【超短編小説】 またひとつ
「知りたいんだ、君のことが気になるから」
そう言ったものの、僕は何ら分かってはいなかった。
なぜなら、僕は君にはなれない。
どんなに君のことを分かろうとしても、
僕というフィルターを通してしか理解できないからだ。
それは、”解釈”という言葉で表現されるものと等しかった。
そう考えた時、僕は君のことを本当は理解できていないじゃないかと思った。
知ったかぶりをして本質は見えていないのかもしれない。
もし、そうだったとしたら、僕は君のことをいつまでも分かり合えないのだろうか。
僕は君に何ができるんだろう。
「すべて分からなくても良いの。知ってもらいたいし、分かってもらいたい。多くは望まない。あなたに少しでも理解してもらえたら、それだけで良い。ただ、それだけ」
君はそう言って、少し笑った。
またひとつ、僕は君のことを理解した。(完)