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おっといたのかん。宮崎県小林市。グーグルマップをゆく #67

 グーグルマップ上を適当にタップして、ピンが立った町を空想歴史散策する、グーグルマップをゆく。今回は、宮崎県小林市。

 つい、一つの県は一つの文化で出来上がっていると考えがちになってしまう。しかし、南北で文化が違うということを、全国の都道府県でしばしば見受けられる。

 宮崎県の南西部に位置する小林市も例外ではない。宮崎県の北側は、「天孫降臨の高千穂」を有しているためか、神話的な香りがする。しかしながら、南側は元は薩摩藩領だったこともあり、神話的な香りというよりも少し異国の香りが漂っているように思う。

 小林市をマップ上で見ていると、「田の神」という文字が多いことに気づく。「田の神」とはその名の通り農業の神様を指す言葉であるが、鹿児島県では、「タノカンサア」(田の神様)と言って、田んぼの横に特有の石像を祀るもので、いつから始まった習慣かはわからないが、古い石像で江戸の中期ごろのものが現存している。

 タノカンサアは宮崎県の北側では見ることがないが、小林市をはじめとして南側、つまり薩摩藩領だった地域では多く見られる。鹿児島県では「タノカンサア」と表記されるのに対し、宮崎県では「たのかんさあ」とひらがなで表記されているように思うのは気のせいだろうか。ヨソモノにとっては肌感覚としてわからない微妙なニュアンスなのかもしれない。

 小林市は、「おっといたのかん」という風習があり、「おっとい」とは「盗む」と意味し、「田の神様を盗む」ことを「おっといたのかん」と言う。これは、田んぼが不作だった場合に、豊作であった田んぼに設置されている「たのかんさあ」を夜な夜な盗んで自分の田んぼに運んで、豊作になったら返すという風習である。「盗み」ではなく、「借りる」ではないか?とツッコミを入れたくなってしまうが、これもまた微妙なニュアンスがあるのかもしれない。

 小林市では、「おっといたのかん」という紙芝居が製作されていて、自分の田んぼだけが豊作でいいというわけではなく、「たのかんさあ」が他に連れて行かれても、戻ってくるまで待てば良いし、みんなが豊作になって幸せならいいじゃないか。という教訓を説いている。

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