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アメリカンニューシネマ 「イージーライダー」「いちご白書」


 アメリカンニューシネマの主人公たちは、ヒーローでもなければ、絶世の美女というわけでもなく、みな市井の人たちである。アメリカンニューシネマは、反体制的な人間(主に若者)の心情を綴った作品群を指し、先ほどの主人公たちは時代の波に飲まれながら自分と向き合い、新たな展開を生み出すところに最大の見所があった。
そしてどの作品にも当時の若者の意見を代弁した等身大のテーマがあった。
 気ままに生きる「イージーライダー」は、長髪で髭を蓄え、大型バイクで大陸を走る。しかし、最後は保守的な男(社会)に撃たれる。
 悪党は悪党でも、もっと金持ちの悪党から金を奪う「スティング」のどんでん返しはいつ観ても痛快だ。
 同じ悪党でも「俺たちに明日はない」「明日に向かって撃て!」といった悪党にスポットを当て、無軌道な行動ながらも硬い友情で綴られた儚さ。死という明日しかない悪党の笑顔が画面に広がる。
 ニューヨークの底辺で生きる男。破滅的な末路を迎える「真夜中のカーボーイ」や「タクシードライバー」の狂気はアンハッピーエンドだが、誰もが陥るかもしれない現実として共感できる内容だ。

 もともと「風と共に去りぬ」や「ローマの休日」に代表される黄金のハリウッド映画は、栄華に満ちた古き良き時代のアメリカを代表する作品で、予算をかけて観客に夢と希望を与えるハッピーエンドを世に送り出していた。しかし時代も変わり、ベトナム戦争や不況の波が押し寄せるとアメリカ国民は次第に国に対して懐疑的になって行く。
そんな中、映画も楽しむだけのものから表現の一部という認識に変わり、若者が低予算で制作する映画が増えていく。そしてそこに世の中の懐疑的な部分を訴える内容が多く盛り込まれ、若者たちの共感を生んでいった。
しかし、作品はただ世の中に反抗するだけの内容ではなく、最後は結局体制に潰されてしまうというオチもつく。それは暴力や法を犯すことしか解決できない若者だから、その結末は現状の世の中では「こういうオチになります」ということを提示する。つまり、「不条理」を訴えているのだ。
 ちなみに、アメリカンニューシネマは、1960年後半から1970年半ばまでの限られた作品を指す。この期間・・・ベトナム戦争とリンクしている。だから、ベトナム戦争終了と共に反体制の意見が弱まっていき、その証拠に1970年代後半のアメリカ映画は「スターウォーズ」や「未知との遭遇」といったSF作品や「キャノンボール」のような娯楽作品といったハリッウッド大作に戻っていくのだ。

 アメリカンニューシネマは、テーマや映像の斬新さも去ることながら、音楽が良い。
 特にお勧めは『イージーライダー』(1969)と『いちご白書』(1970)だ。

『イージーライダー』のサントラは「ワイルドで行こう」でおなじみのステッペンウルフやジミ・ヘンドリックス、ロジャー・マッギンがサイケデリックな映像に合った曲調から寂寥感溢れるバラードまでラインアップされている。そしてこのアルバムには60年代末の多様な音楽が満載である。しかし、難を一つ言わせて貰えば、夕闇の荒野のシーンに流れる「ザ・ウェイト」はザ・バンドのヴァージョンが欲しかった。スミスというミュージシャンが演奏しているが、レヴォン・ヘルムやリック・ダンコのヴォーカルでないとあの雰囲気は出ない。少々残念である。

 そして、『いちご白書』。
ノンポリの男子大学生が学生運動の女性リーダーに惹かれ、いつしか運動に参加していく。そこで芽生える小さな恋。どんな状況であっても愛しく想う人との時間はかけがえの無いものなのだ。しかし、結末はバリケードを粉砕され引き離される2人。
正しいと思っていたことが、実は社会的には許されないという不条理さ。今の時代にも通じる作品である。その音楽は何と言ってもバフィー・セントメリーの歌う「サークル・ゲーム」である。作者はジョニ・ミッチェル。
子供が大人に成長する過程を希望、美しさと共に、もう戻ることが出来ない寂しさ伝える秀作だ。
We’re captive on the carousel of time
We can’t return
We can only look behind from where we came
And go round and round and round
In the circle game

他にもニール・ヤング「ローナー」やクロスビー・スティルス&ナッシュ「ロング・タイム・ゴーン」、
そして絶望感漂うクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング「ヘルプレス」・・・。
レノンの「平和を我等に」をシュプレヒコールと共に叫ぶ学生たちに、警官隊は容赦なく突っ込んでいく。
音楽と映像が一体化した作品である。

 ハリッウッド作品のような流麗なストリングスや荘厳なブラスがある映画音楽ではないが、メッセージ性が高く、音楽も台詞の一部となっているこの2作品を映画と共にお勧めする。

2016/8/22
花形

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