男性とも女性とも自分の中では置き換えることのできないものだったのだ。幼少期は自分が何者なのかわからずに化け物だと思っていた。
 あまりにもそれは孤独な時間だったと、今になれば思う。今ではXジェンダーというどちらでもない自認である性別が存在しており、有識者の中ではかなり認知されているものとなっている。しかし、本人たちからしても周囲からしても、理解されにくい特性極まりなかったのだ。

 僕はその子と仲良くなった。というのも、コロナ禍真っ最中でなかなか会うことができなかったので、毎日のようにLINEをしていたのだ。
その中で、ふとしたとき、私は彼女の違和感に気づくことになる。
 彼女も、精神的にかなりのものを背負っている。言語化するには難しい、とても大きなものを背負っていることだけがはっきりとわかった。だがしかし、自身の内面を話したがらない傾向があったので、僕は時々に気にかけるくらいに留めた。

 どうやら、彼女はご家族のこと、自身の内面に対して相当の深刻なものを抱えていたようであったらしく、授業の内容がそれを刺激するものだったのだろう。その時は非常なまでの落ち込みを見せていた。
(彼女の尊厳を傷つけないためにも、彼女のご家族のことや彼女自身が抱えている心の闇については省略させて頂く。あくまでも僕の話なので。)

 僕は彼女のことが本当に本当に、心の底から大好きだった。全てから守りたかった。そのために自分の人生の多少を捧げる覚悟などとっくにできていたのだ。そして、僕は初めて彼女からの相談を電話で受けた。辛い心情を察し、力になりたいと思い電話をかけたところ、快く応じてくれたのだ。

 彼女は今まで抱えてきた不安、家族のこと、自分のこと、沢山泣きながら話してくれた。
そして、僕と話すことで救われる、と言ってくれたのだ。僕は、とても嬉しかった。ずっと心の支えになりたいと思っていた。願っていた。
僕が彼女の心を少しでも軽くできたのであれば、それ以上に幸福なことなどなかったのだ。

 それ以来、グンと距離は縮まったと思う。彼女も辛い思いをすぐに教えてくれるようになり、僕も必ずそれに全力で支えることを約束し続けた。僕にとっては彼女が少しでも笑顔で生きていくことが何よりの望みだったのだ。
 ここまでくると、きっともう恋愛ではないのだろうな、と思う。当時の僕はそんなことどうでもよかったのだ。

 そして、ついに僕はやらかしてしまう日が来たのだった。ぼくのあまりにも浅慮な「好きであることを伝えたい」という気持ちから、急な告白をしてしまうのである。
 彼女は相当に驚いていた。だが、優しかった彼女は「嬉しい」と言ってくれた。それに甘んじていたのである。
 彼女からしたら、同性の、しかもずっと相談しずっと信頼していた相手からの告白を受けたのである。それが彼女の負担にならぬはずがなかった。

 少しずつラインが冷たくなっていって、それが僕にはわかってしまい、直接しっかりと話すことに決めたのだ。
 そして、大学終わりの三年生の秋、僕は彼女と講義終了後に話し合いをした。ずっと泣きそうな顔をしながら僕の話を聞いてくれていた。
だがしかし、「あなたの気持ちを知っていたら、相談をしたりはしなかった。」と、そう辛そうに話した。

 私のことを、本当に信頼していたからこそ、相談し悩ませるようなことはしたくなかったという彼女なりの優しさからの言葉であろう。
 僕はそれを知って、なんてことをしてしまったのだろうと思った。

 ずっと守りたいと思っていた人を、僕が最終的に傷つけた。僕が、彼女から僕という「信頼できる友達」を失わせた。僕は自分の手で相手を泣かせそうに、気まずそうにさせてしまった。

 僕は罪悪感から、何度も何度も謝ってしまった。だが、その罪悪感は逆に彼女にも罪悪感を抱かせる原因となり、「もう謝らないで。」と言わせてしまった。
 彼女もきっと、少なからず自分を責めた。そんなことはとうにわかっていた。彼女の性格はよく知っていたのだから。

 そしてその夜、僕はおかしくなった。トランスジェンダーである自分を責め続け、人を好きになった自分を責め続け、好きだった人を傷つけたことを責め続け、彼女が優しいことも傷つきやすいことも知っていたのに負い目を感じさせてしまった自分を責め続け、僕は、心のそこから死を望んだ。

 気づけば僕は家族に半強制的に病院に行くように言われ、流れるままに診察を受けた。結論、双極性障害と診断された。たったのあの一つの出来事が僕を精神疾患にしてしまった。

 あれからもう二年半以上も経つ、彼女とは卒業以来疎遠である。二度と関わることはないだろう。もちろん、嫌いになったとか、そんなことは一切ない、お互いがお互いを嫌いでないのに、好きの種類が違うがために傷つけあってしまうことが容易にわかるからだ。だから、会えない。

 僕は今でも、後悔している。人を好きになってしまったこと、一目惚れから彼女に深入りしてしまったこと、そしてその結果、1番恐れていた自分の手で彼女を困らせてしまったこと。僕が病気になったのは、完全に僕の責任であって、それに何も言い訳はできない。

 現在は仕事もまともにできず、卒業して二年半の間に2回も休職している。それでも、今このことを引きずっているかと言われたら、微妙である。
 彼女のことはもう恋愛的に好きではない。それは断言できる。だが、今でも大切な人であることにもまた変わりはない、僕の負い目は死ぬまで続くのだろうが、今はそんなに辛いとは思っていない。病気による波はもちろんあるものの、過去の出来事がフラッシュバックしたりとか、そういったこともほぼなくなっていった。

 ありきたりな発言になるが、恋愛で何かがあった際、人によっては簡単に壊れる。命に関わるほどに。だが、しばらく距離を置いて、しばらく時間を置けば、自ずと回復はしていくものである。それはきっと私だけに言えるものではないはずだ。

以上が僕の病期になるまでの全容だ。
どこかに掲載したことも、親しい友人以外にこの話を知る者もいない。こんなことで、こんなもので人は簡単に壊れるのだ。

僕はそれをいつか書きたいと思っていた。
そして昇華したかった。今、初めてそれが叶ったように思う。当時誰よりも大切だったその方と読んでくださった読者の方に感謝の意を持ち、この話を終わりたいと思う。


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