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なにもかも吹き飛ばしつつうつとりとゆきたいきみの南隣りを
いちにちを脱いではあをき水たたへ何を育てに入る夜の壺
君知るや名残りの花のはなざかり
魂の地獄が、歌にはふさわしい。(岡井隆) キタダヒロヒコ 底冷えの朝わたくしの最も浅いところから凍ててきてゐた 今はなき店のチャーシュー麺のブタころされるとき痛かったろうな とむらへば灰あをぞらにながれゐて光といふことばが口を衝く
なつかしいような 不安なような夢をみたが もうどんな夢か忘れてしまって そこに漂っていた香りだけをおぼえている たぶん そんなふうになるのだろうとおもう 永い永い年月の彼方の痕跡なのに 一瞬でその場所に還る なつかしいとまどいとよろこびに その音はいつでもなんの前触れもなく わたしの前に来て鳴っているのだ
いさかひを夜が聴いてたしんしんしんしんしんしん窓が開いてた瞳のやうに
火の速さで近付いてきて去った影はどの雲かもう分からないけど
うふすなのうみにやすらふおれたちのかくもやさしき祖国こそ散れ
新年の楽しみな予定。 「教育文芸みえ」(休刊から早や10年以上…全国でいちばん最後まで残っていた教職員の文芸誌でした)の短歌欄でつながった皆さんと、1年ぶりの歌会をします。 1月5日しめきりで、ひとり3首の出詠。とりまとめ役はわたしです(笑)。皆さんの歌が楽しみ❗わたしキタダはといえば…今のところできたのはなんだかうら悲しい歌ばかりなので、旧作も交えて「この歌がどう読まれるか?」というのを出したいと思っています。 大正九年盲ひし祖父のまなうらの大正九年の蝶のはためき
あなたに見せたい言葉がある あした あなたに贈りたい また一篇の詩 あなたはいつも読書の手を停めて わたしからの言葉に目を落してゐる そしてなんの飾りもない すきとほつたクリアファイルごと持ちかへる あなたの部屋のどこかに わたしの言葉が蔵はれ しづかに積もる ああわたしのどの言葉が あなたのなかに残つてゐるか 刺さつてゐるか 刻印されてゐるか TATTOOのやうに 鈍感をよそほひ あなたはわたしの目論見を おそらく知つてゐよう のびやかにもひつそり潜く海女
蜻蛉玉は覚えてゐる 1200度の息を吹き掛けられ ぽとり、と落ちた日のことを 自分を吹き落とした男の顔を かつてわたしは紙とインクであつた 一冊の詩集であつた またかつてわたしは 二足で歩行する獣の骨だつた またかつてわたしは 難破船のマストの古い柱であつた 電話機だつた 皿であつた うねる高温の 吹き矢の先で わたしたちはみな 硝子のしづくとなつて 昇華した 冷たい星を 記憶したまま 信じられぬ速さで 冷えた 誰かが わたしたちを 手に取り その体温に
この喪失感のおかげで 詩がいくつか書けた それは美しいことだが 呼吸のしっぽがみじかくなって 淡い雲がいつも頭の中を充たし すこし遠いその街のことを想う毎日 あてどなく漂っていた言葉が やわらかな渦を巻いて ほろ苦く甘く 私の知己の身辺を醸す それは 嬉しいことではあるが (2013.12.13)
夜毎に募る言葉らよ 密やかで艶やかな内心に 縺れあふ 恋情のぬばたま ひび割れの 奈落の底に落とし込む なつかしい衝動 昼の世界からの しづくを わづかずつ吸ふ 栽培する ただひとつだけの思ひ 夜なのか昼なのか 表なのか裏なのか ひるもよるも、うらもおもても ただあこがれと情慾の 君のかたちに 透きとほる容器。
君はふむはじめての雪たたなづく飛騨路の朝に薄く化粧ふを 朴の葉のうらじろの葉に焼く味噌をうまらに食ひき飛騨の宿ゐに 化粧ふ=けはふ